25話 渋谷ソウタは、友人を探す

 俺たち三人(?)が向かったのは、電車で数駅離れた場所だった。


 電車を降りて、しばらく歩く。

 繁華街を抜け、住宅街に入った。

 駅から離れるにつれ、人通りが少なくなっていく。

 アカネは、一人で先に進んで行く。

 俺はぽてぽて歩くアカネの後ろから、声をかけた。


「アカネ」

「うん、なに? ソウタくん」

「今は……アカネなんだよな?」

「私も居るよ! ユキナだよ!」

「うぉっ!」

 いきなりアカネの表情が切り替わった。 


「ユキナも……居るのか?」

 ど、どーなってんだ? これ。


「ふふふ、今の私はアカネちゃんと一心同体なのです」

「いや、心は別だから」

「じゃあ、異心同体です」

「二重人格っぽくて、やだなぁ」

 何だこの漫才。

 二人の間に入っていけない……。

 まあいい。

 話を戻そう。


「アカネ。トオルを誘拐したっていう『教団』って、一体何なんだ?」

 これから敵の本拠地(?)に向かうようなので、知っておきたい。


「『緑衣の教団』って知ってる?」

「名前くらいなら」

 トオルから教えてもらった。


「最近設立されたばっかりのカルト宗教団体なんだけど、怪しい神様を信ずる怪しい集団だよ」

「ざっくりし過ぎだろう……」

 具体的な情報がゼロなんですが。


「私もそんなに詳しいわけじゃないんだだよね~……。一つ知ってるのは彼らの信仰する教義の中心が『死者復活』であること、らしいよ」

「死者復活……?」

「そう、大切な人を失ってしまった人たち……。彼らに『死者復活』の希望をちらつかせて信者を集めている集団……なんだって」

 死者復活?

 その言葉に、引っ掛かりを覚えた。


「死者復活なんて……可能なのか?」

「できないよ。死者を生き返らせてはならない。どの教科書にも書いてある犯罪行為だよ」

「……だけど、魔法使いなら」

 この前会った魔女の人や、ユキナがアカネに取り憑いている不思議な状況を見ていると、本当は可能なんじゃないかって気がしてくる。

 しかし、アカネは首を横に振った。


「無理だよ、ソウタくん。死者復活の魔法なんて神の奇跡とすら言われているの。私の知る限りそれを使える魔法使いはこの世界に存在しないよ。ソウタくんが会った藤色の魔女さんでも無理」

「そっか……」

 俺は小さく息を吐いた。

 そうだよな……、そんな都合の良いことがあるはずない。

 ふと、俺はトオルの言っていた言葉を思い出した。


「そういえば、トオルからは『スノウ』っていう違法薬物をばら撒いてる集団って聞いたけど……」

「それは、ただの資金調達方法。それと『スノウ』には悲しみを忘れ去れるって、効果があるんだって。まあ、ついでに理性まで失っちゃうらしいけどね」

「欠陥品じゃないか……」

 アカネの説明に俺は呆れた。

 

(でも、もしかしたら俺も……)

 ユキナを失って生きる気力が湧かなかったあの頃なら、俺も『死者復活』なんて言われたら、それに縋っていたかもしれない。


「ふんふん、なるほど~。そーいう集団なんだね」

 と言うのはアカネ……に憑依したユキナだろう。

 

「ユキナ、トオルを誘拐した連中はどんな外見だったんだ?」

「んー、なんか全員緑色の服を着た人たちだったよ」

「それ……目立ち過ぎないか?」

 絶対に怪しい集団として、人目を引くだろ。


「だよねぇー、でも何故か誰も気にしてなかったんだよね」

「あー、ユキナちゃん、ソウタくん。多分それは、『認識阻害』の魔法を使ってたんだと思うよ」

 ユキナの疑問に、アカネが答えた。

 傍目には、一人コントだが。


「魔法?」

「認識阻害?」

「人目を引かないようにする魔法。そんなに難しくない初級魔法だよ。……勿論、一般人には使えないけどね。あとユキナちゃんには幽霊だから通じなかったんだと思うよ」

 へぇ……。

 便利そうだと思ったけど、当然魔法使いしか使えないと。

 というか、俺が知らないだけでこんなに世の中には魔法が溢れてるんだな。


  

