第19話 密談

「2週間かけて、この程度ですか。期待外れもいい所ですわ。」

 場所は、駅前のカラオケ店。そこの10人部屋だ。今、口を開いたのは、上座の左側に座る右目を前髪で隠している女性。尚、この部屋にいるのは、敦盛学園3年生女子生徒のみだ。

「すみません。ゲスワに、話しかける奴や、近づく奴らに、片っ端から、嫌がらせしたんで、時間がかかりました。今のゲスワは、孤立してるんで、徹底的に責めるだけです。」

 ちなみに、下諏訪をイジメていた加害者3人が、ここには揃っている。

 3人共、下座の床に土下座していた。

「勘違いなさらないで下さい。担任を味方に付けたのは、貴女達ではないのですよ。」

 こちらは、上座の右側に座る女性。左目を前髪で隠している。

「はい! 分かっております。お嬢様のお陰です。大変感謝しております。今なら、ゲスワを、不登校に追い込むのも時間の問題です。ですから……」

「ん? 何かしら。もっと、はっきり仰い。」

 今、口を開いたのは、上座の左側に座る女性。

「ですから、あたしらまで、イジメないで下さい。」

 今度は、土下座している3人の声が、唱和した。

「勘違いなさらないで下さい。私共は、その様な野蛮な事は、致しません。ですが……。」

 今度は、上座の左側に座る女性だ。更に、右側の女性に目くばせをする。

「ですが、役立たずの貴女達が、何処でどの様な状態になったとしても、私共は一切関知しません。」

 上座の左側に座る女性が、後を引き継ぐ。

 土下座3人衆は、震えていた。恐らく、かつてイジメられていた時の記憶が、フラッシュバックしたのだろう。

「今月一杯……。」

 今度は、絞り出すような声が、漏れる。

「ん? 何かしら。もっと、はっきり仰い。」

 今、口を開いたのは、上座の右側に座る女性。

「今月一杯です。時間を下さい。そうすれば、必ず、ゲスワを不登校に追い込みます!」

「まぁ♪螺夢姉様、お聞きになりまして。」

「聞きましてよ♪麗夢。『今月中に成し遂げる』ですって。」

 鈴を鳴らすかの如く笑うのは、双子の様によく似た2人の女性達。

 この時、半開きにした扇を、閉ざす音が響いた。

 途端、室内が静寂で満たされた。

 天井を指し示していた扇の先端が、降ろされ、土下座連中を指し示した。

 凍り付いた空気が、再び動き出す。

「貴女達、お嬢様のお計らいに、感謝なさい。」

 今、口を開いたのは、上座の中央に座る女性の、右側に座る女性。

「じ……じゃあ……。」

 土下座共の声に、安堵の響きが混じる。

「勘違いなさらないで下さい。貴女達が、『今月中』と言ったのですよ。もし、約束を違えたなら……。」

 今度は、上座の左側に座る女性だ。

「分かっていますわね。」

 と言う趣旨を込めた、無言の圧力をかける両脇に座る女性達。

「はぁっ……はぁぁぁぁぁいぃぃっ!」

 更に、平身低頭する土下座共。

「帰ってよし。」

 右側の女性の一言に従い、頭を下げながら、部屋を後にした3匹の土下座だった。

 ちなみに、上座中央に座る女性は、我関せずと、半開きにした扇で口元を隠していた。


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