Side Story〈Yuuki〉episodeⅢ
私の大学生活は友人にも恵まれ、順風満帆だったと言えるでしょう。
教職の授業で教育について学んでも、課題の一つである恋については一向に学べていませんでしたけど。
そんな高校時代とあまり変わらないような日々を過ごす中で、大学2年次の秋が近づく季節、神宮寺家では重大な出来事が起きました。
「ごめんな二人とも! 会社に何度もあと半年待ってくれって言ってたんだけど、どうしてもって言われてさ!」
「ううん、大丈夫だよ。私もあと半年で二十歳だし。お父さんは安心してお仕事頑張ってね」
「お母さんも行っちゃうの~?」
「うん、ごめんねゆずちゃん、お父さん海外で一人だと心配だから。ゆずちゃんにはゆうちゃんがついてるから、ゆうちゃんの言うこと聞いて過ごすんだよ」
そう、それは父のシンガポールへの海外赴任でした。そしてそれに伴う形で、母もシンガポールに行くというのです。
当時私は大学2年の19歳、妹のゆずちゃん……
未成年二人での生活が、急遽決まってしまったのです。
ゆずちゃんは私と違って共学の私学に進学していましたが、幸いにもそこも中高一貫校のため高校受験はありません。とはいえ、それでもやはり、両親が家からいなくなることは、ゆずちゃんにとっては不安だったみたいで。
「お姉ちゃんがお母さんの代わりになってあげるからね」
お父さんから海外赴任の話を聞いて、不安がる妹が安心できるよう、私はゆずちゃんにそう誓ったのでした。
☆
「お姉ちゃん! このゲームやってみたい!」
「え、どうしたの急に?」
それは両親がシンガポールへ旅立ち、ゆずちゃんとの二人暮らしが始まって、3日目のことでした。たしか、水曜日でしたかね。
両親を見送った空港ではゆずちゃんはたくさん泣いていましたけど、慣れとは怖いもので、あっという間にゆずちゃんは両親のいない生活に慣れてしまいました。
私は慣れない家事炊飯に四苦八苦だったのですが……。
おっと、話を戻しまして。
夕飯の終わりに私に話しかけてきた妹のスマートフォンには、「このゲーム」を示すであろう、何やらファンタジーチックな画像がありました。
「友達でやってる子いて、なんかすごい綺麗なんだって!」
「ええと、『Legendary Adventure』? あ、CMとかやってるやつ?」
「うんっ」
「でもそれ、オンラインゲームっていうやつだから、普通のゲームじゃないんじゃ?」
「なんか、知らない人と友達なれるらしいよっ」
「え、ゆずちゃんそれって怖くないの?」
「えー、だって会うわけじゃないじゃん。やってみたいーっ」
「うーん……」
それは時々テレビCMも流れている、華麗なグラフィックを売りとする人気オンラインゲームで、私も名前は聞いたことがあるものでした。
当時でサービス開始から5年目くらいだったでしょうか。
でも急にそんなことを言われた私は困惑するばかり。
普通のゲームならまだしも、オンラインゲームって、パソコンとか使うやつですよね……?
うーん……紗彩ちゃんなら何か分かるでしょうか……。
両親がいなくなって、寂しい思いもしているでしょうから、ゆずちゃんのわがままは聞いてあげたいけど、オンラインゲームというものにピンとくるものがない私は戸惑うばかり。
私は大学で使用するためのパソコンは持ってますが、ゆずちゃんはパソコンも持ってないですし。
「どうしてもやりたいの?」
「うんっ! やってみたいっ!」
「うーん、じゃあお姉ちゃんの友達に詳しそうな子がいるから、聞いてみるね」
「ほんとっ!? ありがとっ! お姉ちゃん好きっ」
私と違って感情表現豊かなゆずちゃんは、可愛い笑顔を浮かべてくれたので。
ここはお姉ちゃんとして、頑張らねば。
そう決意した私は、紗彩ちゃんに必要なものを聞いてみようと、心に決めたのでした。
☆
「あの、紗彩ちゃんちょっといいですか?」
「ん? どったのー?」
翌日の大学にて、一緒に学食で昼食を取っている時、私はさっそく紗彩ちゃんにゆずちゃんのお願いを相談してみることにしました。
「『Legendary Adventure』ってご存じですか?」
「あっ、LA? うんー。昔やってたよー」
「え? そうなんですか?」
「うん。高1から高3なるくらいまでの2年くらいだけど、がっつりじゃないけど、それなりって感じでやってた!」
「あ、今はもう?」
「そだねー。大学受験の勉強もあったし、やっぱりあたしは戦国時代モノが好きだから、渋めのおじさまキャラ作って刀武器使ったりしてたけど、和装で戦える装備なかったからさー。今はもう
「え、ええと……? おじさま? 刀? アカ?」
「あ、ごめんごめんっ! ちゃんと説明するね」
そう言って困惑する私に、紗彩ちゃんはそもそもオンラインゲームとはどういうものか、何が必要か、LAがどういうゲームか、丁寧に説明をしてくれました。
ゲームについては紗彩ちゃんと1年半もいるので、それなりに詳しくなっていたつもりでしたが、どうやらまだまだだったようです。勉強不足ですね。
「……って感じ!」
「なるほど。でも、紗彩ちゃん女の子なのに、男性のキャラだったんですか?」
「えー、そんな人いっぱいいるって!
「ほうほう」
「で、妹さんと二人でやるんだったら……このくらいのスペックのパソコンはあったほうがいいかなー。あとはコントローラーもか。ゲーム自体はダウンロード販売もあったから、いつでも買えるだろうけど」
スマートフォンでパソコンを紹介しつつ、色々と教えてくれる紗彩ちゃん。
パソコンのスペックと言われましても、正直よくわかりませんが……。
「ふむふむ」
「やってみたくなった?」
「うーん……いまいちまだピンときませんけど、ゆずちゃんのためなら用意してあげたいかなって思います」
「優姫は妹想いだもんねー。でも、多感な中学生にはどうかなー?」
「え、紗彩ちゃん高校生のときやってたのでは……?」
「あ、あたしはそういうの慣れてたし?」
「ふむ……」
そういうのってどういうのでしょう?
ちょっと分からないけど、とりあえず必要なものは分かったし、あとで買いにいってみましょうか。
私がそう思っていると。
「あ、何だったら今週末、迷惑じゃなければ優姫の家に行って妹ちゃんにも説明してあげようか? それでやりたかったら、買い物とかセットアップ含めて一緒にやってあげるし。優姫たちもやるなら、私もアカウント復帰してみよっかなー」
「え、本当ですか?」
「うんー。優姫の妹さんにも会ってみたいし、ご両親いないなら、何て言うか気楽っていうか」
「ゆずちゃんも喜ぶと思います」
「じゃあ、決まりねっ!」
「ありがとうございますね」
「ううんっ。むしろ楽しみっ」
「私もです。あ、お泊りでもいいですよ?」
「えっ、ほんとっ!?」
そして今週末、紗彩ちゃんが家に来ることが決定。
さらに私にとって人生初の、お友達を家に泊めることも決まりました。
人生初は、わくわくしますね。
オンラインゲームがどういうものか、この時はまだよくわからないままでしたけど、この日の私は、紗彩ちゃんがお泊りにくることへの楽しみが大きかったのを覚えてます。
まさかその後、自分があんなにもハマるとは夢にも思っていませんでしたけど、こうして私はLAを始めるきっかけを得たのでした。
―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―
以下
―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―
まだ始まりませんでした!
次話でギルド加入の辺りになると思います。たぶん。
そして更新は亀……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます