妖精女王と魔族の王妃の喧嘩

 俺たちがとりあえず上に戻ると魔族と妖精族のほとんどはぐったりして相討ちのようになっていた。魔王様は辛うじて動こうとしていたが一本の木に縛りつけられ動けなくなっていた。


 フーベルト王子も似たような感じで木にめり込んでいる。


 そして月夜に向かい合って立っている王妃のスザンネ様と妖精女王ティターニア。


 二人の後ろにはまさに闘志が激っていた。

 王妃様はニコニコしながら鎖で繋がった球体にトゲトゲのついた鈍器みたいな武器をビュンビュンと無言でにこにこしながら振り回している。


 一方のティターニアも蝶のように光る羽を出してバサバサと鱗粉みたいなのを飛ばした!!

 王妃様はブンブンと鉄球を回して粉を分散させて交わしたがその隙に女王が間を詰めて王妃様の腹を思い切り殴り付けた!!

 王妃様は少し上に飛び上がったが女王の長い髪を掴み引っ張り地面に叩きつけついでに頭をハイヒールでグリグリさせた。にこにこしながら。


 俺たち家族は恐ろしくなった。女の戦いに。

 もはや実況に徹するしかない。とりあえず負傷者をタカエとサオリが手分けして治すことに集中した。


「こんのクソ女!!まだあんたの男を誑かしたことを根に持ってるわね?恐ろしい女!」

 と踏みつけながら言うがあんたも充分に恐ろしい!


 王妃様の足を掴みぶんぶんと振り回して壁の方向にブン投げて女王が木を出現させる!

 王妃様は木に捕まり動けなくなるが身体から蛇が出てきて木に巻きつきそこが黒くなり木は見る見ると枯れていき、王妃様は地上に降りてにこりとした。


 怖っ!!


 その後二人は近付いてめっちゃメンチを切っている!!

 これ以上激化したら止められない!!

 俺は立ち上がり止めに入る。二人とも拳を振り上げそれが俺の両頬にヒットしめり込む!!


「ぎゃっ!!」

 俺は鼻血出して倒れた!!


「喧嘩に割って入るんじゃないっ!」

 と女王が髪を振り乱し怒る。


「せ…世界の均衡の為に嘘をついてますね!ティターニア様!」

 ビクリとした女王に一瞬の隙が出て俺は霧になり後ろから女王を羽交い締めした。そして王妃様がそこに渾身の力で拳を作り女王の顎を殴った!!!


 女王は白目を剥き…ついに気絶した。王妃様はニコニコしていた。怖い。そして王妃様は女王の服の中に手を入れ胸元からネックレスみたいなものを取り出した。それをぐしゃりと片手で握り潰したらネックレスが血のようなものを垂らして破壊された。

 ひいいいい!!


 そしてゴホゴホと咳き込み王妃スザンネ様は…


「あーー…」

 と何と!声を出した!!破壊されたネックレスが王妃様の声を封じていたのだ!!


「やっと喋れるな、このクソが!クソ女!!クソババア!●●!よくも何百年も人の声を!!」

 と尚も気絶した女王を殴りつけるので流石に家族達も止めに入った。


 *

 ティターニア様や妖精族達は一旦拘束し、夜が空けそうな為俺たちは地下に潜り込んだ。地下牢に簡易なベッドしか無いので仕方無くそこに寝転がるとタカエも眠いのか隣に来て毛布に入り俺に引っ付く。


「タカエ…お疲れ様…」

 癒しの力でとりあえず魔族達をある程度回復し、俺たちは眠る前に魔王様達に地下でのことを報告しておいた。


 魔王様はうんうん唸り…事態を把握し、とりあえず勇者一行をこちらに呼び付ける手配を行っている。あいつらが来る前に俺たちは睡眠を取らなければならない。


 妖精女王は捕らえられ王妃様は拷問してやろうと物凄い口汚い口調で罵り鞭を打った!

 正直喋るとこんなにも恐ろしい人とは思わなかった!!

 サオリなんて王妃様を見て震えて


「あれ…絶対にヤンキーだよ!めちゃくちゃ怖いよ!」

 とか言っていた。ヤンキーが何かわからないが。


 眠い目でタカエの頭を撫で


「タカエ………帰れなくなってしまったな…ごめん。他に方法があるといいんだけど…」

 と俺が言うとタカエは首を振り


「もういいの。私のことは気にしないでください。ギルベルトさんの側にこれからもいられると思うと少し安心したの。ごめんなさい」


「何故謝る?」


「でも…安優香を本当に生贄にするの?いくらなんでも可哀想かも…」


「タカエはあいつに散々酷い目に遭わされてきたのにか?許せるのか?」


「そうだけど…同じ世界から来たし…」

 タカエ!!優しすぎる!!やはり聖女!!


