第13話 種明かし~宗竜の策

「……っと、ストップ。」

 骨太の人差し指が、マウスをクリックし、再生動画を止めた。

「……確かに……『予知』した通りです。が、事実を見せつけられるのは、違いますね。」

「しかし、感慨深いねぇ……『あの』エリー嬢ちゃんが、男連れで俺の所に来るなんてなぁ……長生きは、するもんだ。」

「四十路そこそこの外見で、何年寄り臭い事いってんだか……。」

 などと言う無意味な指摘をする者などこの世界にいない。

「おいおい、失礼な事言うなよ。俺は、まだ39歳だ。」

 などと言う無意味な指摘に事実を被せる者などこの興信所事務所にいない。

「伸綱叔父様、セクハラにならない内に、やめて下さい。」

「はいよー、おおこわ……。」

「生徒会長から『凄腕の興信所所長』と伺っていました。ひょっとして、ハッカーですか?」

「ん? ああ、そうさ。」

「しかも、生徒会長の『能力』の事も存じ上げている数少ない理解者ですね。」

「そうだな。」

「しかも、店内監視用のカメラ映像だけでなく、事前に盗聴器を仕掛ける事で、録音まで完璧。流石、プロ……一流の仕事ですね。」

「そりゃそうさ。とは言え、エリー嬢ちゃんの適確な、事前情報があったからこそだ。しっかし、よく思いついたな。連中に『ニセ札』を使わせて、現行犯逮捕させるなんて。」

「本当に、伸綱叔父様の言う通り。ここまでは、想定通りね。……むしろ、思ってもよく上手くいっているわ。全て、あなたのお陰よ。多賀君。」

「生徒会長、僕が提供した情報は、2つだけですよ。

 1つ、『一部の和紙は紙幣と手触りが似ている』

 1つ、『興信所なら鮮明な写真を印刷する為高性能プリンターを有しているに相違ない』」

「それだけの情報で、よく『偽札大作戦』を思いつきましたね。それに、興信所にすこぶる詳しいですね。」

「父親が、母親の浮気の証拠写真の撮影を、興信所に依頼しました。その写真の出来栄えが、デジタルにもかかわらず、凄かったから。そうであろうと、考えたまでです。」

 等と言う無駄口を叩かない宗竜だった。

「生徒会長、いずれも、たまたま小耳に挟んだだけです。お陰で生徒会長の叔父さんが、経営する興信所に頼んだだけで、精巧な偽1万円札を1枚入手できました。」

「確かに、よく出来てました。本物との違いは、透かしが無い事、似ているとは言え手触りが少し違う事、印刷が少し薄い事、点字が無い事ぐらいですか。」

「生徒会長、ですからそれらを確認しない日を決行日に選んだのです。比較になる『本物』の、1万円札の持ち合わせが無い日--昨日--を『予知』して貰えたおかげです。」

「とは言え、まだもう1山ありますよ。多賀君。」

「ええ、生徒会長、『予知』の通りなら、連中が、『拾った1万円札を使っただけだ。偽札とは知らなかった』と主張している事でしょう。で、弁護士先生の方は?」

「そんなもの、『予知』などなくとも、分かるけどな。」

 等と言う無駄口を叩かない宗竜だった。

「勿論、叔父様の紹介で、未成年刑事事件の専門家を頼みました。警察が、松平君を任意同行するのは、『今日』です。予約もバッチリです。」

「を……噂をすれば、ですよ。生徒会長、松平先輩からです。『K』だそうです。やはり、連中は、僕が誰なのか分からず、『松平先輩が落とした』と主張したようですね。」

 生徒会長が、弁護士に連絡を入れた。


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