11話 赤羽アカネは、友人の愚痴を聞く

◇赤羽アカネの視点◇


「聞いてよー! やっぱりソウちゃんに女の影があったよぉー!」

 朝学校に着くなり、ユキナちゃんが私に泣きついてきた。


「ちょ、ちょっと待って!」

 教室のど真ん中で、幽霊のユキナちゃんと会話できない。

 空中でぶつぶつ言う『危ない人』になってしまう。


 なんとかユキナちゃんをなだめ、昼休みまで待った。



「で……何があったの?」

「うう……ソウちゃんが~……」

 屋上のベンチ。

 私は購買でパンとミルクティーを買って、ユキナちゃんの話を聞いた。


「なんかね! ソウちゃんのスマホに知らない女の子からラインが来てたの! エリカって女の子で、昨日はソウちゃんとご飯食べて、カラオケ行ったみたいなの! 『また行こうね♡』って! 許せない!」

 きーっと、怒るユキナちゃん。

 嫉妬深いなぁ。

 これは私がソウタくんの彼女になる話はやめておいたほうが……。


「アカネちゃん! 一刻の猶予もないよ。今日にでもソウちゃんに告白しなきゃ!」

「えええっ!?」

 まだ、その話続けるの!?


「だって、ソウちゃんの彼女にはアカネちゃんじゃないと駄目でしょ?」

 きょとんとした顔でこちらを見つめるユキナちゃん。

 いや、別に私である必要は無いと思うんだけど……。

 が、ユキナちゃんの目は真剣だ。


「………………本気なの? ユキナちゃん」

「本気だよ! じゃあ、今日は放課後にソウちゃんを誘ってみよう!」

「う、うん」

 はぁ……とため息をつきつつ、私は頷いた。




 ◇




「ねぇ、ソウタくん。今日時間ある、かな?」

「今日? うん、暇だよ」

  

 いきなりの誘いだったけど、ソウタくんは快く返事をくれた。

 じゃあ、一緒に帰ろうと教室を出る時、ひそひそと話声が聞こえてきた。

 クラスの女子たちだ。


(ねぇ……赤羽さん、渋谷くん狙ってるのかな?)

(アカネって、たしか亡くなった東雲さんの親友でしょ?)

(死んだ友達の彼氏に手を出すってヤバくない?)


 うわぁ……。

 変な噂になってるぅー!


(だ、大丈夫! 前カノ公認だから!)

 パタパタと手を振りユキナちゃんが焦ったように私に言ってきた。

 それがわかってるのは、私だけなんだよねぇ……。

 まあ、いっか。

 大して親しくないクラスメイトより、幽霊の親友のほうが大事だ。


「アカネ、行こうか」

「うん」

 私はソウタくんと一緒に帰路についた。



 

 ◇




「用事って、これ?」

「えーと、うん、まぁ。あとは少しお話したいなぁって」

「ふぅん」

 誘ってはみたものの無計画だった私は、とりあえず路上で販売していたクレープを買って、井之頭公園のベンチに座って、二人並んで食べていた。


「最近は、ソウタくん調子どう?」

「うーん、毎朝ユキナの夢は見るけど……あ、そういえば今日のユキナはなんか怒ってたかな?」

「あー……」

 まさにそれについては、私にも散々愚痴を聞かされましたよ。


「他は特に……トオルと新宿に遊びに行ってたら、薬中みたいな男に襲われたくらいかな」

「それって結構大事おおごとじゃない⁉」

「警察に連れて行かれたよ」

「へ、へぇ……」

 知らないうちに、ソウタくんが事件に巻き込まれていた。


 ……そういえば昨日、街に『鬼』が出たっておばあちゃんが言ってたっけ?

 通報したのは、私と同じ学校の生徒だったとか。

 でも、ソウタくんには関係ない話のはず。



 にしても、ユキナちゃんが言う新しい『女友達』の話は出てこないなぁ。

 ま、そんな話をいちいち私にするはずないかぁ。


「アカネは元気?」

「んー、そうだねー。そろそろテストだから勉強しなきゃ」

 私は足をブラブラさせながら、空を見上げた。

 クレープは食べてしまって、手持ち無沙汰だ。


「そういえば、そんな時期か……だるいな」

「だねぇ」

「……」

「……」 

 会話が止まった。


(ちょっと~、もっと色気のある会話しなきゃ! アカネちゃん!)


 わ、ユキナちゃんから物言いが入った。 

 でも、普段といきなり違う空気にはなれないよ?


(あー、もうじれったいー。アカネちゃんの代わりに私が会話できたらなぁー!)


 無茶言わないでよ……ユキナちゃん。

 私が呆れていると。


(なんかこう、アカネちゃんの身体に私の身体を重ねて……)

 ユキナちゃんが、覆いかぶさってきた!?

 ちょっと、何やってるの、ユキナちゃ――



 ――ドクン、と



 身体中の血液が沸騰したような錯覚を覚えた。



(え?)

「え?」

 私とユキナちゃんの戸惑った声が重なる。

 

「アカネ、どうした?」 

 ソウタくんが私の顔を覗き込んだ。


「あー、ううん。何でもないよ、

 その口調は私が意識した言葉ではなかった。

 でも、私の口から発せられた。


 ……え?


(あれ? いま私が喋った?)


 頭の中でユキナちゃんの声がした。

 な、何が起きてるの!?


(わっ、アカネちゃんの声が聞こえる)

 うそ、これって……。

 もしかして、……ユキナちゃんに!?


 って、今はソウタくんと会話してるんだった。

 私が混乱しつつも前を向いた時。


「ユキナ……?」

 呆然と、ソウタくんが呟いた。

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