15話 渋谷ソウタは、友人を心配する

 放課後になった。


 俺はアカネと一緒に試験勉強をする約束をしているので、待ち合わせ場所に向かうことにした。

 そう、待ち合わせ。

 同じ教室なのだから、一緒に出ればよいと思うのだが。



 ――一緒に出ると、周りに冷やかされるからね! じゃあ、あとで!



 というメッセージが来た。

 そして、アカネはすでに教室を出ている。

 俺は荷物を鞄に入れ、さて帰ろうか、というところで机に突っ伏している友人が目にとまった。


「トオル、もう授業終わってるぞ」

 俺は机で寝ている友人――板橋トオルの肩を叩いた。


「……ん~」

 トオルは怠そうに伸びをした。

 こいつが、こんななのは珍しい。

 いつも授業は話半分に聞いて、放課後になった瞬間遊びにいくか、遊びに誘ってくるのに。


「どうしたんだ、夜遊びか?」

 まさかトオルが徹夜で勉強というのは無いだろう。


 なんせ、こいつは受験勉強が必要無いのだ。

 なんでも大学は正陽教の宗教系大学に推薦が決定しているらしい。

 父親の教会を継ぐために、進路が確定しているんだとか。

 もっとも軍隊のように厳しい戒律があるそうで、あまり羨ましいとは思えなかった。


「俺の青春は高校で終わるんだ! だから可能な限り女遊びをする!」 

 がトオルの口癖だ。


「ああ……ソウタか。ここ数日、親父の手伝いで夜回りでさ……ろくに寝て無いんだよ」

「へぇ、大変だな。どんな手伝いなんだ?」

 トオルの父親は、この街の教会の牧師だ。

 だから、教会絡みなんだろうと予想と付けたが、トオルの表情は予想外に渋いものだった。

 

「ああ……色々とな。教室じゃ言い辛いから、帰りながら話そうぜ」

「お、おう」

 真剣な口調からして、どうやら相当に深刻な内容なんだろうか?


 俺とトオルは、校門から外へ出た。

 アカネとの待ち合わせ場所は、街はずれにあるカフェだ。

 この道からだと遠回りだけど、時間には余裕があるから大丈夫だろう。



「で、トオル。どんな仕事なんだ?」

 俺は親友に尋ねた。


「ああ……。ほら、この前ソウタが捕まえたストーカー男が居たろ? あいつ違法な薬をやってたんだが、その出どころが『緑衣の教団』だってことがわかってさ……。警察と一緒に怪しい場所を回ってるんだ」

「…………」

 想像の十倍くらいヤバイ話が来たんだが!?

 教団に違法な薬?

 これ高校生の通学路の世間話の範疇なのか!?


 

「その薬物ってのが……例の『スノウ』なんだ」

「!?」

 その言葉を聞いて、俺は身体が震えた。


 心がズシンと重く沈むのを感じた。




 ――『スノウ』




 それは交通事故で殺した、運転手が常用していたという薬物名だった。

 酔っぱらっていた運転手は、薬物にも手を出していた。

 運転手はユキナ以外も、数名の通行人を轢いて、そして運転手は電柱に激突して死んだ。

 俺は詳しくないが、かなり依存症が強い薬物らしい。

 

「……その麻薬スノウが、街で出回ってるのか?」

「ああ、しかもただの麻薬じゃなくて、副作用が……この前見たろ? 狂暴性が増したり、怪力になったりするんだ」

 なんてことだ……。

 ユキナをあんな目に合わせた元凶ともいえる薬物が広まってるなんて……。


「トオルは危険じゃないのか? そんな連中が居る所を見回るなんて……」

 俺は荒事が得意ではない友人が心配になった。


「ははっ、それは心配ないって。警察と一緒だからな。危険なんてゼロだよ」

 まあ、そりゃそうだよな。

 学生がそんな危険に晒されるはずがない。


「そうか、でも気をつけろよ」

「ああ、ありがとな。これからスタバでも寄らないか? 新作のフラペチーノが美味そうなんだよ」

 あ!

 スタバで思い出した。

 アカネとの待ち合わせ場所に行かないと!


「すまん、トオル! 先約があるんだ! また今度!」

「おー、わかった。また今度なー」

 俺はトオルに詫び、すぐに待ち合わせ場所に走り出した。


 アカネもそろそろ着く頃だろう。

 ここからなら5,6分くらいで着くだろう。

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