第32話 『能力』バトル

 5月4日AM01:51

 備え付けの時計の時刻を確認する。何故なら、イヤホンからささやかな警告音が、聞こえたからだ。

 更に、画面でも確認する。

「暗くてはっきり見えないが、ライダースーツか? ……フルフェイスで、顔を隠しても無駄だ。『奴』が来たと言う事は分かった。」

 そして、所定の位置で待機し、カフェイン入りのガムを1粒口に放り込む。スマホを片付けてイヤホンも外す。装備を確認する。よし……

 『奴』が、階段を昇る音は、最小限だった。『奴』は、土足の上に持参のビニール袋を被せ、テープで止めていた。

「明らかに、敬意等ではなく、証拠を残さない計略だ。」

 等と言う無駄口を叩かない宗竜だった。

 まず、『奴』は、一番奥--生徒会長--の部屋の鍵を手持ちの道具で、こじ開けて入った。

 何をするか確認するまでも無い。

 素早く最小限の音で扉を開け、廊下に飛び出し、生徒会長の部屋の扉を蹴る。

 『奴』が、後ろ手に扉を閉めようとしている途中だったので、扉が、『奴』の背中をしたたかに打ち据える。

「不審者め! 大人しくしろ!」

 取り敢えず、『奴』が悪者だと言う事実を、明言しておく。いざと言う時の保険だ。

 すると、『奴』は、あろうことか、何かを持った右手を突き出してきた。

 急いで、両手を「×」にして頭部を庇う。『奴』が、手にした物体が、スーツに触れる。

 途端、『奴』が、手にした物体から、約3万ボルトの電流が、迸った。

「! ……スタンガン……!」

 膝から崩れ、取れ伏す宗竜だった。

「『ヴィーナス・ビーズ』!」

 取れ伏す宗竜に、右手をかざし、そう呟くライダースーツ。

 さて、とばかりにベッドで、横になる生徒会長へと向き直った。そして、一歩踏み出す。

「……んー……! 誰っ!?」

 こと、ここに至り目を覚ましたらしい、生徒会長。

「そこに、すかさずスタンガン!」

 ライダースーツの左ふくらはぎに、スタンガンを押し当て、電気を流す宗竜だった。

「こいつが『能力者』らしい。そして、1つ分かったぞ。それは、お前が『電気を無効化する能力を持っていない』事だ。何故なら、わざわざ絶縁性に秀でた服を着て来たからだ。」

 等と言う無駄口を叩かない宗竜だった。

「ちっ……ラバー製のライダースーツ……厄介だな。だが! 1つだけ確かな事がある。『何事にも絶対は無い』! 『スイッチ』オン!」

 ライダースーツが、振り返ったその時、左手に握りしめた『スイッチ』を親指で押す宗竜。

「!」

 ライダースーツが、驚くのも無理からぬ事だ。天井から漁に使う様な網が、自身に降り注ぎ、捕らわれたとあっては。

 だが、ライダースーツも、それだけではない。網から脱出しようともがいていた。

「追い打ち!」

 更に、立て続けに『スイッチ』を押す宗竜。更に、2つの網を落とした。もがけばもがく程、絡まる網に苦戦するライダースーツ。

「君、知らないようだな。この網は、鉄製の極細繊維が、編み込んである。つまり、通電性が高い!」

 宗竜は、言うや否や、左手の『スイッチ』を捨て、両手に1つずつ、計2つのスタンガンを持ち、網に電気を流す。

「1つ3万ボルト、両手で6万ボルト……とはいかないが、これならどうだ。」

 だが、ライダースーツには、大した痛痒も与えてはいない様だった。またも、網を振りほどこうともがく。

 そこで、音を立てる両手のスタンガンのスイッチを切り、ライダースーツの本名を口にする宗竜。

「!」

 驚いたのだろう、動きを止め、宗竜の方を見るライダースーツ。

『パアァン!』

 そこに、すかさず火薬の破裂音が響く。発生源は、生徒会長が手にした道具だ。

「!」

 銃声と勘違いしたかどうかは、知らないが、今度は生徒会長の方を見るライダースーツ。

「それを待ってだんだぁっ!」

 左手のスタンガンを捨て、ゴム手袋を着用した左手で、ライダースーツの全面合わせ目を開く。そして、露出した『金属製のジッパー』に、スタンガンを押し当てる宗竜。

「スイッチ・オン!」

 今度こそ、ライダースーツの肉体に電流が、奔った。

「大丈夫ですか? 終わりましたか? 多賀君。」

「生徒会長、一見、ぐったりしています。が、念の為です。」

 今度は、ライダースーツの首を、僅かにひねって、首を露出させ、そこにも電流を流す宗竜だった。

 そこに、ノックの音と共に扉の外から声が聞こえる。

「終わったかい。そろそろ中に入ってもいいかい。」

「はい、所長。今終わりました。……生徒会長、いいですね。」

 生徒会長の諾の応えを受け、スタンガンのスイッチを切り、部屋の照明を灯し、それから扉を開ける宗竜。

 ついでに、生徒会長にゴミ箱を差し出し、使用済みのクラッカーを捨てさせる。

「おっと。すげぇな。用意したネット、全部使ったのかい。」

 乱闘現場の事後、と言う惨状を目の当たりにしたのだ。無理からぬ発言だろう。

「残念ながら、手加減する余裕も、節約する余裕も、ありませんでした。ですが、『消費』した訳ではありません。ので、ご容赦のほど……。」

「あーっ……いいって、いいって、兎に角、ちゃっちゃと片すぞ。おい、直子、手伝いな。」

「オイっす。」

 三木直子の「うっす。」は、「オイっす。」と聞こえた様な気がしたが、きっと気のせいだろう。

 古の5人組とも無関係に相違ない。


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