第10話 教師と共謀?

 この学校--敦盛学園--には、完全防音の部屋がある。生徒指導室もその内の1つだ。

 その生徒指導室には、今3人の人物が、いる。僕、松平先輩、松平先輩の担任教師だ。

 会話の口火を切ったのは、担任教師だ。

「松平、正直に言って欲しい。イジメに会ってないか?」

 重い沈黙が、のしかかる。ややあって……

「はい。」

 松平先輩は、呟くように、素直に答えた。

「……そうか、よく話してくれた。ありがとう。」

「…………先生に嘘を言う訳にはいきません。」

 相変わらず、呟くような声の松平だった。まるで、大声を出すと迷惑を掛けるとでも考えているかの様だ。

「松平、今後は学校側としても、この件には本気で取り組む。だから、頼む。詳細を教えて欲しい。この通りだ。」

 先生の額は、机にこすりつけられていた。

「…………話します。先生。」

 この言葉で、「ぱっ」と顔を上げる教師。

「……そうか! 早速で悪いが、話してくれないか。何時から、誰に、どんなイジメを受けていたのか、全て話して……。」

 教師は、最後まで台詞を言い終える事はなかった。松平先輩が、掲げた右手によって遮られたからだ。

「……その前に……。」

 僕の方へと、視線を向ける松平先輩。右手は既に降ろしている。

 僕に、目配せする教師。

 軽く頷く僕。軽く名乗ってから、話す。

「初めまして、松平先輩。失礼ながら、先輩の事を調査したのも、イジメの件をチクったのも、この僕です。先生に頼んで、この場にいさせて貰っています。」

 感情のこもらない視線を向ける松平先輩。

「何、余計な事してくれたんだよ!」

 等と怒られる覚悟をしていた僕としては、いささか拍子抜けだ。

 むしろ、イジメのストレスで、PTSDにでもなってはいないか、そうとさえ感じられた。

 後で、生徒会長に調べてもらうとしよう。

「……実は……。」

 ぽつり、ぽつりと言う感じで、イジメが、去年の2学期以降、暴力に始まり、カバン持ち、パシられる、購買のパンをたかられる……など、次第にエスカレートしていったそうだ。

「先生、購買のパンを買わされたのであれば、プリペイド・カードに履歴が、残っている筈です。それを証拠として学校側に、提出できるでしょう。」

「おお! そうだ。冴えてるな、多賀。松平、カードを貸しなさい。」

 敦盛学園では、購買、学食、文房具、教科書、上履きや、制服に至るまで、専用のプリペイド・カードで、買い物ができるのだ。

 鍵付きロッカーから、専用カードリーダーを繋いだノートPCを取り出す教師。

 程なくして、データをコピーし終えた。念の為、DISKにバックアップを取り、先生と僕が、1枚ずつ預かった。

 そして、教師が最後にと、口を開いた。

「大丈夫だ、松平。これから、俺達は一緒に、イジメと戦う戦友だ。俺を信じてくれ。」

 こうして、今日の所は、お開きとなった。

 勿論、この部屋での会話は、生徒会長に報告する。そこまでが、今日の僕の仕事だ。

 ちなみに、松平先輩が、PTSDである事、それはいずれ在学中に回復し、先輩が、心から笑い、学生生活を謳歌する日も来る。そう生徒会長のお墨を貰った。


 * * * 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る