第4章

第28話 車中にて~前編

 5月2日午後5時15分、その日はやって来た。

 まず、僕は事前にまとめた荷物を背負い、しおり通りに行動する。まずは、興信所に行く。

 勿論、誰もいない。事務所の照明は落ち、施錠も完璧にされている。

 伸綱は、今頃、生徒会長の自宅まで、自動車を走らせて迎えに行っている。

 彼らを乗せた自動車が、ここに戻って来るのを、事務所の裏手駐車場で待つ。

 五月晴れと言うが、晴れて良かった。雨なら事務所の玄関先で、待つ羽目になった。

「くれぐれも、気を付けなさい。金が入用なら5万円までは、振り込む。但し連休明けに。」

 それが、父からの返信メールだ。念の為、今日からの旅行の件、父にだけは、伝えておいたからだ。お金は、有難く貰う事にした。

 そうこうする内に、7人乗りの自動車が、やって来た。

「普通は、車種とか、メーカーとか言うべき事があるだろう。」

 などと言う無意味な指摘をする者などこの世界にいない。

「どうでもいい事だ。無駄な事に、言葉を使いたくない。無駄なんだ。無……。」

 などと言う無意味な指摘に、無駄な事実を被せる者などこの世界にいない。

「おっ、よく来たな。時間通りだな。」

「こんばんは。今日から4日間お世話になります。」

 そう言うと、開いたドアから、身を車中に滑り込ませる。

「おっと、多賀、荷物は、そっちだ。荷物を置いたら、発進するぞ。」

「はい。」

 こうして、僕達を乗せた自動車は、出発した。目的地は、姉小路家の別荘だ。

「しかし、っす。もっと、重い罰にもできたっす。特に、土岐先輩にっす。」

 そう、言い放ったのは、7人乗りの車中を、窮屈に感じさせる巨躯の持ち主だった。

「生徒会長、その話、三木先輩にしていないのですか。」

「結果だけです。それに、あれだけの紆余曲折を、全て説明しきるなど、不可能です。」

「生徒会長、では、例の映像は? 取り分け、カラオケ店の物です。」

「ええ、見せました。」

「では、仕方ありません。別荘に着くまでの、暇つぶしとでも、思ってください。」

「ちゃんとした説明が、欲しいっす。」

「三木先輩、まず、問題です。『カラオケ店の映像に写っていたのは、誰?』」

「イジメ加害者と、その黒幕っす。」

「三木先輩、正解です。より正確には、土岐美里亜、土岐螺夢、土岐麗夢、イジメの実行犯3人の、計6人です。」

「それが、どうしたっす?」

「生徒会長、土岐家の『守役』について、ご教授して下さい。」

 1つ頷いてから、説明する生徒会長。

「ええ、土岐家は、本家に子供が、誕生すると、分家で誕生した同じ(くらいの)年齢の子供を、召し上げます。彼/彼女達に、英才教育を施し、成績優秀者を養子に迎え入れます。」

「……はいっす。」

「養子達は、本家の子供の、友人兼使用人兼護衛、そう言う役目を命じられます。これが、『守役』です。」

「おぉー……ん? さっき話に出てた双子って、そう言う事っす。」

「ええ、元は分家の娘でしたが、12歳で土岐本家の養女になった土岐美里亜の『守役』です。」

「わかったっす。でも、それが今回の件とどう関係するっす。」

「生徒会長、感謝します。では、この後は僕が担当します。」

「分かり易くするっす。」

「三木先輩、まず勘違いを、正しておきましょう。仮に、土岐家のご令嬢が、殺人を犯したとしても、土岐家は、隠蔽します。横車を押す位……いえ、ロードローラー位振り回すでしょう。」

「何だ! その意味不明なたとえは!」

 などと言う無意味な指摘をする者などこの世界にいない。

「! その漫画なら読んだ事あるっす。」

「ブルータス! お前もか!」

 などと言う無意味な指摘をする者などこの世界にいない。

 某皇帝とも無関係に相違ない。

「三木先輩、それ以上、言わないで下さい。話しが、逸れます。」

「話を逸らしたのは、お前じゃないのか!」

 などと言う無意味な指摘をする者などこの世界にいない。

「おっと、いけないっす。……話を続けて欲しいっす。」

「三木先輩、話しを戻します。例え、如何な周到な罠を用いても、『守役』の2人が、阻止します。阻止できなかったとしても、本家が隠蔽する。結果、無駄に終わります。」

「……でも、だからこそ、知恵を絞るべきっす。」

「三木先輩、問題です。今回達成しなければ、ならなかった『最優先事項』とは?」

「イジメ撲滅っす。」

「三木先輩、それは、『イジメ対策室』の存在目的です。『それを成し遂げる為に必要な最優先事項』それこそが、問題なのです。」

「……………………………………………………………………連中を一網打尽にする事っす。」

「三木先輩、正解です。つまり、実行犯3人だけでは、『蜥蜴の尻尾切り』です。そうさせない為に必要なものが、3つあります。それは、『時』『場所』『場合』です。」

「? どう言う事っす?」

「三木先輩、まず『時』です。これは、連中の目的達成の瞬間が、望ましい。一番警戒心が、緩む時です。」

「分かってるっす。だから、下諏訪先輩に、休学届を出して貰ったっす。」

「三木先輩、次に『場所』です。これは、『ホストを兄に持つ女子高生』がいたので、使わせて貰いました。あの三羽烏の1人です。この件では、所長にお世話になりました。」

「おう! どういたしまして。時に、例のホスト……ゲンイチだが、証拠不十分で、不起訴処分らしいぞ。」

 ハンドルを操作しながら、安全運転の伸綱だった。

「予想通りです。まさか、彼も実妹を酔わせて、犯らかそう等とは、する筈もない。そう思ってました。」

「但し、ソフトドリンクに、アルコールを混ぜた実行犯は、小型ボトルをポケットに忍ばせていた。そいつに、麻薬の売人……店長と副店長は、お縄だ。二課が、喜んでたな。」

「そりゃ、そうでしょう。麻薬の入手経路を、白状させれば、組織の撲滅に大きく前進するでしょうから。……失礼、三木先輩、話しを戻しますね。」

「そうして欲しいっす。」

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