 そんな会話をしていると、俺たちは目的の場所についた。


 

 そこは、一見何かの工場のようにみえる。

 ただ、今は稼働していないようだ。

 

「ユキナ、ここなのか?」

「うん、トオルくんが誘拐されてこの建物に入っていくのを見たよ」

「じゃあ、中を見てみないといけないのかな……」

 そこでアカネと俺は顔を見合わせた。

 工場の敷地に入るには門を越えないといけないわけだが、門は締まっていて明らかに施錠されている。

 門の高さは三メートル以上ありそうで、あれを乗り越えるのは少々骨が折れる……というか、俺はともかくアカネは無理じゃなかろうか?

 アカネの表情から、俺と同じことを考えているように思われた。


「問題ないよ。私が裏口を探しておいたから」

 そう言うとユキナの口調で、アカネが工場の周りを囲む壁沿いに歩き出した。

 工場の裏は公園と小さな森のような場所になっている。

 公園には誰も居ない。

 俺たちはその中を奥に進んだ。


「ほら、ここに裏口があるでしょ?」

 確かに木々に隠れるように、小さな裏門があった。

 表の門に比べると、高さも低く乗り越えるのは容易そうだ。


「でも、これ不法侵入じゃ……?」

「何言ってるの、ソウちゃん! トオルくんがピンチなんだよ!? 親友でしょ?」

「……わかったよ」

 俺は門に手をかけ、それを飛び越えた。


「「え?」」

 俺が無事、向こう側に着地すると後ろから二人分の驚きの声が聞こえた。

 それどうやって声だしてるんだ?


「すごーい、流石ソウちゃん! こんな高い門を軽々飛び越えれるんだー」

「え……、これ私も行くの……」

 ユキナは笑顔で褒めたたえ、アカネが悲しそうな顔をする。

 というか、身長の低いアカネだとこの高さでも厳しそうだ。


「アカネ、無理そうなら俺一人で行こうか?」

「うー、でもソウタくん一人も心配だし……。私も行くよ。でもあっちを向いてて」

「え? なんで」

「スカートだから!」

「ああ、そっか」

 俺は慌てて反対側を向いた。


 後ろから、ガシャガシャと門を上る音が聞こえる。

 こんな音を立てて大丈夫だろうか……?


「アカネ、大丈夫? 手伝おうか?」

「……いま、上まで登れたからあとは下りるだけ……、えっ? こんな高いの?」

「おい、アカネ。やっぱり手を貸……」

 悪いと思いつつ、そっと振り返ると危なっかしい動きで、門の上部から降りようとするアカネの姿があった。

 あ、バランス崩した。


「きゃぁ!」

「危ない!」

 慌てて、落ちそうになっているアカネに駆け寄る。

 そのままだと、腰から落ちそうだったところを受け止めた。


 ぽすっ、と勢いを殺すようにアカネの小さな体を抱きとめた。


「大丈夫か?」

「う、うん……ありがと」

 ちょうどお姫様だっこのような体勢で、アカネを抱き上げ、アカネは俺にしがみついている。


「「……」」

 しばらく見つめ合ったまま、無言の時間が過ぎた。


「いつまで、抱き合ってるのかな~?」

 アカネの顔が、じとっとした目に変わった。

 ユキナだ。

 

「ああ、降ろすよ」

「うん、ソウタくん、ありがとうね」

 俺とアカネは少し照れつつ、身体を離した。


「じゃあ、行こうか。気を付けて」

「う、うん……」

「行こうー☆」

 若干、一名(一幽霊)のテンションが高い中、俺たちは工場の奥へと歩を進めた。

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