18話 赤羽アカネは、遅刻する

◇アカネの視点◇



 ――黒猫の喫茶店


 ここは、武蔵野市のを占める巨大な井之頭公園の森の中にある喫茶店だ。

 そして、私の行きつけでもある。


(やばっ! 遅くなっちゃった!)

 ソウタくんを待たせている。

 それともう一点。


 店長である凄腕の魔法使い――名前を呼ぶのさえ恐れ多いあの方にユキナちゃんのことを相談するのだ。

 が、直前で急用が入り、想定外に遅くなってしまった。


 森の中を走り、転びそうになりながら、私は赤い屋根のお店に辿り着いた。

 テラス席には、ソウタくんしか居ない。

 もっとも、客が入っているのを私は見たことがないけど……。


(ふぅ、やっと到着し……)


「君には魔力マナが無いようだな……」

 

(へっ!?)

 誰の声!?

 てか、魔力マナ!?

 一般人のソウタくんに、何を言ってるの!?


 キョロキョロと見回したが、それらしき人影は無い。

 人影は……。


「ああ、アカネ。遅かったな。レオさんと話をしてたんだ」

 ソウタくんが振り返る。

 そして、ソウタくんの前には一匹の黒猫が……。


「ふ、副店長!?」

「やあ、魔女見習いくん。君が友人を連れてくるのは初めてだが、彼は好青年だな」

「あわわわわ……」

 なんで、副店長とソウタくんが仲良く話しているの!?

 てか、普段は私が話しかけてもほとんど返してくれないのに!?

 いや、それよりも問題は……。


「副店長……? レオさんって副店長なんですか?」

「うむ、お飾り副店長だがな。店の外で寝て客寄せをするのが仕事だ」

「な、なるほど……。それは激務ですね」

「そうだろう、気軽に散歩にも行けぬ。横暴な店長だ」

 にゃぁ、と欠伸をしている。

 わー、当然のようにソウタくんが黒猫と会話してるよ。

 ソウタくんは、なぜ普通に受け入れてるのかな!?


「ねぇねぇ、アカネちゃん! この黒猫ちゃん、私が視えるんだって! 凄い黒猫ね!」

 ユキナちゃんまで話しかけてきて、パニックだよー。

 ど、どうしよう……。


「いらっしゃいませ」

「わっ!」

 すぐ隣に、綺麗な顔の男の子が水とメニューを持って現れた。

 いっつも、登場が突然なんだよね……。


「あの……店長さんは居ますか?」

「店長は外出中です。戻りは遅くなると聞いています」

 そ、そんなぁー。

 当てが外れちゃった……。

 私はがっくりとうな垂れ、紅茶を注文した。

 でも、落ち込んでいる暇は無い。


「ソウタくん、待たせちゃってゴメンね!」

「あぁ、全然。黒猫レオさんと話してたから楽しかったよ」

「そ、そっか……」

 その前に、なんで一般人のソウタくんが喋る黒猫である、副店長と平然と会話しているんだろうか。


「あの……驚かないの? 副店長に」

黒猫レオさんのこと?」

 ソウタくんが、きょとんとした顔をした。

 勿論、他に居ない。


「いやぁ、いい店だよ。コーヒーは美味しいし、黒猫レオさんは話してて楽しいし」

「そ、それは……良かったよ」

 どうやら完全に、この状況を受け入れているようだ。

 この前、『鬼』を普通にやっつけた時も思ったけど、ソウタくんって順応性が高すぎないかな?   

 

 まあ、私一人で空回っても仕方がない。

 


「じゃあ、勉強しよっか……」

「アカネ」

 私が席につこうとしたその時、ソウタくんが私の腕を掴んだ。

 えっ!? なに?

 さっきまでの楽しそうな表情が消え、真剣な目になった。


黒猫レオさんに聞いたんだけど……、俺の後ろにユキナが居るらしいんだ」

「なっ!?」 

「アカネ……知ってたのか?」


 ぎゃー、ソウタくんにバレたー!!!

 

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