家族会議と進む恋

 ある月夜…吸血鬼一家の皆はタカエが寝静まったのを見て3階の部屋に移動した。

 因みに長男のギルベルトは買い物に行かせた。


 こんな夜更けでも人間の物を売ってくれる魔族の仕入れ屋が最近この辺りに期間限定で訪れているらしくギルベルトは財布を持ち出かけて行った。


「タカエにもっと美味しいもの食べさせてやりたい!!安く手に入ればいいんだがな!…じゃっ!行ってくる!」

 と霧になり出かけて行った。


 3階の居間に皆は集まり相談した。


 父のファビアンが最初に口を開いた。


「………ギルベルトの奴…あれ完全にタカエにグラグラきているな」

 すると弟のフランツも


「兄上は何も気付いていないようですがね。恋をした事がないので」


「おや…フランツお前さんはした事があるのかい?」

 と少女のような祖母が言う。


「僕?そりゃあ…初恋くらいは」


「あらフランツも大人なのね!誰よ?叔母さんにも教えてよ!」

 とエミ叔母さんが楽しそうに言う。


「嫌です。初恋とは胸に秘めておくべきものです!ベラベラ喋るなんて…特に叔母さんには知られたくない」

 とフランツは断った。

 母のコルネリアは


「フランツちゃんより今はギルちゃんよ!最近は夕方には起きて少しでもタカエと喋って人間の料理や文字を教わってる見たいよ。と言っても異世界のタカエの国の文字や料理だけどね」


「我々が人間なら夕食を共に出来るんだがな…。しかしそんなの習っても意味ないのにな」

 と父が言うとフランツは


「でも兄上とっても楽しそうだよ?兄上が金以外でウキウキしてるの見るの初めてだよ。自分じゃ恋してると気付いていないだろうけど」

 とため息。


 祖母のマルレーンは


「タカエの方はちっともだね。ギル坊の一方通行だろう。全く魅了が効かない娘とは流石異世界人だね。ギル坊もそれなりにいい顔なのにのぅ」


「ええ、母さん。ギルベルトは私の若い頃に似ておりますからね!女の子にモテないはずは無いのですが…もしやタカエの好みの顔ではないのかもしれませんね」

 と父が言うが叔母は


「そうかしらねぇ?遠慮してるんじゃない??ほらよくあるあれよぉ!ご主人様とペット的な位置関係?」


「なんだか叔母上が言うとやらしくなるからやめてよ…」

 とフランツが困惑した。


「ギルちゃんて基本お金にはシビアなのに何であんなに鈍いのかしらねぇ?」

 と母が言うと父は


「コルネリア…そこは君に似たのではないかな?若い頃君に私はずっと想いを告げていたのだが…私の気持ちに気付くのが物凄い遅かったし私を好きになるのも物凄い遅かった!!」

