最終話 ユーレイな彼女
◇アカネの視点◇
学校でソウタくんと別れ、私はある場所に向かった。
そこは幼い頃によく来ていた近所の公園。
幼馴染のユキナちゃんと、ブランコや砂場で遊んだ思い出の場所。
肌寒い今の季節には、公園で遊ぶ子供の姿は無い。
園内に入ると、風も吹いていないのにブランコがゆっくりとキーコ、キーコと揺れている。
(視えない人からしたらホラーになっちゃうんじゃないかなぁ……)
ご近所で『一人でに動く不気味なブランコ』なる怪談話が広まってしまうのではないかと、少し心配になった。
ブランコに座っているのは、髪の長い制服姿の女の子。
昨年に交通事故で亡くなった幼馴染、東雲ユキナ――の幽霊。
ここ最近、ソウタくんと出会わないように逃げ回っている私の親友。
俯いて表情は見えない。
私は親友に声をかけた。
「お待たせ、待った? ユキナちゃん」
「遅いよー、アカネちゃん!」
ぱっと顔を上げた表情は、いつもの明るいユキナちゃんだった。
私は二つ並ぶブランコの、ユキナちゃんが座っていないほうに腰を下ろした。
ブランコに座るなんて何年ぶりだろう。
「今日は何してたの?」
「んー、街をふらふら? アカネちゃんは?」
「私は学校だよ。ユキナちゃんも学校に来ればよかったのに」
「幽霊の私が行っても仕方ないし」
そんな雑談をした。
でもこれって、はたから見ると私の独り言なんだよねぇ。
少しして本題を切り出す。
「今日はソウタくんと話をするよね?」
「………………」
会話が止まった。
ユキナちゃんからの返事がない。
「ユキナちゃん?」
「…………わかってる、よ」
先日の神様召喚事件。
ソウタくんはその事件に巻き込まれて、危うく異世界に遭難するところだった。
危ないところを
そして、それ以来ユキナちゃんはソウタくんの前に姿を現していない。
「ねぇ、今のソウタくんはユキナちゃんの姿が視えるし、会話だってきっとできるよ。だから会って話しなよ」
「……ソウちゃん怒ってるんじゃないかな?」
「まぁ、あんな事件に巻き込まれたからね。ちゃんと謝らならきゃ」
「……うん、許してくれるかなぁ」
「大丈夫だよ」
「でも……」
ずっとこの調子だ。
あれだけ話したがっていたのに。
ソウタくんが、異世界に迷い込んだおかげで幽霊の姿が視えるようになったのに。
肝心のユキナちゃんが、及び腰になっている。
「やれやれ、何事にも猪突猛進なユキナちゃんがこんなに悩める女になるなんて」
私はため息をついて、ブランコを蹴った。
ゆっくりと周りの景色が揺れる。
しばらくの間、ユキナちゃんがしゃべるのを待った。
「アカネちゃんは、私がソウちゃんと会ってもいいの?」
ユキナちゃんの口から出てきた言葉は、そんなものだった。
何を言っているのかは……わかっている。
「今のソウちゃんは、アカネちゃんの彼氏だよ? 私は要らないでしょ」
「ソウタくんは、ユキナちゃんに会いたがってるんだよ? いいからさっさと会いに行くよ」
私はちょっとイライラして強い口調で言った。
このままじゃ、ソウタくんを待ちぼうけさせちゃうし。
ユキナちゃんが、ぼそりと言った。
「アカネちゃんは、ずっと前からソウちゃんのことが好きだったでしょ?」
「……ソンナコトナイヨー」
このカウンターは、卑怯だ……。
でも、知ってる。
これがユキナちゃんが、ソウタくんに会いに行かない最大の理由。
私に気を使っているから。
「私、取り憑いた相手の心が読めるの。だからアカネちゃんの気持ちは全部、知っちゃったし」
「プライバシーの侵害だー!」
実際、相当な侵害では。
心が読まれるって。
「うぅ……まさか、アカネちゃんが私の彼氏のことをずっと好きだったなんて」
「しみじみ言うのはやめてもらえるかな!?」
別に親友の彼氏に横恋慕してたわけじゃないし!
ちょっと、いいなぁって思ってただけだし!
