第9話 堕とし者
数日後の放課後、多数の鞄を運ぶのは、眼鏡の2年生だ。
少し先に、手ぶらの出っ歯と、取り巻き共がいる。
彼らは、廊下を歩み、昇降口へと向かっていた。
「こら! 松平! 何て事してくれたんだ! ついて来い!」
眼鏡--松平--の担任教師と、彼の陰に隠れるように僕は、その場にやって来た。
「おーおー、おめぇ、なにしでかしたんだぁ~。」
品性も知性も感性も感じられない笑い声を、吐き出す出っ歯。
「そーそー、ちゃんとセンコーに、しかられてこい。」
取り巻き共も、同様に笑い声を、吐き出す。
「松平、お前の物でない鞄は、置いていけ!」
先生の指示に従う松平。そして、彼は、引きずられるように、連れていかれた。
僕は、先生達の後をついて行く。そして、制服の内袖に仕込んだ『ある物』を、さりげなくその場に落としていく。勿論、『ある物』に、指紋を付けないようにだ。
無論、腕一振りで、『ある物』をさりげなく落とすには、それなりの練習が、必要だった。
鏡を見ながら、手袋をしたまま、練習した甲斐あって、上手く行った。
「ん? なんだ。ナニか、おとしていきやがった。」
出っ歯が、『ある物』に気づいて拾った。
「いっ……イチマンじゃねぇか!」
「えっ!? マンサツ!?」
出っ歯と、取り巻き共は、『ある物』を手に『ニンマリ』と嗤う。
「アイツは、やくたたずだ。が、オレたちは、ついてるなぁ。」
「ほんとっすねぇー。」
「よし、カラオケで、じかんつぶしてから、のみにいこうぜ。」
「おおーっ。」
出っ歯と、取り巻き共は、意気揚々と、鞄を手に繁華街へと繰り出した。
* * *
「Ah! FW--------!っ。」
小指立てながら、握りしめたマイクに絶唱を、浴びせる出っ歯。
タンバリンを叩きながら、盛り上げる取り巻き達。
ここは、繁華街のカラオケボックスだ。そこに、内線電話が鳴った。
「もうジカンだ、そぅっす。」
「おう、きりもいいし。あがるぞ。」
出っ歯の言葉に、全員が、同意する。全員で、ぞろぞろ部屋から出て、レジに向かう。
そして、支払いは、勿論さっき拾ったマン札だ。
「じゃ、これで。」
店員は、それを会計用の機械に入れる。警告音と共に、札が、吐き出された。
「ん、ダァ? しわでも、のばしそこねたのかぁ。」
出っ歯の言葉に、お追従笑いを、漏らす取り巻き共。店員は、札を店内照明にかざしてみる。
「どぉーした? ナニやってんだぁ。さっさと、カイケーしろよ。」
出っ歯の言葉を無視して、ボタンを押した店員。程なく……
「どうしました?」
警備員の制服を着用した屈強な男達が、入って来た。
「偽札使用の現行犯です。警察に引き渡して下さい。」
驚き慌てる出っ歯共を尻目に、偽札を確認した警備員。結局、取り押さえられた出っ歯共。
「ウソだぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
こうして、連中は、警察に引き渡された。
* * *
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