Side Story 〈Shizuru〉 episodeXIV

 あー、こんなに動いてる人っているんだ。


 いつもギルドメンバーとばかり動いてたし、掲示板を見ても高レベルプレイヤーの募集しか見てこなかったから、掲示板の全募集を見るのは初めてだった。


 とりあえず、スキル上げでも行こうかなー。

 あれ、この名前見たことあるな。たしか、もこのとこの子だよね?


 主催者の名前は〈Zero〉って書いてた。たしか、もこが重用してるガンナーの子。

 スキル帯は190~か、格闘がちょうどいいかな。

 ちょっと気になったから、応募してみた。


〈Jack〉>〈Zero〉『こんばんはーーーーw格闘で応募していいかなーーーー?』

〈Zero〉>〈Jack〉『よろしくお願いします』

〈Zero〉>〈Jack〉『って、え!?ジャックさん!?』


 あー、そりゃ【Mocomococlub】の子なら、あたしのことは知ってるか。

 でもちゃんとパーティに誘ってくれて、安心。


〈Jack〉『よろしくーーーーw』

〈Zero〉『え、なんで野良なんかに!?』

〈Daikon〉『よろしくお願いします』

〈Jack〉『なりゆきで?』


 〈Zero〉くんと〈Daikon〉くん、いや、ゼロやんとだいと初めてパーティ組んだのは、たしかこのとき。ゼロやんがメイスで、相棒のだいが樫の杖だった。

 二人ともすごいうまくて、会話も稼ぎも含め、このスキル上げは楽しかった。


 二人は【Mocomococlub】ではあるけど、スキル上げは二人で野良募集してるらしく、実は人気の主催って知ったのは、けっこう後になってからだった。

 その時のあたしは、そうか、これが野良の世界かって、新たな世界が開けた気分になったんだよなー。




 そしてその日の日付が変わるころ。


ハム文>Shizu『まだ起きてるかな?ログ送るね。アドレスもらっていい?』23:57

Shizu>ハム文『ありがと!』23:58


 くもんから送られてきた通知に、あたしのPCアドレスを乗せて送信。

 3分後くらいに、くもんからメールで幹部会のログデータが送られてきた。


 どれどれ、と。


〈Kumon〉『集まってもらってありがとうございます』

〈Mobkun〉『どういうことだ!!!』

〈Mobkun〉『なんでジャックがいねーんだよ!!!』

〈Mobkun〉『なんでジャックがギルドから消えてんだよ!!!』

〈Ume〉『お前がいなくなるべきだったのに・・・』

〈Mobkun〉『あん!?お前ジャックの金魚の糞だろ!?何来てんだよ!!』

〈Yamachan〉『まじうっざ』

〈Semimaru〉『さすがにもううんざりじゃな』

〈Cecil〉『うーん、これは引くなー』

〈Mobkun〉『な、なんだよ!』

〈Richard〉『もぶ、お前1回黙れな』

〈Richard〉『みんなジャックが好きだったんだぞ?』

〈Kumon〉『もうお気づきでしょうが、ジャックがギルドを辞めました』

〈Cecil〉『ほんとショック』

〈Yamachan〉『ジャックのこと、頼りにしてたのになー』

〈Semimaru〉『失うには惜しいのお・・・』

〈Mobkun〉『だからなんでだよ!』

〈Kumon〉『ご自身の胸に手を当てて考えてみては?』

〈Ume〉『ぜってーゆるさねぇ・・・』

〈Mobkun〉『なんだってんだよ!!』

〈Luciano〉『黙れ!!』

〈Mobkun〉『え』

〈Luciano〉『それ以上品位を落とすな』

〈Mobkun〉『お、俺のせいだってのかよ!?』

〈Luciano〉『俺は今、怒ってるんだぞ?』

〈Mobkun〉『え・・・』

〈Richard〉『ルチアーノが怒るとか、お前今まで見たことあるか?』

〈Cecil〉『怒ったらこわそー』

〈Yamachan〉『こいつ追放しましょーよ』

