第5話 生徒会長との取引~前編
翌日の放課後、今度は場所を変え、化学準備室で、生徒会長と会う。何でも、生徒会室は、使用中との事だった。
「生徒会長、まずは、昨日のおさらいと、報告です。まず、勘違いしないで下さい。僕は、生徒会長の『あの発言』を疑った訳ではありません。」
「要点を言いなさい。」
「生徒会長、まずは、昨日のおさらいです。まずは、これを見て下さい。」
ここで、生徒会長に昨日頼んで記入してもらった例の紙を取り出す。最初にこう書いてあった。
『今日行われる、国内プロ野球の試合、その結果、スコアボードの数字、スターティングオーダー、勝ち投手名、負け投手名、勝利打点選手名、本塁打を記入して下さい。』
更に、生徒会長直筆の、上記内容が、続いた。
「結果は、満点です。全て完璧に書かれていました。」
「ですから、言いましたよ。私の、『能力』をもってすれば、問題無い事です。」
「ええ、ですから疑問なのです。生徒会長、これだけ精密な『予知能力』を自在に使えるなら、『事故死』くらい幾らでも回避可能でしょう。」
「確かに、私の、『能力』は、『選択式』です。それこそ、通学ルートを変更しようと考えただけで、『視える未来』が、変わります。だからこそです。」
「生徒会長は、昨日言ってました。『家の前の道を右に曲がると、トラックと衝突。左なら、それがスポーツカーになる。』」
「ええ。」
「それ、選択方式試験なら、満点とれんじゃね。」
等と言う無駄口を叩かない宗竜だった。
「生徒会長、昨日言いました。『私は、必ず死ぬ。それも、早ければ、数日で。遅くとも来月4日までに。』」
「ええ。」
「が、これだけの精度で、『予知』ができるのです。自分に危害を加える人物を探し出して、事前に対処する事もできるでしょう。」
「そうしたいのは、山々ですが、違法行為でもしないと、止められません。」
「生徒会長、それは、加害者と言えど、それ以前は、悪事を働いた訳ではない。生徒会長に、危害を加える『その時』だけ、何某かの事故を起こす。そう言う事ですか。」
「ええ。ですから、事故を起こす前に、事故を起こす人物に、警告しても無駄です。」
「生徒会長、事故を起こす車は、判明しています。なら、車で尾行し、生徒会長に衝突する直前に、追い越して進路を塞ぐ手もあるでしょう。」
「それ、いわゆる『煽り運転』ですよね。その場合、別な車から衝突されます。つまり、八方ふさがりなのです。」
「それは、人物Aの車との衝突を回避する。その場合、人物Bの車と衝突する。それを回避した場合、人物Cの車との衝突、……と言う具合に、無限に衝突する未来が、続く訳ですか。」
「ええ。」
「何だ! その無限ループは! 全ての平行世界に逃げ場が無いぞ!」
等と言う無意味な指摘をする者など、この世界にはいない。
「不思議過ぎる。不自然過ぎる。不可解過ぎる。これは、あれだ。今まで、『予知能力』を、私利私欲の為に使い過ぎた反動……天罰なのだろう。」
等と言う無駄口を叩かない宗竜だった。
「生徒会長、昨日言ってましたね。『あらゆる選択肢が、私を死に追いやる。唯一の例外が、多賀君と交際する事。』」
「ええ。」
「つまり、生徒会長は、僕と交際しないと死ぬ。だから交際する。愛など無い訳だ。」
等と言う無駄口を叩かない宗竜だった。
「生徒会長、その話、条件付きで承諾しましょう。」
「本当ですか!? よかった……。」
僕が、条件を説明しようと、口を開きかけた瞬間……
「ありがとうございます!」
大声で騒ぐ生徒会長。
「生徒会長、静かにして下さい。」
「本当に、あなたは、命の恩人です!」
今度は、僕の両手を両手で包んで、上下に振る生徒会長。
「帰ります。」
僕は、立ち上がりながら、手を振りほどいた。そして、出入口に向かう。
「この話は、無かった事にします。」
「何故ですかぁっ! ……この人殺しぃっ!」
「生徒会長、それが、人に物を頼む態度ですか。」
「さっき、『承諾する』って言ったじゃないですかぁっ!」
「生徒会長、違います。『条件付きで』と言ったのです。」
「条件? 聞いてませんよ。どんな条件が、あるかなんて。」
「帰ります。この話は、無かった事にします。」
「待って下さいよぉ~。酷いですぅぅ~。」
「生徒会長、しがみつかないで下さい。セクハラで、訴えます。」
「だから、何故ですぅ~?」
「生徒会長、それが、人に物を頼む態度ですか。同じ事を何度も言わせないで下さい。」
生徒会長が、土下座したのを確認して、席に戻った。
「同じ事を何度も言うなど無駄だ。無駄なんだ。無駄だから嫌いなんだ。」
等と言う無意味な指摘をする者など、この世界にはいない。
「生徒会長、僕が許可するまで、動いてはなりません。」
「はい……。」
「生徒会長、僕は、『条件付きで承諾する』と言ったのです。今から、その条件を説明します。いいですね。」
「はい……。」
「『条件』は2つです。1つ、『僕との交際は秘密厳守』。2つ、『適切な報酬を支払う』。以上です。」
「1つ目は、お受けします、が、2つ目の内容を教えてください。」
僕は、2つ目の説明をする。こちらも、不承不承ながら、承諾された。
「では、昨日お話しした通り、『イジメ対策室』の初代室長に、なってくれるのですね。」
僕の許可をもって、着席した生徒会長は、目を輝かせている。
「生徒会長、それには及びません。そんなもの、極論言えば、加害者でなければ、誰でもできるでしょう。副会長あたりに任せれば、よいのでは。」
「それでは、いけません。彼に任せると、学校内の至る所に仕掛けたカメラと、録音装置を、私利私欲の為に、使います。あなた以外の選択肢は、あり得ないのです。多賀君。」
「おひおひ……そんな事まで、『予知』可能なのか。すげぇーな。」
などと言う無意味な指摘をする者などこの世界にいない。
「生徒会長、それも疑問でした。それだけの機材、かなりの出費になった筈。理事会や、校長が、素直に払ったとは思えません。カネの出所が、疑問です。」
「そんなに聞きたいですか。多賀君。」
「大方、『予知能力』を駆使して、校長の弱みでも握って、脅迫したのだろう。」
等と言う無駄口を叩かない宗竜だった。
「生徒会長、まだ疑問はあります。『何故』『今更』『この学校だけで』イジメに対抗するのか。生徒会長の『能力』を使えば、教育委員会だって、国だって動かせるでしょうに。」
「多賀君、私には、分ります。『いつ』『何処で』『誰が』『何者に』『イジメられるのか』それが、分っていて、何もしないなどできません。私には。」
「生徒会長、だからと言って、イジメの撲滅などできません。何故なら、『人間は生まれながらにして邪悪』なのです。人類は、犯罪すら撲滅出来ていない。その事実からも明白です。」
「そんなに、イジメを撲滅したくば、核でもぶち込んで、人類を撲滅した方が、余程手っ取り早い。」
などと言う無意味な指摘をする者などこの世界にいない。
「許せません!」
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