「ま、無事にソウちゃんを私から寝取ったわけで」
「寝取ってない! そもそもユキナちゃんからソウタくんと付き合ってって言ったでしょ! 人聞きの悪い!」
「そうだっけ?」
「そもそも、私とソウタくんはまだ何もしてないし……」
「キスはしてたじゃん」
「いや、だって、あれは……」
「……してたじゃん」
「くっ……」
あの時は、そもそもキスする空気だったし。
そんな空気にしたのは、ユキナちゃんだし!
そろそろ言われっぱなしも腹が立ってきた。
だったら、こっちからも反撃してやる。
「大体さぁ、今頃になって私とソウタくんが付き合ってるのに嫉妬するくらいなら、付き合えばとか言わなきゃよかったんだよ!」
「ち、違っ」
「違うの?」
「…………違いません」
あっさり白状した。
そう、結局のところユキナちゃんはソウタくんに未練があるのだ。
山のように。
「じゃあ、ソウタくんに会って謝ろう」
「もう私のこと嫌いになってるかも」
「そんなこと無いよ」
「私が考え無しで、あんな怪物を呼び出しちゃったし……」
「ユキナちゃんが無鉄砲なのは、知ってるから」
「うぅ……」
はぁ、と私はため息をつく。
話が一向に前に進まない。
少し話題を逸らすことにした。
「ユキナちゃんは、これからどうするの?」
「……私って
私の質問にユキナちゃんが、不安げに答える。
これは
「ユキナちゃんは、霊体になって魔法の才能が開花しちゃったからね」
「幽霊になってからそんな才能に目覚めても」
ユキナちゃんが、大きくうなだれた。
そう、今のユキナちゃんは幽霊だけど魔法使いでもある。
死んでしまうことで、眠ってた才能が花開いたと。
まるで少年マンガの主人公みたい。
「大気中の
「で、私の寿命……幽霊の寿命って変な話しだけど、私が消えるまでの時間は……」
「百年近いらしいね」
「もう、それって普通に生きてるのと変わらないじゃん!」
そう、今のユキナちゃんはとても長寿の幽霊になってしまった。
長寿の幽霊って何だ。
「あぁ……私がやったことは何だったの……」
またユキナちゃんが、遠い目をしている。
もう強引にいくしかない。
「ほら、行くよ」
私はユキナちゃんの手を引っ張った。
「えぇー、ちょっとちょっと。まだ、心の準備が」
「一週間以上あったでしょ!」
私は駄々をこねるユキナちゃんを、引っ張った。
(あっ、通行人がこっち見てる)
何度も言うが、ユキナちゃんの姿と声は私にしか聞こえない。
危ない人だと思われたかも。
私は速歩きで、その公園を出てソウタくんとの待ち合わせ場所へ向かった。
◇
「うぅ……、怖いよう。ソウちゃんになんて言われるか……」
「まだ言ってる」
そろそろ喫茶店に着く頃だというのに、ユキナちゃんはぶつぶつ言っている。
「はぁ、そもそもユキナちゃんが会うのを嫌がるのが意味わからないんだよ。むしろ私のほうがビクビクしてるのに……」
私がぼそっと言うと、ユキナちゃんがぱっとこちらを見た。
「どういう意味?」
「だって、ソウタくんがユキナちゃんとよりを戻すってなると私は捨てられるわけだし……」
「それはないんじゃないかなぁ」
「何で? ソウタくん、ユキナちゃんのこと今でも好きだよ?」
今年に入って二人でご飯を食べたりしてたから、わかる。
ソウタくんは、ユキナちゃんのことを全然忘れてない。
「ソウちゃんはね、アカネちゃんみたいな子が好みなんだよ。身体がちっちゃくて、気が強くなくて、天然ボケで、胸がちっちゃくて……」
「そんな褒められると照れ…………最後、何って言ったの?」
「あー、ついに店に着いちゃった……」
「ちょっと、最後の言葉は聞き捨てならな……」
「ねぇ、ソウちゃんと楽しそうにお茶しているあの可愛い女の子は誰?」
「ん?」
私はユキナちゃんを問い詰めるのを中断して、喫茶店のテラス席に視線を向けた。
そこにはソウタくんとおしゃべりする副店長の黒猫さんと店員さんの姿があった。
私が紹介したお店なのに、ソウタくんのほうが馴染んでる……。
ただし、女の子の姿なんてどこにもない。
「ソウちゃんが、また新しい女と仲良くしてる!」
「ユキナちゃん、あの店員さんは男の子だよ……」
「えっ! あんなに可愛いのに?」
「それ言うと怒られるからね、気をつけてよ」
あの店員さんは魔女様の弟子だ。
魔法を使っているのを見たことはないけど、私なんかよりずっと凄い魔法使いのはず。
「お待たせ、ソウタくん」
私は店員さんと話し込んでいる彼に呼びかけた。
ソウタくんはパッと振り向き、私にを見たあとすぐ隣のユキナちゃんに釘付けになった。
あぁ……やっぱり。
「ソウちゃん、久しぶり……」
「ユキナ……」
二人が見つめ合う。
これは……。
「お客さんが来たので、テーブルを空けます。副店長もどいてください」
「吾輩はいいだろう?」
「駄目です」
「この場所が一番、日当たりがいいんだ」
「いいですよ、
「話がわかるな、少年」
副店長、マイペース過ぎじゃない!?
