8話 赤羽アカネは、うろたえる

「アカネちゃんが、ソウちゃんの彼女になってよ! ね!」

 


 ――親友から元カレの彼女になってと言われました。



 何を言っているのか わからない!

 脳が理解を拒否してますね。


「あのね……ユキナちゃん、冗談でも言っていいことと悪いことが」

「え? 本気なんだけど。変な事を言ったかな?」

「変だよ! 変しかない!」

 生前も変わってたけど、幽霊になっても一緒だよ!

 

「うーん、そっかぁ。いい考えだと思ったんだけどなぁー」

 ふわふわ空中を漂いながら、腕組みをして首を捻るユキナちゃん。

 ちょっと、そんなに傾いたらスカートめくれてるよ、はしたないから。

 

「だいたいねぇ……ソウタくんが私を好きになるわけないでしょ?」

「そう? 前にアカネちゃんのこと、可愛いって言ってたよ?」

「うぇっ!? いやいやいや、それはリップサービスでしょ」

 びっくりした。

 でも普通、彼女の友達を悪くは言わない。

 だから、その言葉はあてにならない。


「でもねぇ……北川さんとか、相葉さんがソウちゃんを狙ってるっぽいんだよねー」

 ユキナちゃんの表情が暗くなる。

 あ、これマズイかも。


「ね、狙ってるって? それって本当?」

「うん、私って普通は視えないでしょ? だから、噂話とかすぐ聞けちゃうんだよね」

「まあ、幽霊だもんね……」

「あいつら……傷心のソウちゃんに……」


 北川さんとか、相葉さんというのはクラスメイトの女子だ。

 一言で言うとギャル、というか、派手で、恋愛大好きな子たちだ。

 悪い子ではないと思うけど、私やユキナちゃんとは性格が合わなかった。


「あいつら、どっちが先にソウちゃんを落とすか競争とかしてるのよ! しかも、付き合ったらすぐ別れてれればいいやーって言ってるし!」

「あちゃー」

 前言撤回。

 悪い子みたいです。


「ソウちゃん優しいから、何度も迫られると断り切れない気がするんだよねー……」

 ユキナちゃんが、しょんぼりしている。

 う、うーん……これは『未練』だろうか?


 少なくとも放置することは、できない案件だ。

 ただし、私がソウタくんと付き合うは却下。

 でも、ユキナちゃんの悩みは放っておけない。


「ユキナちゃん、協力するよ」

「えっ!? いいの?」

「うん、だって親友が困ってたら助けるよ」

「ありがとう! アカネちゃん、大好き!」

「むぐ」

 ユキナちゃん、に抱きつかれた。

 ユキナちゃんの大きな胸が、私の顔にあたる。

 うわ、ふわふわ……って、違う。


「でも、手伝うのはソウタくんがその子たちに引っ掛からないように、ってとこだけだよ? 私がソウタくんの彼女になるってのは、無理だからね?」

「うん! でも、アカネちゃんの気が変わったらいつでも、彼女になっちゃって!」

「そんな簡単にいかないって……」

 私はため息をついた。

 

 それに懸念もある。

 ユキナちゃんの本心だ。

 口では、「アカネちゃんが、ソウちゃんの彼女になって」なんて言ってるが、実際に付き合ってみたら『嫉妬』で悪霊になったとか、シャレにならない。

 一応、釘を刺しておかないと。


「だいたいさ。本当に私とソウタくんが付き合ったりしたら、ユキナちゃんも冷静じゃないと思うよ」

 ソウタくんが、自分以外の女と仲良くなったらいやでしょ?

 ユキナちゃんに、気付いて欲しくて言ったのだが、返って来たのは予想外の返事だった。




「アカネちゃんって、今まで彼氏いたこと無いよね?」




「うぐ!」


 なんで、そっちの方向に?

 いいでしょ! 別に。

 ずっと、おばあちゃんに魔法の勉強を教えてもらっててそんな時間なかったんだよ!

 おばあちゃん、鬼教官だし!


「私ね、夢だったの。アカネちゃんの彼氏に会って、『私のアカネはお前にはやらん!』って言うのが」

「いや、それはおかしい」

 何言ってるの? ユキナちゃん!

 いや、おかしい子なのは前から知ってたけど。

 

「だからね、私が死んで悲しんでるソウちゃんに次の人ができて、かつアカネちゃんの彼氏がソウちゃんなら一石二鳥じゃない!?」

「…………間違ってるよ」

「あとね、前に私が初体験した時の話って覚えてる?」

 話がちらかるなぁ。

 テンションが高い時のユキナちゃんだ。


「覚えてるよ……一晩中、電話を切らせてくれなかったもん」

 あれはきつかった。

 親友の幸せは祝いたいが、一晩聞かされる身にもなれ。


「あの時ね、言わなかったけど私は思ったの。こんな素晴らしいことだから、次はアカネちゃんも一緒にしたいなって!」

「それ言われてたら、親友やめてたよ!」

「えー」

「えー、じゃない!」

 この親友、死んで羞恥心無くしてない!? 


「だからね! アカネちゃんが、ソウちゃんに抱かれる分には問題ないよ! むしろ推奨」

「しないから!」

「あ、ちなみにその時、私は隣で観てるからね☆」

「そろそろ黙って!」

 さすがにたまらず、私はユキナちゃんの口を手でふさいだ。

 親友の性癖が大変なことになってる!?


「むーむー」

「うるさい!」

 はぁー、疲れた。

 さすがにバカなことを言い過ぎたと反省したのか、ユキナちゃんも「ゴメン、ゴメン」というジェスチャーをした。

 私は口を塞いでいた手を離した。


「じゃあ、今までの話は全部本気だったけど、これから具体的なプランを立てよっか」

「冗談って言ってくれないかな!?」


 こうしてユキナちゃんの『未練』を解消するための、私の『退魔』の道が始まった。

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