Side Story 〈Shizuru〉 episodeXIII

ハム文>Shizu『ルチアーノさんとアポ取れたよ。ギルドハウスに来てもらっていい?』18:32

Shizu>ハム文『わかった』18:32


 帰宅したあたしは、パソコンを開いて過去に録画した、初めての幹部たちでの戦闘動画を眺めてた。

 今振り返ると、まだまだ改善点も見えてくる戦闘だったけど、懐かしいな。

 楽しかったな。


 でも、これも今日までだ。

 今日まで、なんだ。


 LAへログインし、あたしは真っすぐギルドハウスへ向かう。

 あたしの相棒の、銀髪エルフは、今日も相変わらずイケメンだなぁ。


〈Mobkun〉>〈Jack〉『今日は遅かったな!』

〈Mobkun〉>〈Jack〉『アイテム取り手つだってくれよ!』


 ログイン早々気が滅入るメッセージが入るけど、あたしは無視。


〈Mobkun〉>〈Jack〉『おい無視かよ!?』


 あたしのキャラがいるエリアが変わっていくことに気づいたのか、もぶが何か言ってくるけど、無視。

 そしてあたしはギルドハウスに到着した。


 ハウス内は相変わらず豪華な内装で、るっさんの趣味が出てる。

 ここも、これで最後か。


〈Jack〉『急にごめんねーーーー』

〈Luciano〉『この3人で話すのは、初めてだな』

〈Jack〉『うん、そうだね』

〈Luciano〉『ん?』


 いつも軽いノリで話すように見せかけたのを、あたしはやめた。

 あたしと同じ銀髪エルフのるっさんは、ローブ姿のあたしと違って強そうな鎧を着てて、カッコよかった。

 銀髪エルフ同士の会話を見守る、いかつい犬型獣人のくもんの姿は、この空気の中にあってちょっと面白い。このキャラで、あの中身だもんなぁ。


 この場所で、この3人で話すのは、これで最初で最後、か。


〈Jack〉『結論を先に言うね』

〈Luciano〉『ふむ』

〈Jack〉『今までお世話になりました。でも、これ以上みんなに迷惑はかけられません』

〈Luciano〉『もぶのことか』

〈Jack〉『うん、そりゃ、わかるよね』

〈Luciano〉『辞めさせるなら、もぶのほうだと思うが』

〈Jack〉『ううん、辞めさせたらあいつ、何してくるかわかんないし』


 るっさんがこの流れにするだろうなってのは、正直予想していた。

 でも、もぶを野に放ったら、SNSとかであることないこと吹聴しかねない。

 だったら、鎖は繋いでおいたほうがいいという、あたしとくもんの考えだ。


〈Jack〉『ええとね、経緯を話すね』



 事情を理解してもらうために、あたしはオフ会からのことを全てるっさんに話した。

 その過程で、あたしが女だってのも伝えたけど、るっさんはあんまり驚いてなかったな。


 あ、くもんと付き合ったとかは、言わなかったからね!



〈Jack〉『というわけで、るっさんには迷惑かけちゃうけど、もぶを鎖に繋いでおくのをお願いしたいです』

〈Kumon〉『お願いします。サポーター部門の立て直しは、俺も協力しますから』

〈Luciano〉『ジャックを失うのは正直痛いな』


 その言葉は、嬉しかった。

 全プレイヤーの中で最高峰の人に褒められるなんて、これってすごいことだよね。


〈Luciano〉『だが、もぶをギルドに引っ張ってきたのは、俺とリチャードだ。プレイヤースキルに免じてあの性格を野放しにしてたこと、ギルドリーダーとして謝罪する』

〈Jack〉『いやいや、謝んないでよ』

〈Jack〉『β版で声かけてもらってから、ずっとるっさんにはお世話になったんだし』

〈Jack〉『楽しい思い出もらったのは、こっちだから』

〈Jack〉『むしろ自分が蒔いた種のせいで、迷惑かけてごめんねっていうか・・・』


 あれ?