ひとまず、私はソウタくんと同じテーブルに腰掛けた。
ユキナちゃんは、私の隣にそわそわしたように座る。
「ごめんなさい! ソウちゃん!」
店員さんが、紅茶を二つ置いて去ったあと、ユキナちゃんがテーブルにぶつけるような勢いで頭を下げた。
◇ユキナの視点◇
頭を下げて、私はソウちゃんの言葉を待った。
色々と暴走してしまって、沢山人に迷惑を……いや、ソウちゃんにとんでもない迷惑をかけてしまった。
私は死んじゃったから、ソウちゃんのことはアカネちゃんに任せようなんて思っていてたら、偶然見つけた神様を召喚しようとしている宗教団体の話を聞いて「私が生き返れるかも?」なんて『期待』してしまって。
そうなると私が勧めたはずの、ソウちゃんとアカネちゃんの関係が急に妬ましくなって。
でも、今更引っ込みもつかず、とりあえず何かをしようとしたら、大失敗をした。
怒っているだろうか?
それとも呆れている?
きっと両方だろう。
「…………」
私はソウちゃんの言葉を待ったけど、返事がない。
恐る恐るソウちゃんの顔を見ると、……首を傾げていた。
「何か謝られるようなことあったっけ?」
「「あったでしょ!!!」」
私とアカネちゃんは口を揃えて、叫んだ。
「わかってるの……? ソウタくんは、もう少しで死んじゃうところだったんだよ?」
「私は、あの工場に二人を騙して連れて行ったんだよ? お、怒ってるでしょ?」
アカネちゃんの言葉に、私は震えながら付け加えた。
そう、騙したのだ。
最低の行為をしたんだ。
「まあ、それは別にいいだろ」
「えぇ……それで済ますの?」
アカネちゃんはまだ戸惑っているが、ソウちゃんのこの言葉。
本気で、なんとも思ってないらしい。
……このままだと許されてしまう。
それじゃ、駄目だ。
私がさらに謝ろうと言葉を発するより早く。
「クリスマスの前日以来か……、ゆっくり話せるのは」
ぽつりとソウちゃんが言った言葉で、びくりと震えた。
「よかったよ。またユキナに会えて」
その口調は優しかった。
私を見つめる目は、いつものソウちゃんだった。
あぁ、駄目だ。
このままだと流されちゃう……。
「じゃあ、あとはお二人でごゆっくり」
アカネちゃんが席を立った。
って、えっ!?
「ど、どこ行くの!?」
私は慌てて、アカネちゃんの手を掴んだ。
「だって……二人で話したいでしょ?」
「違うから、誤解だよ」
「そうかなぁ、さっきからソウタくんとユキナちゃんがいい雰囲気だし……」
「待って、アカネちゃん」
マズイ、このままだと私のせいで二人が別れてしまう。
それが望みでは……ない……はず。
「ソウちゃん!」
「な、なに?」
私が大声を上げると、珍しくソウちゃんが少し狼狽えた様子を見せた。
「私より、アカネちゃんが好きだよね!?」
「へ?」
「ちょっと、ユキナちゃん!」
言葉選びを間違った気がするが、あとに引けなくなってしまった。
……何か、私ってこのパターン多く無い?
