Side Story〈Yuuki〉episodeⅡ

 季節は巡り、3月。


「卒業してもいっぱい遊ぼうねっ!」

「はい、ずっと友達ですよ」


 卒業式も終わり、最後のHRも終わり、もう登校することがない名残惜しさから、私たちを含めて多くの生徒がまだ校内に残り、写真を撮ったりと時間を過ごしていました。

 沙良ちゃんは目を赤くしていて、たくさん泣いたんだと思いますが、私は卒業式でも、最後のHRでも泣いたりすることはありませんでした。

 感動というか、ああこれでもうみんなとサヨナラなんだなって感慨深い気持ちはありますが、涙が出ることはなく。

 涙を流すクラスメイトたちを慰めたりとか、クラス委員長としてそんなことに努めたりするばかり。


 たくさんの人と、あ、梨本さんとも写真を撮ったり、最後だからと連絡先を交換したりしながら、夕方近くまで私たちは学校に残り続け、最後の登校日を惜しむのでした。



「春からはいよいよ大学生だねー」


 6年間通った学校から、沙良ちゃんと下校するのもこれで最後。

 私たちはいつものように、いつもの道を歩いていました。


 3月の外気はまだ冷たいけれど、日差しが出ている時は少し春を感じる、そんな季節。

 それでも最後だと思うと、少し寂しいですけれど。


「二人とも第一志望に合格出来て、よかったですよね」


 先日の合格発表で、私も沙良ちゃんも無事志望校に合格し、私たちは晴れて4月から大学生になることができました。

 4月からは違う学校だけど、お互い実家から通う予定なので、会おうと思えば会えるのかな?


「そういえば、沙良ちゃんの好きな人はどうだったんですか?」

「う……ゆうきちゃんそれ聞いちゃう~?」

「え?」


 苦笑いを浮かべる沙良ちゃん。

 ……これは、なるほど。


「その人は、違う大学に行くんですか?」

「んー、たぶんそうじゃないかなぁ。滑り止めの大学受かったって話は聞いてたからなぁ」

「ふむふむ」

「でもね! 4月からは共学だし、私はいい恋をしてみせるぜっ」

「ふふ、頼もしいですね」

「というか、ゆうきちゃんこそ大学生なったら恋できるといいよねー」

「そう、ですよね……」


 結局今だに私は恋というものがよくわからず。

 教える側に立ってみては? という山路先生の言葉に従い、あの日以降友達に勉強を教えることを意識してみましたが、やはりそれが恋に繋がるわけもなく。

 ……そもそもみんな同性ですしね。


 果たして恋とは何なのか。必要性もいまいちぴんと来ていないのですけれど、これは大学への課題となりそうです。


山じい山路先生よく言ってたよね、豊かな人生にしなさいって」

「ですね」

「一緒にそんな人生送ろうねっ」

「はい」


 そうして私と沙良ちゃんの最後の下校も終わり。


 残りの3月では運転免許を取るために時間を取ったりしながら、4月、私はついに大学生へとレベルアップしたのでした。



 4月。


「神宮寺さん!」

「は、はい?」

「友達になろっ!」

「あ、はい」

 