 しまったな、泣くつもりなんかなかったのに……。


 約4年にも及ぶ思い出たちは蘇ると、あたしはモニターの前で泣いていた。


〈Luciano〉『事情は分かった。ジャックの離脱を幹部会で報告後、HP上でメンバーに通達する』

〈Jack〉『うん、ありがとね』

〈Luciano〉『ギルド移籍するなら、もこに話を通すか?』

〈Jack〉『え?あ、いやー、もこのとこも廃ギルドだし、ちょっとしばらくゆったりしようかなー、なんて』

〈Luciano〉『え、ジャックなら大歓迎なのにー!』


 は!?

 え、るっさんぶっ壊れた!?


〈Kumon〉『る、るちあーの、さん?』

〈Luciano〉『すまない。キーボードを乗っ取られただけだ』

〈Jack〉『え?え?どういうこと?』

〈Luciano〉『隠していたわけでもないんだが、俺ともこはリアフレ現実の友達だからな』

〈Kumon〉『はい!?』

〈Jack〉『うっそ・・・』


 きっと今頃、くもんはモニターの前でびっくりしてるんだろうな。

 もちろんあたしもびっくりしてるけど。

 なんてタイミングでなんて話をしてくるんだと、なんか笑えてきちゃったよ。


〈Luciano〉『もこ隣にいまーす』

〈Jack〉『わーお・・・じゃあ、今の話も聞かれちゃったかーーーーw』

〈Luciano〉『うん、ジャックつらかったよね、あたしはずっと言ってたんだけどね、もぶが幹部でいいのかって!』

〈Jack〉『すごい、不思議な感じーーーーw』

〈Luciano〉『ごめんね、あたしがもぶの部門引き受けてればこんなことならなかったのに』

〈Jack〉『ううん、もこもこくらぶがあるから、負けないぞって思えたんだよーーーー』

〈Luciano〉『いつでもうちきていいからね!』

〈Jack〉『ありがとーーーーwサーバー移籍するわけじゃないから、あたしも何かあれば手伝うよーーーーw』


 しんみりした空気が、もこのおかげで和らいだ。

 るっさんの名前で、もこがしゃべると、ほんと変な感じ。

 だから、あたしもいつもの自分を取り戻せた。


 でも、もう1回だけ、落ち着いて話そう。


〈Jack〉『ギルドの最前線からは離れちゃうけどさ』

〈Jack〉『あたしはこの場所にいれたことを、誇りに思う』

〈Jack〉『ほんとに、今までありがとね』

〈Luciano〉『ああ、こちらこそありがとう』

〈Luciano〉『るっちゃんのお世話、今までありがとね』

〈Jack〉『るっちゃんwww』

〈Luciano〉『もぶがやめたら、いつでも戻っておいでね!』


 真面目な空気も、もこがいると変わっちゃう。

 やっぱ、もこのとこにいくのもありかなー?


