第3章

第17話 イジメ~下諏訪

「そーいや、天井のデンキって、変えたのかしら。」

「そーだっけ?」

「ああ、たしかエルイーディーに、したんだってさ。」

「へー。」

 3年生の女子達の会話だが、実際には、火災警報器だって、交換されている。気付く者が、ほとんどいないだけだ。

 談笑しながら、3人の女子生徒達は、一番後ろに座っていた女子生徒の後頭部に鞄をぶつけていた。

「痛っ。」

 被害者は、自席で教科書などを鞄から机の収納スペースに、移していたのは、眼鏡におさげの小柄な女子生徒だった。

「ん? あれぇ~ゲス……ワじゃん。挨拶もしないから、いるのか分かんなかったわぁ~。」

「いるなら、いるって言いなさいよ~。カス……ワっち。」

「気を付けなよ。シモちゃん。」

「私の名前は、下諏訪(しもすわ)です。名前くらい覚えて下さい。それに、鞄を他人にぶつけたら、謝罪。常識でしょう。」

「ん~っ♪ほら、書いてあんじゃん。ゲスワって。」

「それ! 私の生徒手帳。返しなさい。」 

「何、チョーシこいてんだ? 命令する権利あんのかよぉ~。カぁ~スぅ~ワぁ~。」

 二人がかりで、両腕を抑えられ、おさげを引っ張られた下諏訪。

「……いっ……痛……止めて……。」

「まぁ~~ったく、漢字も読めないなんて、よく学年2位の成績取れるねぇ~。カンニングでもしてんじゃね?」

「ちっ違うわ……。」

「んん~~っ♪だったらぁ~♪鑑定してやんよぉ~♪あ・た・し・らが。」

 いつの間にか、生徒手帳は、床に落とされ、代わりに机の収納スペースから、ノートが取り出されていた。

「そ……それ、私のノート……。」

「おーおー……おあつらえ向けに、今日提出用の宿題、できてんじゃん。これの答え合わせをしてやるよ。ほら、写真撮りな。」

 残る2人は、スマホで写真を撮り、自席に着く。そこに、担任の女教師がやって来た。

 教室内の生徒は、素早く自席に戻り、挨拶を済ませる。

「どうしました? 下諏訪さん。」

「先生……実は、今日提出用の宿題ノートを盗まれました。」

「は? 誰がそんな事すると言うのです。」

 下諏訪は、名前を呼びながら、犯人を指さした。

 そこで、担任も件の女子生徒を問いただす。

「知りません。」

「下諏訪さん。『知らない』と言っていますよ。あまり、クラス内の平穏をかき乱す事、感心しませんね。」

「先生!」

「先生って、『先ず生きる』って書くんだよ。」

 などと言う無意味な指摘をする者などこの教室にいない。

「お静かに、出席を取ります。」

 こうして、朝のホームルームは、つつがなく終わった。


 * * * 


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