6話 渋谷ソウタは悪友と語る

◇ 渋谷ソウタの視点 ◇


「なぁ、ソウタ。今日の放課後ひまか?」

「トオルか。別に予定はないよ」

 授業が終わり、鞄にノートをしまっていると声をかけられた。


「じゃあ、遊びにいこうぜ! 気になる店みつけたんだよ!」

 ニカっと笑い、肩を組んできたのは、金髪に赤いシャツを着たチャラい男だ。



 ――板橋トオル。


 

 中学からの友人で、ノリの良さと陽気に振り切った性格をしている。

 声がでかくて、よく笑い、誰にでも馴れ馴れしい。

 陽キャが服を着たようなやつだが、冬休みに俺がユキナを亡くした時は、ちょくちょくLineや電話をくれていた。

 心配してくれてたんだろう。


 俺が返事を返さないので、妹にまで連絡をしてくれていたそうだ。

 ……いつの間に、妹と連絡先を交換していたのかは気になるところだが。

 手を出したら許さんぞ。



 

 ◇




「で、俺を誘って行きたかった店ってのがここか?」

「なんだよー、別にいいだろー」

 俺とトオルがやってきたのは、吉祥寺駅南口にあるデパートの横を抜け武蔵野の森公園に向かう通りに新しくできたカフェだった。

 店のイチオシは、鉄観音タピオカミルクティーらしい。

 女子か!


「なんでその見た目で好物がスイーツなんだよ、トオルは」

「なんだよ、甘いもの食べると元気が出るだろ?」

 不服そうにミルクティーをすする金髪の男。

 皿には、でっかいフルーツタルトが乗っている。

 俺は甘いものをたべる気分じゃなかったので、ブラックコーヒーだけ。


 周りを見渡すと、女性同士の客か、カップルばっかりだ。

 男二人の客は、俺たちしか居ない。

 どう見ても浮いている。


「こーいう店は、彼女と来ればいいだろ。西高のリカって子と付き合ってるんじゃなかったっけ?」

 去年、クリスマス前に彼女とのツーショット写真を見せられたのを思い出した。

 派手なメイクのTHEギャルって感じの可愛い子だった。


「あー、リカちゃんねー。別れた」

「またかよ……」

 トオルは女好きだ。

 趣味はナンパ。

 常に彼女が居る。

 そして、出会って付き合うのも、別れるのも早い。

 うちの高校では、女癖の悪さがバレており誰も相手にしない。


「なんだよ、俺が振られたんだぞ! 他に好きな男が出来たんだとよ! 俺は被害者だ!」

 トオルはストローを口にくわえて、うがー、と怒っている。

 でも、おまえの口説き文句って「とりあえず俺と付き合ってみない?」だろ?

 お試しじゃん?


 それに、実際のところこいつは女を口説くのも、付き合うのも、振られるのも楽しんでいる。

 そーいうやつである。

 ちなみに、俺は自分が好きになった女としか付き合う気がない。

 中学の時、意見の食い違いで殴り合いになったことがある。

 結局、お互いの意見は変わらなかったが。

 そんな昔のことを思い出していると、トオルがこちらを見てふっと笑った。



「ソウタが元気そうでよかったよ。全然、返事くれねーしさ」

「それは、……悪かったな」

 冬休み、ユキナが死んで落ち込んでいた時。

 何度も電話やメールをくれた。

 結局、返事をしたのは冬休みが終わる直前だった。


 すこししんみりとした。

 俺はコーヒーを飲み干し。

 トオルは、ケーキとミルクティーを片付けた。


「んじゃ、俺は新宿で出会いを探すよ」

「飽きないなぁ」

 トオルのライフワークはナンパだ。

 中学の頃から続けている、生粋のナンパ野郎である。

 以前は「二人のほうが成功率上がるからさ!」と俺をナンパに誘ってきて、ユキナが切れていた。

 そういえば、アカネもトオルの女癖の悪さを嫌ってたな。

 そんなことを、思い出した。


「お、なんだ? ソウタも一緒にナンパしに行……いやいやいや、嘘だって! ソウタが行かないことはわかってっし!」

「?」

 何も言ってないんだが。

 確かに俺は、トオルに誘われてナンパに行ったことは無い。

 が、トオルは急に焦ったように言った。



 結局、大した話はしなかった。

 雑談だけだったが、気分転換になった。

 きっとトオルなりの励ましなんだろう。


 俺たちは店を出た。

 俺が自分のコーヒー代を払おうとすると「いいって! バイト代が入ったんだよ!」と奢られた。

 たしか、家の仕事を手伝ってるんだっけか。

 少し申し訳ない気分だが……、ここは友人の言葉に甘えた。


 俺は電車に乗らず、もう少し街をぶらぶらしようと思った。

 トオルは中央線で新宿まで繰り出すらしい。

 駅まで見送りに行ったのだが、別れる前に変な事を言われた。


「ところでさ。最近、身体がだるかったり、幻覚が視えたりしないか?」

 こんなことをトオルが言い出すのは珍しい。

 

「いや、あいにく最近は調子がいいよ。……あんなことがあったのにな」

 つい、余計なことまで言ってしまった。

 ユキナのことは、なるべく口に出さないようにと思ってたのに。

 が、トオルは少し悲し気に微笑んだ。


「あんまり気に病むなよ」

 トオルは俺の肩を叩き、手を振って改札に消えて行った。

 その後ろ姿を見ながら思う。


(……心配かけたな)


 トオルは軽薄で、調子がいいが、気遣いは人一倍する。

 なんでも親は牧師をやってるとかで、人の悩みを聞くのに慣れてるって言ってたか。

 次に会った時は、洞くつ家のラーメンでも奢るかなー。

 それにしても。


「アカネも、トオルも似たようなこと聞いてくるよな」

 最近はご飯を三食食べて、睡眠もとっている。

 健康的な生活を送っているはずなんだが。

 そんな不健康そうな顔をしているんだろうか?


 駅を出てブラブラと商店街を歩く。

 服屋の前を通った。

 ショーケースに自分の姿が映っている。

 どれ、そんな変な顔してんのかね、俺は?

 視線を向けると。




 俺のすぐうしろ――制服姿の女子高生が立っている。




「ん?」

 気配はしなかった。

 さっと振り返る。

 誰も居ない。


 もう一度、ショーケースを見たら俺以外映っていなかった。

 気のせいだったようだ。


 俺は、ふたたび散歩に戻った。

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