Side Story〈Airi〉episode XIII

本話は、本編19話の話になります。

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 カラオケを出て駅まで歩く道すがら、あたしはゆめと腕を組んで歩いていた。

 こうすればゼロやんにはくっつけまい、とかそんなん思ったわけじゃないからな!

 ゆめからくっついてきたんだからな!


 この辺も計算なんだろうなー。

 メモメモ。

 いや、こんなメモいらないけど、


 しかし、くっつかれるとあちーなー。


 6月の16時前はまだまだ日も高く、今日は天気もいいためかなり汗ばむ陽気。

こんないい天気だからか、まだまだ駅周辺にはカップルや家族連れがたくさんいる感じだねー。

さすがデートスポット横浜さんだ。


「わっ、みてみてすごい美人さん!」

「おー、ほんとだ、モデルか何かかな?」

 

 あたしの真横にいるゆめが、進行方向にすげー美人を発見した。

 黒髪のセミロングはきれいだし、肌は白いし、何といっても顔が超美人。そこらへんのアイドルの比じゃない。トップ女優みたいなレベル。ちょっときつめの目が好きな人にはたまらないんじゃないですかね。

 背はそこまで高くないけど、スタイルはいいし……胸もでかい。

 黒のスキニージーンズに、水色のシャツというカジュアルさも、シンプルコーデで似合ってんな―。

 まぁあのタイプは何着ても似合うんだろうけど。


 あたしとゆめが立ち止まってその美人さんに見とれてると、後ろからついてきたゼロやんがとんでもないことを言ってきやがった。


「お、俺、あの人知ってる」

「え?」

「おいおい、あんな美人と知り合いとか、ほんとモテ男だな?」


 おいおい、どこで知り合うんだよあんな美人と。

 ゼロやんもイケメンではあるけど、悪いけど比じゃないぞー?


 美人すぎて、嫉妬する気持ちにすらならなかったから、あたしはそう言ってゼロやんを冷やかした。


「いや、そういう関係じゃねぇよ!」


 じゃあどういうことだよ、って思ってると、なんとびっくり。

 その美人さんが、ゆめの方を向いていた。


 え、ま、まさか……!?


 美人さんが、少しだけほっとしたような顔を浮かべあたしたちの方に向かってくる。

 でも、なんか急に俯いちゃった。


 これは、そういうことかー。

 いやー、これは素直に二人を応援ってか、こんな美人に好かれて、ゼロやん大丈夫か?

 お前には荷が重いかもしれないぞー?


「もしかして、だいかな~?」

「は、はじめまして。……だいです」


 近づけば近づくほど際立つ美人さに、声をかけるのをあたしが少しためらってると、ゆめが尋ねてた。

 そして美人さんがだいということで確定する。

 

 自分がどう思われるかなんて気にしないけど、ちょっと隣は歩きたくないって、本気で思った。

 こりゃ完全に引き立て役以外の何者にもなれねーぞ。


 とりあえずあたしはだいに向かって笑ってみせる。

 そうしてたら。


「えええええええええ!?」


 周囲の視線が集まるほどに、ゼロやんが叫んだ。

 

「おい、ゼロやんうっせーぞー」

「え、だって、え?」

「あれだけマメな性格なんだし、わたしらは女の子だろうなーって思ってたよ~?」

「え、うそ、マジ?」

「私は! 昨日からあなたがゼロやんだって気づいてたわよっ」

「え、嘘、なんで?」

「昨日?」


 昨日って、なんだ?

 知ってるって言ってたけど、関係あんのか?


「おい、昨日ってなんだよ?」

「いや、ちょっと待って、今それどころじゃないんだって」

「昨日、うちの学校と彼の学校で合同練習したの。次の大会、合同チームで出るから」

「うわ~、すっごい奇跡っ」

「そんなことってマジであんのか!」


 おいおい、LA内のフレンドでしかも同じギルドのニコイチ同士が、オフ会前に仕事で会うとかどんな奇跡だよ。

 なにこれ、漫画かアニメ展開なの?

 それもう、運命に愛されてるってレベルだろ。


「って、あれ……合同チームで出るって、結論はまだもらってなかったんじゃ……」

「うるさいわね! 今決めたの!」

「うわー、ツンツンさんだ~」

「LA内じゃあんなに優しいだいが、ウケるっ」


 すげえ!

 コテコテのツンデレだ!

 こんな奴ほんとにいんのかよ!


 テンパるゼロやんと顔を赤くしてるだいを見て、あたしは笑っちゃった。


「とりあえず立ち話もなんだから、個室居酒屋予約してるし、そっちで話そっ」

「おー、ゆめ用意がいいな!」


 ゆめの提案であたしとゆめは二人の前を歩き、移動を開始。

 ま、とりあえず最初は二人で話させてやるかな。


「すっごい奇跡だね~……」

「なぁ」

「しかもこんな美人さんとは、ちょっとびっくり……」

「いや、もうびっくりどころじゃねーわ」

「しかもおっぱい大きいよね」

「……おい?」

「あ」

「あじゃねーよっ」


 ゆめと二人でこの現実を受け止めつつ、まさかの胸いじりにあたしはゆめにツッコミをいれた。

 どうせあたしの胸は絶壁だよ!

 

 ゆめが笑って会話が止まったから、後ろからついてくる二人の会話にちょっと聞き耳を立ててみる。


「…………あなた私のことずっと男だと思ってたろうし」

「お、仰る通りです」

「それは別に気にしてない! 男キャラ使ってたのは事実だし」

「よ、よかったです」

「というか、私の方が年下なんだから仕事中じゃあるまいし、敬語使わないでよ!」

「ええ!? わ、わかった……」


 いやー、だいのやつめっちゃ嬉しそうじゃん。

 ゼロやんたじたじだなー。


「おいおい、イチャイチャしてんじゃねーぞー?」

「してねーよ!」「してないわよ!」


 茶化したあたしの言葉にツッコみがシンクロ。

 ほんと、こいつら運命だな。


 これはちょっと割って入る隙間、1ミリもなさそうだ。


 だいがどんな奴かはまだわかんないけど、とりあえず悪いやつじゃなさそうだし、今日は色々とアシストしてやろっかなー。


 ゆめと並んで歩く道すがら、あたしはやっと片想いの人に会えて舞い上がってるだいの喜びを考えつつ、そんな風に考えた。


 ちょっとだけ、ため息が出そうになったとか、そんなことはないからな!

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