 と言うと母は


「あら、そうだったかしら?今はこんなに貴方が大好きよ?ファビアン!」


「コルネリア!!嬉しいよ!!」

 とイチャイチャし出す二人に祖母が鬱陶しそうに


「あんたらはいいんだよ。ともかく…タカエはやはり元の世界に戻りたいならギル坊の失恋はもはや確定だね…どうする?新しい魔族の嫁を探すべきか…」

 と言うと母は


「ええー?ギルちゃんにもちょっとくらいチャンスはないのぉ?それに帰れる保証はないわよぉ?勇者ちゃん一行だって強かったら私達もピンチよぉ?」


「勇者か…人間の王子だったかな。アホだったら正面から乗り込んであの玄関の罠に引っかかるだろうけどな…」


「あれ作動させたらお金かかるからってギルちゃん煩そうね」


「でも勇者がアホだったら落とし穴に落ちて捕らえて魔王様の所に持っていけば褒美も貰えるかも!ついでにタカエも元の世界に戻れるチャンスだよ」


「所で…そのタカエの世界をあのスマホとかいうのに入っているシャシンでいくつか見たが…凄い世界だったね…あたしゃ行ってみたい…死ぬ前に旅行がしたい!」

 と祖母のマルレーンはうっとりした。

 するとフランツが


「それだよ!!アホの勇者を捕らえて魔王様に異世界へと繋げて貰ってさあ!行き来できるようになったらギル兄上も失恋しなくてもいいかも!」

 と言うと皆おおおおっと歓声が上がったのであった。


 *


 俺はタカエが眠っているうちに人間の物を売っていると言う魔族経営の移動店に行って食料や衣類、服を、買い込んだ。大きな袋に詰めて背負う。


 蜥蜴頭の魔族の店員が


「人間の物を買ってくれる魔族なんて珍しいね。まぁたまにそういうコレクターしてる魔族もいるからあっしもこの商売やめられねぇんでさぁ!」

 と蜥蜴頭の店員が金を受け取る。

 すると売り子の悪魔族の女が寄ってきた。


「その銀の髪と赤い目は美形の多い吸血鬼一族?わぁ!素敵!」

 と紫の髪をした悪魔女が住処を聞いてくるから鬱陶しくてさっさと離れる。


「ああ!お兄さん待ってよぉ!お金あるなら遊んでかない?いい思いさせるよ?あたし…夢魔だし♡」

 とウインクする。


「遊ぶ金はない!!離れろ!!」

 しつこいので霧になり逃げた。


「ちっ!惜しい!いい男だったのに!店長!今度あの人が来たら直ぐ教えてよ?」


「まぁあの旦那は良く買ってくれるお得意さんだからあまり手を出すなよ?リコ…」

 と店長は釘を刺す。


 *

 屋敷に戻り買ってきた物を棚に綺麗に収納したりタカエが起きたら渡せるようにしておく。


 近頃タカエからタカエの世界の文字を教わっている。ニホンゴというものでまだヒラガナとかいうのしか教わっていないがカンジとかいうものもあるらしい。ヒラガナをマスターしたらカンジだな!


 ううん…まだ夜中の3時か。タカエは当然眠っている。まだ起きないのか。文字を練習するか?タカエに料理を作るべきか。


 なんだか最近タカエといるとソワソワするんだよな。


 そう言えば文字を教えてもらう時に結構密着するけどタカエは自分で作った石鹸やシャンプー?とかいうののせいか…なんかとてもいい匂いがするのだ。タカエは元の世界で貧乏だったからよく自分で手作りの石鹸やシャンプーを作っていたそうで慣れているらしい。材料さえあったら作れるから俺もそれを集めたら喜んでいたからな。


 タカエが起きる夜明け前に俺たちは地下の部屋で眠る。タカエと朝すれ違うことは少ない。俺は今日はもう少し起きていてタカエの顔を見てから眠ろうと思った。

 だからフランツが


「ギル兄上…もうすぐ朝だから眠ろうよ。この屋敷がいくら朝日が入らない構造でも…寝不足は辛いよ?」

 と声をかけられたが


「ああ。判ってる。も、もうちょっと起きてるからフランツは先に寝なさい。今日買ったパンをこねておこうと思って」


「いいけど…それはタカエの朝食?」


「他に何があるんだよ。俺は食えないからな…」

 材料を用意して買ってきた野菜を切って鍋に入れたりする。


「………判った。僕はもう眠いから先に寝るね。お休みなさい兄上」


「お休みフランツ」

 とフランツがキッチンから出て行こうとして振り向いて一言言う。


「兄上…寝起きのタカエは可愛いかもね」

 と言い部屋の方へ歩いて行った。


 寝起きのタカエ!

 可愛い!?


 思わず想像してしまう。タカエはこの世界のネグリジェではなくタカエの世界のパジャマとか言うのを作って着ていた。

 布はシンプルな色合いの物しかないけど。


 するとしばらくすると夜が開けてきた匂いがする。朝の鳥の鳴き声がした。


 まぁここには朝陽の光は来ないから大丈夫だがなんか落ち着かない。吸血鬼が朝に起きているなんて!

 自然と汗が垂れるのは恐怖からかも?陽の光が届かなくても万一のことが起きたら俺は一瞬で灰だ。安全な棺桶ベッドで早く寝たい。


 するとしばらくするとタカエの足音がしてキッチンに俺がいるのを見て驚く!タカエはまさかまだ起きているとは思っていなかったのか洗面所に行く途中だった。


「おはようタカエ」


「おはよう…ございます…。えっ?もう朝ですよ?」


「う、うんタカエの朝食作ってみた!教わった通り!スープとパンと目玉焼き!」

 と並べて見せた。タカエの顔が嬉しそうに輝いた!


 ドクン!

 と心臓が鳴ったような?


「じゃあしっかり食べるんだぞ?お休み!俺は眠る!」


「お休みなさい!ありがとうギルベルトさん!」

 とタカエは笑顔だ。

 手を振り部屋に入った。

 ドクドクと心臓が煩くなった。


 棺桶ベッドに入ってもその日は中々眠れなかった。

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