勢いで突き進んでしまう。
が、アカネちゃんが立ち上がって叫んだ。
「ソウタくん、本当はユキナちゃんと寄りを戻したいんでしょ?」
「アカネちゃん。変なこと言わないで!?」
この親友は、折角好きな人と結ばれたのに何を口走ってるの?
でも……その言葉を聞いて、私はソウちゃんの反応が気になった。
こそっと、ソウちゃんの方を見た。
「今日は……そういう話?」
引きつった顔で、頬を掻いていた。
本気で焦っている時の仕草だ。
つまり悩んでいる……?
「アカネちゃんが好きだよね?」
「ユキナちゃんのほうが好きでしょ?」
「…………えっと」
気がつくと、二人でソウちゃんに迫っていた。
あれ?
今日はソウちゃんに謝るはずでは?
なんで、こんなことに……。
「ドロドロした昼ドラ展開は
そんな声が聞こえた。
黒猫ちゃんだ。
ちょっと偉そうな喋る黒猫ちゃん。
猫なんだけど、このお店の副店長さんらしい。
「大変だな、少年」
「……今、人生で一番困っています」
困らせてしまった。
そう言えば、今日はソウちゃんに謝る日だったのに。
「そもそも片方が人間で、片方が幽霊だ。選ぶ必要があるのか?」
「「え?」」
黒猫ちゃんの言葉に、私とアカネちゃんがはっとして顔を見合わせた。
「別にいいじゃないか、無理に選ばずとも。さっきまで少年は久しぶりに
「……黒猫さん、それは秘密だと」
ソウちゃんが照れるように、言った。
「「…………」」
そして、私は……。
私は……また暴走したらしい。
ソウちゃんは、三人で集まれることを喜んでくれていたのに。
「アカネちゃん、この話はやめよっか」
「そうだね、ごめんね、ソウタくん。折角の退院祝いなのに」
「…………ああ、うん」
ソウちゃんは、ほっとしたようにクッキーをかじっている。
「助かりました、
「礼には及ばん」
「2つ目の鰹節が要りますね」
「吾輩はツナ缶も好きだぞ」
「いいやつを探しておきます」
ソウちゃんと黒猫ちゃん、仲いいなぁ。
「ところで少年。女性問題ついでに聞くが、君と繋がっている『女神』は、放置しておいていいのか?」
「え?」「ん?」
聞き慣れない言葉に、私とアカネちゃんは思わず声が出た。
繋がっている?
女神?
「あの……黒猫さん。なんでわかるんですか?」
「魔法使いなら、誰でもわかるぞ」
「はぁ……それは弱りましたね。
「そりゃあ、見つかるだろうな」
全然ついていけない。
アカネちゃんに教えてもらおうと、そっちを見たけど私と同じようなぽかんとした顔をしている。
「どうしましょう?」
「そもそもうちの店長は、すでに女神を見逃しているんだろう? なら隠す必要もない。吾輩が放置でいいのか? と言ったのは、女神が我々を羨ましそうに見ているから、一緒にお茶にすればいいだろうという意味だ」
「え?」
「どれ、
黒猫ちゃんが、「にゃおん」と鳴くと、突然地面に白い光文字が浮かび、そこから一人の女の子が現れた。
真っ白な肌。
床まで届きそうな長い黒髪。
そして、
なにより……信じられないくらいの美人だった。
背筋が凍るほどの。
私は恐怖で口が開かなかった。
「神様、今日は雰囲気が違いますね」
ソウちゃんは、その子にフランクに話しかけた。
「「…………」」
私とアカネちゃんは、絶句している。
「こちらの椅子をどうぞ」
店員さんは、何事もなかったように椅子を勧めている。
な、何これ!?
