Side Story〈Airi〉episode XV

本話は、本編19,20話の話になります。

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 トイレから帰還しあたしが戻ると、3人はそこまで会話をしていたわけではなかった。

 おいおい、あたしいないとダメなのかこいつら?

 ったく、それでも教師かー?


「ぴょんおかえり~」

「おーう」


 ゆめに軽く返しつつ、あたしはビールを口にしてから、再び口を開く。


「まー、でもLAやってっから思うけど、相手のスタイルを押し付けられたりすんのはしんどいよなー」

「そうね、期待されたり頼られたりするのは嬉しいけど、限界もあるものね」

「あたしらはいい条件でやれてるよね~」

「だなー。やっぱ学生の頃はできても、働き出してからだと、特にこの仕事だと厳しいもんはあったなー」


 さすが、ゲーム好きどもめ。

 ゲームの話題になった途端全員が自分の考えを言い出しやがった。

 ゲーマーの集まりかよ。


 いや、集まりなんだけど。


「もこさんとこのギルドでも、やっぱしんどかったのか?」

「もこさんとこって、【Mocomococlub】~?」

「そそ、ゼロやんとだい、昔所属してたんだって」

「え、すご~い」

「俺は教師1年目は頑張って続けたけど、やっぱ無理があったね。週に1スキル上げろって言われんだよ? それに加え、週3で難関コンテンツで装備取りとか金策だぜ? 一日2,3時間のログインじゃ無理だって」


 あたしが下ネタをやめたからか、ゼロやんがちょっと安心したのが見て取れた。

 

 でも、安心するには、まだ早いんじゃないかなぁ君。ふふふ……。


「そうね、今の自分にあの頃と同じことやれって言われても、無理だわ……」

 

 どーせゼロやんと一緒だからやってたくせに。

 だいもすっかり初対面の恥ずかしさとかは消えたみたいだな。


 さっき言ったあたしの言葉は、どれくらい入ったかなー?


「だいも教師なってから抜けたの~?」

「ううん、私は大学4年なるちょっと前、採用試験の勉強に本腰入れるために抜けさせてもらったの。合格したら、どのみち続けられなさそうだと思ってたし」

「抜けたの、俺が相談した直後だったし、ほぼ同じタイミングだったよな」

「そうね」


 この会話を聞いて、どうして「愛しのゼロやん」じゃないと思えばいいのだろうか。

 っていうかゼロやんが何も気づいてなさ過ぎて引く。


「おやおや、ゼロやんがいなくなるから追っかけて抜けたのかなー?」

「は!? そ、そんなわけないでしょ!?」

「あー、だい照れてる~。図星だな~?」

「うるさいっ! だ、だって私……フレンドいなかったんだもん……」

「だい照れてる~可愛い~」

「恥じらう美人ってのは、絵になるねー」


 これは本音ね。

 照れただいはマジで可愛かった。

 ちょっとそっちに目覚めそうなくらい。


 いや、目覚めないけどね!?


「まーあたしギルドに入ったとき、お前らそういう関係なんだと思ったしな」

「あ、それわたしも思った~。いつも一緒だし、そういう関係なんだと思った~」

「LA内カップルもけっこういるっていうしなー」


 あたしらの言葉にゼロやんは呆れ顔で、だいはさらに顔を赤くする。


「だいは人見知りなだけだよ」

「は!? 馬鹿なこと言わないでよ!」


 フォローするゼロやんにかぶるように、だいはあたしに噛みついてきた。

 どう見ても照れ隠しにしか見えないんですけどねー。


「なんで二人はフレンドなったん?」

「あ、それ聞きたいね~」

「あー、亜衣菜と別れてなんか全部面倒になった後、俺ギルドも抜けて野良プレイヤーやってたんだけど、その時に3回だか連続でスキル上げだったり、傭兵募集とかでパーティかぶってさ、すごい確率ですねー、って少し話して、フレンドなったんだよ」

「あいな?」

「あ」

「へー、セシルはあいなって言うんだー。メモメモ」

「メモんな!」

「もういまさらでーす」


 うっわー、元カノのこと今だに名前呼びかー。

 なるほどね……。

 これは、未練あり、なのかな。


 聞いてる感じだとゼロやんがフラれただけど、実質その空気作ったのはこいつだよな。

 自分から別れに差し向けたくせに、こいつが未練ありとか……ちょっと……ないな。


 しかしなるほど。

 これですんなりだいとくっつくってわけでもなさそうか。

 うーん……。


「個人情報流出とか、教師失格ね」

「ほんとほんと、訴えられろ~」

「すみませんでした」

「しかもそういう経緯だったと聞かされると、別れた女の代わりにされた気分だわ」


 滅多刺しにするように追撃を放つだい。

 あー、これはちょっとぷんぷんですね。

 しかしこんだけ露骨な言葉言ってんのに、なんでゼロやんは気づかないかねぇ……。


 鈍感はモテねーぞー?


「うわ、ゼロやん女泣かせじゃーん」

「俺はだいを男だと思ってたから!」

「それも信じらんないね~」

「私も、フレンドとか初めてだったからありがたかったけど……」

「え、だいツンデレ~?」

「デ、デレてなんかないわよ!」

「こんな絵に描いたような奴、ほんとにいたんだなー……」


 鈍感とツンデレか、これは簡単には決着つかなそうだなぁ……。

 ここは愛理お姉さんが一肌脱ぐしかないかー?


「だいはそんな美人さんなのに、彼氏とかいないの~?」


 やれやれと思いながらゼロやんを見ていたあたしだったけど、ゆめがナイスなぶっこみ。

 その情報を言葉で確定するのは大事だぞ!

 だい、ちゃんと聞いとけよ!


「あたしはいませーん!」


 これでみんなが言う空気になるだろー?


「ぴょんには聞いてませ~ん」


 さすがゆめ。これで空気も軽くなって、より言いやすいだろー?

 さぁ、お二人さんはどうだー?


「い、いないわよ!」


 お。

 だってさ、ゼロやん?


 まぁ、わかってたけど。


「え~、なんで?」

「なんでって……べ、別に欲しいと思ってないし!」

「うっそ、あたしとかいつでもウェルカムなんだけど?」

「ぴょんと一緒にしないで!」

「うわ、ひでぇ」

「ゼロやんも今は独り身なんだよね~」

「そうな、じゃあみんな独り身だな」

 

 アラサーが3人もいるのに、全員独身かー。

 ま、独身だから集まってるんだろうけど。


 結婚したり子どもできたりすると、幸せの方向性が変わるっぽいし。


 今の楽しさは、それぞれのステータス未婚がシンクロしたからでもあるんだよなー。


 そりゃあたしだっていい恋はしたいし、いずれは結婚して子どもも欲しい。

 でもまだ、自由でもいたい。


 みんなと笑う中で、私は人生の有限性をちょっと考えたり考えなかったりするのだった。

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