長男と第三王子は叔母さんの旦那を殴りに行く

 トントンと眠る前に話を聞こうとエミ叔母さんの部屋に行く。


「あら?ギルどうしたの?まさか?禁断の恋?ダメよ!王子に求婚されたからって嫉妬しちゃ!タカエが可哀想よ?」


「ぶっ飛ばすぞ?」

 と言うと


「何なのよ?眠いから用があるなら早くして!」

 と叔母さんは欠伸をする。


「旦那についてだ。今どうしてるんですか?エッカルトおじさん」

 するとエミ叔母さんはピクリと反応した。


 エッカルト・ディートマー・ブライトクロイツ伯爵。同じ吸血鬼一族の伯爵でも…うちとはやはり違いそこそこの金持ちであった。叔母さんも以前はそこそこの暮らしをしていた。今思うと貧乏の家からやって来た嫁だし肩身は狭かったろうな。


 当時叔母さんは見合いの為に姿絵を見て一目で旦那のエッカルトおじさんを気に入り嫁に入った。向こうもすんなり迎え入れ、2人は結婚したのだ。その時も持参金…借金したんだよな…うぐううう!胃が痛い!


 まだ俺が美少年時代の時の話だけどエッカルトおじさんは普通に美形だ。吸血鬼一族の特有の銀髪に赤い目だけどどこか温和でうちとは違い優しい感じがした。この人なら叔母さんも幸せになれるだろうと思って俺は安心していたが遊びに行きお菓子を貰うと叔母さんの側には旦那はいつもいない。


 仕事だと叔母さんは誤魔化していたがその時少しだけ一瞬悲しげな顔をしたのを見た。


 あの時から既に浮気されていたとは思いもしないし俺も子供だった。


「エッカルトは…妖精族の女の所に行っていたわ。私のことは殆ど放置。初夜だけだわ。棺おけを共にしたのは。それも思っていたのと違ってね。何にも愛してくれなかったわ。ただの作業よ。あんなの。優しそうに見えた目もいつしか私のことは冷たい目で見て…。でも離縁はしなかったし家との繋がりだけで離縁してないだけ…。


 それでもう限界で家を出たの。流石に慌てるかなって?書き置きも残したわ?謝るなら帰ってもいいって。迎えになんか…いつまで経っても来ないけどね。


 判っていたわ。心は妖精族の娘さんにあるんだって…」

 とエミ叔母さんは初めて俺の前でボロボロと涙をこぼした。


「ごめんねギル。私はあんたの言う通りダメな女なのよ…」


「そんなの叔母さんは悪くないじゃないか!どうして今まで黙っていたんだよ!家族だろう?」

 と言うと叔母さんは


「ギル達に迷惑をかけたくなかったのよ!」


「いやそこは居候の時点で既に迷惑かけている」


「酷いわねぇ!!まぁそれでも置いてくれてありがとうねギル!」


「…王子のことは?どうするの?結婚すると叔母さん魔族の公爵夫人にはなれるよ?」


「あら?そしたらギル達も私にヘコヘコする日が来るわよ!おっほほほ!なんてたって公爵夫人よぉ?」

 と笑う。


「いいの?もうエッカルトおじさんは」

 と聞くと


「もういいわよ。これだけ待って何も無いなんて。ブライトクロイツ家からも何の連絡もないから私はそんなに相応しくなかったのよ。そういうことよ。…でもせめてね、一言でもいいから謝って欲しかった…。


 もうエッカルトとは離縁するわ。私…それに王子様は私みたいなババアに惚れてくれたものね」

 と叔母さんは笑う。


 何かムカついてきた。

 するとバンと話聞いてたのか王子が入ってきた!!


「うわっ!フーベルト様!!」


「あらあら…」

 と叔母さんもびっくりすると王子は叔母さんの手を取りキスをして


「美しい人!今の話は本当ですか!?」

 いや聞いてたなら本当だよ。


「ゆ、許せん!!そのエッカルトとかいうやつ!!俺はそいつをぶん殴りに行くぞ!?いや殺すか?」


「半殺しくらいかしら?」

 と叔母さん!何言ってんだ!さっきまで泣いていたのに!


「ギルも行ってきたら?」


「は?何で俺が?」


「そうだ!ギルベルトくん!行こう!一緒に!ボコボコにして謝らせるんだ!!」

 と王子は完全に俺も巻き込む気だ。


「……判りました。でももう夜明け前なので明日の夜にしてくれませんか?」

 と何とかいう。


「よし!判った!!ギルベルトくん!ゆっくり休んでくれ!!お休みまた明日の夜!」

 と王子はフランツの部屋に戻った。俺も自分の部屋に向かい棺桶に入る。

 ほんのりとタカエの匂いを感じることが嬉しい。もうずっと入ってたい。


 だが夜はまたくる。

 夕方に王子はラジオタイソウに加わり、俺はタカエに少しだけ血を貰った。


「ごめん。いつも…」


「大丈夫すぐ治せるし。それより聞いたけど酷いね!女の敵だわ!!ボコボコにしてきてね!」

 とタカエは叔母さんについた。


「ああ!タカエ!ありがとう!」

 とタカエを抱きしめて撫でた。


 ま、まあタカエがそういうなら…。

 王子はまたベヒーモス姿になり俺を背に乗せた。いや勘弁してくれよ。また酔う。

 タカエ達に見送られて王子は妖精族の住処までぶっ飛ばした!!


 ぎゃあああ!!酔うから!吐きそうだからああ!


 *

 妖精族の里は夜でも幻想的な光に溢れている。光る菌や精霊自体がピカピカと光り、とにかく明るい。もしやタカエに見せたらこ、これはいい雰囲気になるのかも?と思う。後、花が多い。


 1人のホビットの男がやってきた。


「えっ?魔族?何の用ですかい?まさか里を滅ぼしにきたとか!?」

 と怯えた。


「いや、ここにエッカルトと言う奴がいないか?そいつに用がある」

 と王子は人型に戻る。


「エッカルト様ですか?ああ、はいおりますよ?なんだ!あの方のお知り合いで!エルフのレナータ様の夫ですよね?」

 と言われ


「はっ!?夫?はっ!?」

 と思わずホビットの男を持ち上げる。


「ひいい!私の血は勘弁してくれえ!」

 と足をバタつかせる。


「それより夫とはどういうことだ!?」


「どうもこうも、お二人は出会った瞬間から恋に落ち仲睦まじく暮らしておりますよ?結婚式も華やかで。エッカルト様は吸血鬼一族ですが私らの血なんか吸わず愛する奥様の血しか飲みません。ああ、もうすぐお子様が産まれるのですよ!楽しみです!」

 と言ったので俺とフーベルト王子は顔をしかめて


「はんあああああ!!?」

 と叫ぶ。そしてガシリと腕を合わせ


「おいホビットの旦那ぁ。その幸せボケたエッカルトんとこ案内するだよ?お?うちのエミ叔母さんほったらかしてまさかの重婚だべか!?信じらんねーべ!」


「ははは!愉快な男というか、俺よりもよほど不埒なやつだな!!ギルベルト!思い切り暴れてやるか?」


「んだな!もうなんかどうでもいいべ?俺はエッカルトおじさんをぶっ飛ばすことにしたべ!!」

 と怯えたホビットの男に案内させ俺たちは異様なオーラを放ちエッカルトおじさんの所に行くのだった。

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