〈Jack〉『じゃ、後のことはよろしくーーーー!くもん、任せた!』

〈Kumon〉『うん、了解』

〈Jack〉『あたしは、うめにだけ話してくるね』

〈Kumon〉『うん、よろしくね』

〈Luciano〉『またな、ジャック』

〈Jack〉『おう、またねーーーー!』


 さよならは言わない。それが嬉しかった。

 そしてそのログと同時に、あたしの画面が切り替わる。

 ギルドの退会処理がされたようで、あたしは一人ギルドハウスの外に放り出された。


〈Mobkun〉>〈Jack〉『おい!』


 いきなりもぶのメッセージがきたから、とりあえずまずもぶをブラックリストに登録。

 もう幹部同士じゃないから、話をする必要もないんだ。

 これでもぶが何を言ってきても、あたしのモニターにそのログは現れない。


 ちょっとすっきり。


 続いてあたしは全エリアでプレイヤー検索をかける。

 もうギルドリストは、見れないから。


 そしてうめの名前を見つけた。


〈Jack〉>〈Ume〉『今、ちょっといいかなーーーー?』

〈Ume〉>〈Jack〉『え、あ、はい!どちらですか?』

〈Jack〉>〈Ume〉『ギルドハウス前だよーーーー』

〈Ume〉>〈Jack〉『わかりました!』


 少し待ってると、ギルドハウス前に可愛い小人の女の子が走ってきた。

 その姿を確認して、あたしはパーティに誘う。


 あたしとうめだけの、二人パーティ。


〈Ume〉『ジャックさん、なんで』

〈Jack〉『んーーーー?』

〈Ume〉『なんで、ギルドリストに、いないんですか!!』

〈Jack〉『あちゃーーーー、バレちゃったかーーーー』

〈Ume〉『どういうことですか!!?』

〈Jack〉『その話を、するために呼んだんだーーーー』

〈Ume〉『いやです!!』

〈Ume〉『そんな話聞きたくありません!!』

〈Jack〉『じゃあ、あたし以外から聞く?』

〈Ume〉『え、え、あたし?』

〈Jack〉『あ、しまった。まーでも、今さらいいかw』

〈Ume〉『いや、ジャックさんが女の人だろうとは、思ってましたけど・・・』

〈Jack〉『え?ほんと?』

〈Ume〉『って、そんなことはどうでもいいです!!』

〈Ume〉『どういうことですか!!』

〈Jack〉『なんだ、ちゃんと聞いてくれるんじゃんw』

〈Ume〉『納得のいく説明をしてください!!』


 予想以上に、うめは荒ぶってた。

 まさか女バレしてるなんて思ってなかったけど、そんなことって言われちゃったよ、全く。

 だから、あたしは一つ一つ丁寧に説明した。

 『嘘』とか『やだ』とか『可哀想』とか、色々うめはリアクションしながらも、あたしの話を聞いてくれた。




〈Jack〉『ということで、あたしの部門をうめに託す』

〈Ume〉『なんで、もぶがいなくなればいいだけの話じゃないですか・・・』

〈Jack〉『そのリスクは、話したよね?』

〈Ume〉『私にジャックさんの代わりなんかできません!!』

〈Jack〉『できるよ』

〈Jack〉『うめならできる』

〈Jack〉『あたしが保証する』

〈Ume〉『嫌です!!』

〈Ume〉『私は、納得したわけじゃありませんからね!!!』


 そう言ってうめはパーティを抜けて転移していってしまった。

 でも「納得したわけじゃない」ってことは、引き受けてはくれるんだろう。

 新幹部になったうめが、もぶと引き合わされた時、どんな化学変化が起こるか怖いけど、そこはきっとくもんが何とかしてくれると、信じる。


 みんなにおんぶに抱っこで申し訳ないけど。

 大丈夫、きっと、時間が解決してくれるよ。


 この頃は、今後想像以上にうめがやさぐれていくなんて、思いもしなかったな。




〈Jack〉>〈Kumon〉『うめとは話した。多分大丈夫だと思う』

〈Kumon〉>〈Jack〉『わかった。今日の21時から緊急で幹部会やることになったから、あとでログ送る?』

〈Jack〉>〈Kumon〉『んー、じゃあ、お願いします』

〈Kumon〉>〈Jack〉『了解。じゃあ、ちょっと俺はギルドの方で手一杯だから、久しぶりに、ゆっくりこの世界を見てきてごらん』

〈Jack〉>〈Kumon〉『おお、それもそうだね。行ってくる』


 くもんの言葉に、改めて自由なんだと認識する。


 ソロになったあたしは、何ができるだろう?

 とりあえず、中央都市の掲示板を見に行ってみることにした。




―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―

以下作者の声です。

―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―

Side Story〈Shizuru〉次話で完結です!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る