14話 渋谷ソウタは、眠れない

「……あ~、しんどかった」


 俺はベッドに倒れ込んだ。


 放課後にアカネと談笑して、クレープを買い食いして、そのあと帰宅しただけ。

 のはずだったが、最後に変な男に絡まれて大変な目にあった。


 突然襲ってきた男を撃退したのはいいが、その後警察に事情を説明していたらすっかり遅くなった。

 

 そういえば夕食まだだったなぁ……。

 もう家族は食べ終わってるよなぁ、と思っていると誰かが部屋に入ってきた。

 

「お兄ちゃん、夕飯食べる? それとも外で食べた?」

「サンキュー。今から食べるよ」

「はーい、食器は洗っておいてね」

 妹がお盆に夕飯を取り分けておいてくれたらしい。

 気が利く妹だ。

 

 俺は机にお盆を置き、参考書を読みながら遅めの夕食を取ることにした。

 テストが近いので、復習をしておかないと。


 アカネも今頃勉強しているだろうか?


 その時、ふっと井之頭公園のベンチでアカネに抱きついた時の記憶が蘇った。

 華奢な肩は、俺の腕にすっぽりと収まって、ふわっと髪から良い匂いがした。

 その香りが……


「……っ!」

 いかん、思い出して恥ずかしさで死ねる。

 なんで、あんなことしたんだ、マジで。

 

 ……もう一回ラインで謝っておこうかな。

 

 でも、無理に話題にしたら、嫌がられるかも……。

 うーん……。


 まあ、返事が来なかったら、そこまでにしよう。

 

 俺はスマホを手に取った。



『今日は大変だったな。家の人には心配されなかった?』

 こんなメッセージを送ってみた。

 我ながら、面白味がない……。


 俺はスマホを閉じ、再び夕食を食べつつ、参考書に目を落とした。

 1分も経たないうちに、ピロンと、通知音が響く。

 画面には、アカネの文字があった。


  

『もー!大変だったよ٩(๑`^´๑)۶ おばあちゃんにいっぱい怒られるし! 次からはちゃんと遠回りするね。でも、ソウタくんが居てくれてよかったぁー。本当にありがとうね☆ 私に抱きついたのはチャラってことでヾ(´▽`*)ゝ』



 怒っては無い……みたいだな。

 抱きついてしまったことも、向こうから話題に振ってきたし。


『そっか。でも何か頼みがあったら言ってくれ。何でもするから。じゃあ、俺は試験勉強に戻るよ』

 俺はメッセージを打って送信した。


 明日からも、同じ態度で接してよさそうだ。

 あんなことでユキナの親友と気まずくなりたくなかったので、よかった。

 俺は安心して、勉強に戻った。

 

 が、すぐにピロンと、再び通知音が鳴った。

 きっと『じゃあねー』とか『勉強頑張って』みたいなメッセージだと思ったのだが……。


『えっと、さっそくお願いいいかな……?』

 そんなメッセージだった。


『お願い?』


『うん、ソウタくんって成績良いよね?』


『普通だよ』


『いーや、ユキナちゃんから聞いてるよ! いつも成績がクラスで5番以内だって」


 ユキナのやつ、俺の成績を親友にばらしてたのか。


『だから、私に勉強を教えてくれないかな……?」


 そんなメッセージが送られてきた。

 何でもすると、少し上のメッセージで送ったばかりだ。

 そもそも断る理由はない。


『いいよ』

 短いメッセージを送った。


『わーい、じゃあ、明日の放課後ヨロシクね!』


『了解』

 という、俺のメッセージでやりとりは途切れた。


 俺はしばらく、スマホの画面を眺めていた。


「アカネと試験勉強か……」

 いいんだろうか?

 あんなことがあった後なのに。

 

 でも、向こうからのお願いだからなぁ。


 アカネは俺と二人きりで気にならないのか……?


 どうにもモヤモヤする。


 その日は、なかなか眠気がこなくて、夜遅くまで勉強が捗ってしまった。

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