第15話 警察にて~後編

「はっきり言いますが、証拠不十分です。」

 松平からの接見を終えた弁護士黒田は、担当刑事に、単刀直入に、切り出した。

「しかし、取り調べは始まったばかりですよ。しかも、あいつは、ダンマリ決め込んでんだ。疑うに決まってんでしょ!」

「なればこそです。将来ある若人の、貴重な時間をこんな所で、無意味に消費して良い物ではありません。それとも、何ですか、偽札から依頼人の指紋でも、出たのですか。」

「捜査情報につき、教えられません。」

「出るはずが、ありません。本人は、『知らない』と言っていましたから。それとも、たかが指紋一つとるのに、1日以上かかるのですか。」

「こっちの仕事にケチつけようってのか! アア!」

「その仕事ぶりですよ。今回、依頼人を任意同行したのだって、何の根拠があったのやらです。大方、被疑者の目撃情報に基づいた根拠薄弱な物でしょう!」

「それは、捜査情報だと言ってるでしょう。」

「では、こちらの動画をご覧ください。」

「これは!?」

「そう、つまり、件の『目撃情報』は、イジメ加害者が、イジメ被害者に、自身の罪を擦り付けようとしている。その証拠です。」

「わ……分かった……だが、釈放には手続きが、必要ですよ。ご存じですね。」

「違います。『任意』ですから、『釈放』ではありません。私は、依頼人の即時解放を要請します。」

 こうして、担当刑事は、陥落し、松平元泰は、解放された。


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