恐ろしく美人な女の子は、何も言わず椅子に座り、ソウちゃんをじっと見つめている。
◇渋谷ソウタの視点◇
アカネとユキナは、ぽかんとしており。
鏡の中とは随分雰囲気が違うが、神様がカップに入ったコーヒーを不思議そうに見つめている。
店員さんは、クールな表情のフリをして興味深そうにこちらを観察している。
元凶の黒猫さんは、若干のどや顔をしている。
「何でそんな冷静なの……ソウタくん」
「ソウちゃん、その子とはどんな関係なの!?」
アカネとユキナが震える声で、尋ねてくるがどう答えたらいいものか……。
「私ハ……ソウタト……魂デ……繋ガッテイル」
「繋がってる!?」
「魂!?」
いかん、神様に喋らせるとややこしいことになりそうだ。
「神様、美味しいコーヒーが冷めちゃいますよ」
「ム……、コノ黒イ水ハ美味イノカ?」
神様はコーヒーを飲んだことがないらしい。
俺はミルクと砂糖を入れてあげた。
神様は、それを恐る恐る飲んで「熱っ><!」という顔をしている。
アカネとユキナは、俺と神様を不審な目で見ている。
カオスな状況になった。
俺は、気分を落ち着けるためにコーヒーを飲み干した。
「おかわりはいかがですか?」
絶妙のタイミングで、
「お願いします」
と俺は答えた。
「お待たせしました」
あっという間に、二杯目のコーヒーが届く。
うん、美味しい。
にしても……
「作り置きじゃないのに、さっきのコーヒーと全く同じ味なのは何でなんですか?」
気軽に話せるようになった店員さんに尋ねた。
何でもいいので、話題を変えたかった。
「さすがはソウタさん、わかってますね。コーヒーは淹れてから30分以内に飲まないと、味が劣化してしまいます。だから、うちはコーヒーを淹れたあとに『時間を止めて』いるんです。だから、いつでも淹れたてが味わえます」
「なるほどー」
要は神様の世界と同じ原理か。
あそこでは、時間の流れが止まっていて、俺は何日間も飲まず食わずで過ごすことができた。
「ソウタくん!? あっさり納得してるけど、今相当ヤバいこと言われたんだよ!? この店の飲み物に伝説の魔法が使われてたって知って、私は震えてるんだけど!」
「その程度で騒ぐな、赤羽の小娘」
「副店長……その程度なんですか」
アカネの反応をみるに、どうやらこのコーヒーの美味しさの秘密は、魔法の力らしい。
それが一杯500円かー。
やっぱりいい店だ。
「なんか、騒がしいわね……。私の庭にどっかの神格が紛れ込んでる気配が……あー!! あんた、性懲りもなく来やがったわね!?」
「キャアアアアア!!!」
魔女さんの姿を見たとたん、神様が俺の後ろに隠れた。
俺の腰にぎゅっと手を回して、震えている。
というか、
「
「あら少年、退院したのね。どういたしまして。ところで……あなた、そいつに憑かれてない?」
「憑かれる?」
「いや、むしろ『契約』に近いのかしら……、なんでそんなことに……」
魔女さんは、物珍しそうに俺と神様をじろじろと見比べた。
「ソウちゃん!? その凄い美人な女は結局誰なの!?」
「ユキナが呼び出した神様だよ」
「へ?」
「とりあえずこの神モドキを今度こそ滅ぼして……」
「ヒィッ!」
「おい、遅刻店長。この女神は、吾輩が呼んだ客だ。お前は皿洗いでもしていろ。あと、少年がクッキーと鰹節を届けてくれたぞ」
「えっ! クッキー私も食べる!」
「母さんのコーヒー淹れますね」
「……ソウタくん、私は頭がパンクしそうだよ」
「甘いもの食べれば?」
「ありがと」
アカネにクッキーを一枚渡すと、それをカリカリかじっている。
店員さんが店長さんのコーヒーを運んできた。
「むぅ、私はもっとチョコがたっぷりかかったほうが好みかなぁ」
「母さん、貰い物に文句を言うのはマナーが悪いですよ」
「いえいえ、
「ナア、ソウタ。私ハ見逃サレタ……ノカ」
「っぽいですね」
「ソウちゃん~、その子を……、か、神様? を紹介して欲しいんだけど……」
「あ、私も私も」
「あー、そういえば神様ってなんて名前なんですか?」
「「そこから!?」」
一気に騒がしくなった。
四人用のテーブルを六人と一匹が取り囲み、少々窮屈だ。
ユキナが居なくなったクリスマス・イブには想像もしなかった光景だが、きっとこれは楽しいんだと思う。
(今度、トオルを誘ってみるか)
来てくれるだろうか?
そんなことを考えながら、俺はレンさんの淹れた二杯目のコーヒーを飲んだ。
ユーレイな彼女 ~どうやら死んだ恋人が取り憑いてることに、俺だけ気付いてないらしい~ 大崎 アイル @osaki_ail
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