 それは新入生オリエンテーションで文学部日本文学科の新入生が集まり、先輩たちの仕切りで自己紹介やらなにやらをして、いったん休憩となった時。

 それが隣に座っていた女の子、そして大学で最初に出来た友達、金城紗彩かねしろさあやちゃんとの、最初の会話でした。


 正直自己紹介の時は人数が多すぎて全然覚えられなかったのですが、私の隣に座っていた子は、私のことを記憶してくれたようで。


「え、ええと……」

「あ、紗彩だよ! 金城紗彩! さっき名乗ったのにー」


 話しかけられた子の名前が分からず戸惑っていると、彼女はニカっと笑ってくれました。

 屈託ない笑顔、というのでしょうか。笑った時に見えた八重歯が可愛らしいな、なんて思うような、素敵な笑顔。


「す、すみません……人の名前を覚えるのは久しぶりで……」

「ううん、あたしも神宮寺さんしかちゃんと覚えてないし! 初対面でいっぱいいるとね、大変だよね!」

「ですね……でも、金城さんは何で私と友達になろうと思ったんですか?」

「あ、紗彩でいいよ!」

「では、紗彩ちゃんはどうして私と?」

「むぅ、呼び捨てでいいのにー。っていうかタメ語でいいんだけどー?」

「すみません、ちょっとそれは慣れてなくて……」

「えっ、ほんとに!? 何それ神宮寺さん面白ーいっ」

「そう、ですか? あ、そういえば、私のことも優姫でいいですよ」

「おっけ! じゃあ優姫ね!」


 おお、これがコミュニケーション力というものでしょうか……。

 沙良ちゃんも親しくなるの早かったですけど、紗彩ちゃんはそれ以上のようです。


 でも、こうして話しかけてもらえたことで私は少し安心。

 中高一貫校だった私にとって、周囲に全く知らない人だらけというのは6年ぶりで、やはり不安もありました。

 他の学部には同じ高校の子もいたみたいですが、文学部は私だけなので、また友達作りからか、とちょっと憂鬱にもなっていたのです。


「ちなみに、優姫に声かけたのは可愛かったから!」

「え、紗彩ちゃんの方が可愛いような……?」

「いやいやー、なんていうの、清楚系? 大和撫子? いいなぁ白い肌! 羨ましいもん!」


 そういう紗彩ちゃんの肌は健康的で活発な印象を与える小麦色の肌。聞けば沖縄出身で、ずっとテニスをやっていたとのこと。

 ずっと帰宅部だったからすると、その経歴はなんだかキラキラしているように思えました。


「これからよろしくねっ」

「はい。こちらこそ」


 そう言って満面の笑みを見せてくれた紗彩ちゃんと握手。これが私と紗彩ちゃんの初めての出会い。

 

 大学に慣れていくにつれ、もう少し色んな子とも話すようにはなりましたが、やはり最初に出来た友達は特別なのでしょうか、一番一緒にいるのは紗彩ちゃんになっていきました。


 沙良ちゃんも、大学で友達できたかな?

 今度会ったら、ちゃんと友達出来たよって言ってあげることにしましょう。



 そして大学での授業が始まり出した頃、授業の空き時間は学校近くにアパートを借りて一人暮らしをしている紗彩ちゃんのお家にお邪魔することが増えていきました。


「そういえばさ、優姫は何かサークルとか入るのー?」

「うーん、まだ考え中です。教職の授業も取る予定なので」

「あっ、優姫先生なりたいの?」

「そう、ですね。一応目指してはいます」

「そっかー。じゃあ、あたしも教職取ってみようかな!」

「え、そんな軽いノリで?」

「んー、だって同じ学費で取れる資格なら、取った方がお得じゃん?」

「……なるほど。一理ありますね」


 結局私は何のサークルにも入らなかったんですけど。


 でも、紗彩ちゃんはテニスサークルではなく、実は趣味だったというゲームサークルに入ったみたいで、私と遊ぶ時もよくゲームのことを教えてくれました。

 正直ずっと勉強ばかりだった私にとってゲームなんか全然だったんですけど、楽しそうに話す紗彩ちゃんを見ているうちに、私も興味を持って話を聞いたり、一緒にプレイするようになっていきました。


 ちなみに優姫ちゃんはゲームの中でもアクション系のゲームが好きみたいで、特に戦国時代をモチーフにしたゲームがお気に入りのようです。

 そのゲームの話をするときは熱が入り、私もついつい聞き入っているうちに、興味を持つようになったり。


「やっぱり織田信長がカッコいいよね! この渋み! たまんないね!」

「うーん、私は真田幸村がカッコいいと思いますけど……」

「それじゃ王道すぎるよー!」


 なぜ王道は、ダメなんでしょうか?

 紗彩ちゃんが見せてくれたゲームのパッケージの表紙を飾る、赤い甲冑に身を包む姿は素直にカッコいいと思うのですが……。


 豊臣家のために、最後まで戦い抜いた、あの徳川家康に「日の本ひのもと一のつわもの」と言わしめた真田幸村。うん、カッコいいです。

 この感情は、恋に近いのかな? とはさすがに紗彩ちゃんには聞けず、GWに沙良ちゃんと会って話してみたら、「それは違う」とバッサリ切られてしまいましたけど。


 でもこれが私にとって〈Yukimura〉という名前が特別になった、その瞬間だったんでしょうね。





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以下作者の声によるあとがきです。

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 なるべく間を置かずにepisodeⅡを……。

 最初の数話は本編に絡む前のシナリオで、こんな友達がいるんだよをさらっと紹介していきます。

 高校生編とか、女子大生編とか書くとそれはそれで長編になるので……。

 episodeⅢではLAスタートの頃の話になる予定です。

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