第29話 車中にて~後編

「三木先輩、最後に『場合』です。これは、『折角の祝勝会』『普段縁の無い特別な場所』と言う合わせ技で、既にできてました。『お酒くらいなら』と言う『気の緩み』です。」

「つまり、麻薬だと、例の双子が、阻止するっす。でも、お酒ならスルーするっす。まさか、あの双子は、飲み物にアルコールが、入っていたのに、気付いていたっす。」

「三木先輩、正解です。それとて、土岐家は、警察への伝手で『アルコール検出器の故障』等と言う戯言を、でっち上げてまで隠蔽しました。と言っても、手遅れでしたが。」

「だから、危険を冒しても、エリーが、目撃者になる必要があったっす。エリーの言葉なら、校長先生も動かざるを得ないっす。でも、お酒じゃ罪が軽いっす。」

「三木先輩、最後に3つ、勘違いを正しておきます。1つ、土岐先輩への罰をより重くすると、土岐家と姉小路家が、全面戦争に突入します。勿論、姉小路家に、勝ち目はありません。」

 視線を。生徒会長へと向ける三木直子。小さく首肯する生徒会長。

「2つ、格闘技の件です。ご存じですよね。」

「知ってるっす。」

「あの双子は、土岐先輩より、強いですよ。ちなみに、情報源は、直接指導した教官が、本家に提出した報告書です。教官のPCから情報を抜いたのは……。」

 ちらりと、伸綱に視線を向けた。これで、通じたらしい。

「それでも、ポリには、取り押さえられたっす。」

「三木先輩、あの二人が、本気を出したら、警察官を絶命させかねない。そうなると、本家でも庇いきれないでしょう。よって、身を挺して、お嬢様を逃がす事を優先させた訳です。」

 青ざめる三木直子。恐らく、土岐美里亜より強い双子との、戦闘を思い描いているのだろう。

「三木先輩、最後に問題です。『土岐先輩の発言を何でもいいので言って下さい。』」

「発言っす?」

 暫し、時が経過する。

「分からないっす。」

「三木先輩、答えは『一言も発していません。』です。」

「はぁ! どう言う事っす?」

「三木先輩、偉い人は、みだりに下々の者と会話しない。そう言う事でしょう。が、あの双子は、身振りだけで、土岐先輩の意思を察してます。余程の信頼関係なのでしょう。」

「それが、何っす?」

「つまり、あの双子と、土岐先輩を『分断』しないと、如何なる作戦も成功しません。現に、あの時、土岐先輩は致命的な間違いをしました。逃走ではなく、闘争を選んだ事です。」

 重苦しい沈黙が、車中に満ちた。

「なぁ……お二人さんよぉ……もう、そいつを責めるの、やめにしないかねぇ。」

「伸綱叔父さん、別に責めてる訳じゃないっす。もっといい手は、無かったのかって話しっす。」

「言っとくが、そいつは、土曜の夜にホストクラブの事件が起きる事、日曜に謝罪がある事、全て『予測』した上で、『予知能力』は、答え合わせに使っただけだぞ。」

「ホントっす!?」

「ちなみに、エリー嬢ちゃんが、校長に事の顛末を動画で説明し、購買の店員を日曜に休日出勤させる事も含んでるぞ。そうしないと、教科書や制服なんて入手できないからな。」

「……。」

 流石に沈黙する三木直子。

「気持ちは、分かるさ。土岐のお嬢さんと、エリー嬢ちゃんとは、過去の経緯もある。だが、そいつは功労者だ。1か月でイジメ5件を解決。1件は加害者が、自ら諦めてる。だから……」

「だからっす?」

「もう、認めてやって、いいんじゃ、ねぇーの。」

 再び、重苦しい沈黙が、車中に満ちた。

「皆さん、僕としては、本来の目的を、忘れてはいけない。そう思います。」

「まぁーそー来るよなぁー。」

「生徒会長、頼んでおいた件、どうでしたか。」

「……? ……え、はい。多賀君を乗せずに、出発した場合、高速に入ってしばらくすると、事故に遭います。直子さんと、伸綱叔父様は、病院で目覚めますが、私は、死にます。」

「生徒会長、今はどうです。」

「……大丈夫です。『死の未来』は、視えません。」

「生徒会長、そうではありません。具体的に『何が』視えたのか、教えて下さい。」

「タガが外れているぞ。」

 三木直子の「タガ、論点の照準が、外れているっす。」は、「タガが外れているぞ。」と聞こえた様な気がしたが、きっと気のせいだろう。

 誰も、羽目を外してなどいないに相違ない。

「生徒会長、三木先輩、必要な事です。今は、詳細な情報が必要なのです。」

「何故っす。『死の未来』は、視えないのだから、問題ないっす。なんで、何度もしつこく同じ事を聞くっす。」

「ある名探偵の言によれば、『情報不足で推理を行う事はエンジンを空転させるに等しい』だそうです。」

「タガ、それは、お前の言葉じゃないっす。お前の言葉で、話すっす。」

「三木先輩、『自分の言葉』とは、『自分の脳内で考えただけで、誰の承認も得ていない、脳内妄想の言葉』と言う意味です。」

「二人共、やめんか!」

 珍しく、声を荒げた伸綱。

「多賀、結論を聞きたい。あるんだろう。」

「1つ、『仮説』があります。」

「聞かせてくれ。どうしても、今すぐ聞きたい。」

「はい。『生徒会長の死を目論む何者かの能力による攻撃』それが、僕の仮説です。」

「はぁ!? そんなもん! ホントに、あるって言うっす!?」

「まぁ待て直子。それより、多賀、そいつの根拠は何だ?」

「はい。『それ以上に説得力がある説明が無い事』ですね。」

「はぁ! そんなもんで根拠になる訳ないっす!?」

「直子、静かにしててくれ。多賀、その『何者』って言い方をするって事は……。」

「ええ、それを含めて、この『問題』には、3つの『謎』が、あります。」

「多賀、それは、『誰が』(Who)『何故』(Why)『どうやって』(How)だな。」

「はい。」

「それなら、その謎を解けるのは、お前さんしかしないな。」

「生徒会長は、その為に、僕を連れて来た。そう聞いています。」

「……そうか、流石エリー嬢ちゃんだなぁっ!」

 伸綱の笑い声は、大きかったが、ハンドル操作は、ぶれる事無く別荘に到着した。


 * * * 


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