「だが…俺はやはり許せねぇ。ごめんタカエ。タカエを苦しめた者に目を瞑ることはできない」

 タカエは目を閉じた。


「わかりました…。安優香がこちらに到着したら話だけでもさせて欲しいです」


「わかった…明日の夜にまた魔王様達にお願いしてみる。力を使い疲れたろう?今日は眠ろうな…」

 と言うとタカエは少し目を開きこちらを見つめ


「はい…今日は眠ります…。お休みなさいギルベルトさん…。いつか私も貴方と同じにしてね…」

 と言われ俺はドキンとした。

 それは…人間を捨ててもいいってことか…。


 タカエ…。

 俺はタカエを優しく抱きしめながら眠りについた。


 *

 次の夜…。

 月明かりの中妖精族の里で裁判みたいなものが開かれた。里の中央で縛られた女王がいた。アユカ達勇者一行は別室で待機させているがなんか護衛が中でやらしい声がすると嫌な顔をしていた。


 相変わらずの奴らだな!

 そんな奴らでもタカエがこちらを見るので俺は


「ちょっといいでしょうか?いくらなんでもタカエの同郷の者を扉に放り込むのはどうかと…」


「だが、聖女を放り込まないとこの世界が壊れてしまう。それは避けねばならない」

 と魔王様が言う。


「そうだよ!兄上!何言ってるのさ!それしか方法はないんだよ?」

 とフランツが言う。


「本当に?聖女が生贄になるしかないのか?試しにそこの女王様を放り込んで見たらどうだ」

 するとスザンネ王妃はにこにこしながら


「ギルベルトは見所があるわね。私は賛成です」

 と言うと魔王様もあっさり賛成の意を示し縛られた女王が今度は酷い顔になり抗議する!


「私は女王だ!この妖精族の!私がいなくなれは誰がこの森を!」

 と言うとニヤリと笑う王妃様は言った。


「あら…貴方が私への当て付けでこっそりと産んだあの人との娘が次のティターニアになればいい!今は幽閉しているんですってね?私が何も調べてないと思っていたの?


 傲慢な女王め!」


「何故そのことを!くっ!」

 と悔しそうにする女王様。しかし幽閉されていた娘が連れてこられると皆息を飲む。花のように美しい妖精だが、痩せこけていた。

 王妃様は歩み寄り背中を撫でた。


「可哀想に…。もう大丈夫ですよ?チェルシー…」

 と涙ぐむ。そしてチェルシーはティターニアを睨んだ。


「この人は母とは認めませぬ!どうか裁きを!!食べる者を何日も与えられなかった!!妖精族は何日も食べないでも生きていられると言っても限度がある…。許せない!!」

 と痩せ細った身体でチェルシーは抗議して…次の女王になる事を決めた。


「決まったな。元ティターニアの座は娘のチェルシーに代わる!そしてこの妖精族のただの女オフェーリアは…世界の均衡の為に扉に放り込ませて貰う。もしそれで世界がヤバくなったら申し訳ないが聖女のアユカを使う…。


 異論あるものは!?」

 と魔王様が言い、誰も言わない。

 こうして女王様…いや、オフェーリアという本名の妖精族の女の処分が決まった。聞いてみると何人もの男と関係を持ち権力で何百年も里を支配して、娘はひた隠しに放置している酷い女王であった。王妃様の声を何百年も奪ったのも罪に加えられた。


 王妃様は戦争になるのをずっと我慢して耐えていたそうだが、今回の件で俺たちに同情し腹を決めて闘いに参戦してボコボコにしたらしい。


 *

 裁判が終わると俺たちは報告に地下のヘルロフの元へ行って伝えた。


『ようやく終わるのか…。世話をかけた…。ミナミももうすぐ解放される。あの女王は嘘つきだから生贄は聖女でなくても良かったのかもしれない。放り込んでみないと俺も分からない』


「刑期の執行は1週間後に決まったよ」


『そうか…判った。ありがとう若者』

 と扉の前で再び骨に戻ってしまった。

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