第33話 『能力』の『謎解き』~前編

「ふぃーっ……。」

 伸綱の「ふーっ……やっと終わったな。」は、「ふぃーっ……。」と聞こえた様な気がしたが、きっと気のせいだろう。

 某魔法使いとも無関係に相違ない。

 但し、勝利宣言と言うより、残敵の掃討が、片付いた疲労感を現す伸綱だった。

「しっかし、よくこんだけの人員を投入で来たなぁ。こいつ。」

「興信所所長の兄、兄の伝手で鍵屋に、トラックドライバー。全て、所長が事前に調べた通りでした。後は、ライダースーツの上から見た体格から、本名を言い当てる事もできました。」

「ホントっす。全て伸綱叔父さんのおかげっす。そいつらを、とっ捕まえたのだってそうっす。タガ、あんたじゃないっす。」

「お待ちなさい。勝手にまとめに入らないで下さい。未だ肝心の事実が、不明のままですよ。多賀君。」

「生徒会長、『肝心の事実』、ですか。」

「そうです! あなたが、言ってましたよ。『能力者による能力攻撃』だと。」

「そうですね……そろそろ、その説明に入る頃合いでしょう。」

「おっ、待ってました。名探偵による種明かしの時間だ。」

「ですが、その前に、ありがとうございました。所長が、用意してくれた防弾防刃並びに絶縁スーツを、始めとした全ての装備のお陰です。」

「いいって、いいって、全部エリー嬢ちゃんの為でもあるんだからよ。そ・れ・よ・り、種明かしは、どうなんだよ。」

「はい、では始めます。まず、『奴』が、今日、この時間に、ここを訪問した目的です。」

 ライダースーツを指さしつつ発言する宗竜。

「エリー嬢ちゃんを、ヤりに来たんだろう。」

「所長、その目的なら、ほぼ達成済みです。」

「そいつぁ……どう言う……? そうか! 『死の予知』か!」

「はい、所長。ちなみに、『ヴィーナス・ビーズ』と言います。」

「なんっす? それ。」

「『奴』自身の『能力』です。それに、『奴』自身が、そう名付け、呼んでいました。それが、『ヴィーナス・ビーズ』です。それを『奴』は、僕にも向けて使いました。つい先程。」

「……! つまり、『奴』は、その『ヴィーナス・ビーズ』を、エリー嬢ちゃんに使った。それが、『死の予知』を引き起こした。更に、お前さんにも使った。そう言いたい訳かぁ……えっ!」

「はい、所長。で、その肝心な『能力』ですが、少々詩的な表現になる事をお許しください。」

 一旦、言葉を区切る宗竜。

「『対象を呪い殺す』事ですね。」

 予想通り、全員の頭上に「?」が、浮いていた。

「まったく、『予知能力』は、柔軟に受け入れても、『呪殺』は、できないとは……。」

 等と言う無駄口を叩かない宗竜だった。

「では、説明の順番を変えましょう。問題です。僕の後ろにある姿見に、何が映っているでしょうか。」

「多賀君の後ろ姿です。」

「タガの背中っす。」

「右に同じだな。」

「では、これならどうでしょう。」

 そう言うと、振り返り、姿見の方を向く宗竜。そして、おもむろに、姿見を見る姿勢で頭部を動かさず、右手を後方に伸ばして、『何か』を鷲掴みにした。

 こうして、また振り返って、右手に鷲掴みにした『何か』を3人に見せつける。

「これ、何に視えますか。」

「……んんんーっ……俺には、『凶悪な面構えの黒いてるてる坊主』にしか見えねぇな……。」

「そうですね。私にもそう見えます。」

「…………………………まぁ……あたしも、そうっす。で、これなんっす?」

「では、『ヴィーナス・ビーズ』の『能力』を説明します。それは、対象に『悪霊』を、憑依させ、『呪い殺す』事です。ちなみに、『こいつ』が、その『悪霊』です。」

「んんんーっ……つか、その『呪い殺す』って、具体的にどうするんだ?」

「そうですね、但し、今から行う説明は、『近似値』になります。これは、あくまで適切な言葉を『当てはめている』に過ぎません。ご容赦下さい。」

 全員が、無言で先を促したのを、確認して説明を始める宗竜。

「『悪霊』は、『エネルギー』を、対象に送り込みます。これは、『不運』『不幸』『不遇』と言ったものです。それは、徐々に対象へ『蓄積』され、それが、飽和状態になると……」

「! ……それが、『呪い殺す』って事かい。」

「はい、所長。尚、この場合、『不幸』にも『事故死』するのです。更に、『悪霊』は、『能力者本人』のみが、『認識』『接触』『攻撃』が可能です。他の者には、『不可能』です。」

「……おひおひ……よく、そんな事分かるなぁ……どうやって、『推理』したんだ。」

「……! そうっす! そんなもの! お前のオクソクっす!」

「『推理』? そんなもの、必要ありません。『悪霊』に『直触り』すれば、誰にでも分かりますよ。僕が、押さえていますから、今なら問題ありません。さあ、どうぞ。」

 宗竜が、右手に持つモノを突き付けられ、嫌そうな貌になる一同だった。

「……あたしは、さっきの説明で、だいたいわかったっす。だから、やめとくっす。」

「んーまぁ……なんつーか、お前さんの説明、分かり易かったよ。うん、俺も大ジョブだな。」

 二人は、あらぬ方を見ていた。

「では、私が触れましょう。多賀君、お願いします。」

「え!?」

 二人の驚きが、唱和した。

「生徒会長、どうぞ。」

「は!? 無茶っす! 危険が、無い訳ないっす!」

 ここで、生徒会長、二人に向き直り、優しく微笑む。

「大丈夫ですよ。」

 そう、聞こえたような気がした。

 そして、突き出された『悪霊』の後頭部に『直触り』した生徒会長。

「! ! ! ! !」

 声にならない悲鳴を上げ、膝から崩れ落ちる生徒会長。

「! なんだっす! やっぱりっす! お前なんて事してくれたっす!」

 伸綱が、止める暇も無く、三木直子の右拳が、宗竜めがけて襲い掛かる。

 格闘技訓練を受けた人間の拳に、素人の宗竜が出来た事は、ただ一つ。手にした物を盾にする事のみだった。

「ふんがー! ! ! ! ………………っす……。」

 『悪霊』の後頭部に拳が命中してしまった三木直子もまた、膝から崩れ落ちた。

「……おいおい……大丈夫かよ。」

 とっさに、生徒会長を心配する伸綱。

「所長、大丈夫ですよ。二人共驚いただけです。」

「…………ええ……大丈夫です。確かに、驚きました。こんな事実が、あったなんて。」

「ホント…………ビックリっす。」

「二人共……何とも無いのか……。」

 呻くように呟く伸綱だった。だが、唐突にある事に気づいた。

「え!? 何、その眼、まさか、俺も触れってか!?」

「何で、そんな事聞くの?」

 そう言う瞳で、見られる信綱だった。

「えー!? ……はいはい。わっかりましたよぉー。」

 深呼吸しだす伸綱。そして、気合を入れなおし、おもむろに、『悪霊』へと向き直る。

「勇気の人差し指!」

 信綱の「男は度胸!」は、「勇気の人差し指!」と聞こえた様な気がしたが、きっと気のせいだろう。

 汚物に触れようとした訳でもなかろう。

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