〈Mobkun〉『な、なんだと!?』

〈Luciano〉『結論から言う』

〈Luciano〉『サポーター部門統括後任には、ジャックの推薦によりうめを任命』

〈Luciano〉『そしてサブ盾部門の監督権をくもんとうめに移譲』

〈Luciano〉『もぶは副監督として、部門メンバーの育成に従事。幹部内において序列最下位とする』

〈Luciano〉『幹部の名は残してやるが、以後ギルドチャットに私的な発言があり次第ギルド追放とし』

〈Luciano〉『今後ギルド内の誰かと揉めることがあれば、ギルドを追放後、全サーバーの【Vinchitore】メンバーからブラックリスト入りとする』

〈Mobkun〉『お、おかしくねーか!?俺はジャックと仲良くしてただけだぞ!?』

〈Yamachan〉『あれが?頭わいてんじゃねーの?』

〈Mobkun〉『なんだと!?』

〈Yamachan〉『おいおい、口の聞き方には気を付けろよ?お前今、この中じゃ一番下っ端だかんなw』

〈Mobkun〉『ああ!?』

〈Richard〉『もぶ!』

〈Mobkun〉『あ?』

〈Richard〉『許されたんだぞ』

〈Mobkun〉『え?』

〈Richard〉『お前今、かろうじて許されたから、ここにいれるんだぞ?』

〈Richard〉『ルチアーノの言葉の意味を理解しろ。あとは行動で示せよ』

〈Richard〉『俺も今、はらわたが煮えくり返りそうなんだからな』

〈Richard〉『ジャックが辞めさせて欲しいって言ってたら、お前の居場所ねーんだからな』

〈Semimaru〉『寛大な幹部とギルドリーダーじゃ・・・』

〈Cecil〉『実力だけはあってよかったね』

〈Kumon〉『サポーター部門の立て直しは、俺も協力します』

〈Ume〉『ありがとうございます・・・』

〈Luciano〉『もぶ』

〈Mobkun〉『は、はい』

〈Luciano〉『二度と俺を失望させるなよ』

〈Yamachan〉『こっわw』

〈Cecil〉『そりゃ怒るよね・・・』

〈Semimaru〉『失った信頼を取り戻すのは容易ではないぞ?』

〈Yamachan〉『いっそ別サーバーうつればー?w』

〈Richard〉『移転したいならいつでも言えよ。01に来たい他サーバーのメンバーなんか五万といるからな』

〈Mobkun〉『く・・・わかったよ!従えばいんだろ!』

〈Yamachan〉『おい下っ端、口の利き方には気を付けろよ?w』

〈Mobkun〉『ああ!?』

〈Ume〉『あー、私今こいつと揉めそうです』

〈Kumon〉『揉めたら追放ですね』

〈Richard〉『返事は?』

〈Mobkun〉『・・・わかりました』

〈Luciano〉『これ以上ギルドの名を汚すことがないように、各員一層奮起せよ!』




 みんな、怒ってくれてたんだ。

 

 ログだけでも、みんなの想いが伝わった。

 無理言ってあたしがもぶはそのままでって言ったけど、逆に迷惑だったかな……。


Prrrrr.Prrrrr

 

 ん?

 ログを読み終わった頃、あたしのスマホに電話がきた。


『読んだ?』

「あ、うん。ありがとね」

『うん。ごめんね、連絡遅くなって。あのあとうめと相談して、今後のこと話してたんだ』

「ううん、面倒なこと押し付けちゃってごめんね」

『いや、それは大丈夫』

「うん、ありがと」

『うん。でも、みんなから俺にも色々メッセージ来たけど、リチャードが一番怒ってたかな。あ、もちろん俺もすごい怒ってるけど』

「え、リチャードが?」

『うん、ずっと一緒にやってきたのにって、悲しそうだった』

「そっか・・・今度あたしからもメッセージ送っとくよ」

『うん、そうしてあげて。そういえば、ソロになって、どうだった?』

「あ、うん。野良募集のスキル上げいったけど、新鮮で楽しかったよ」

『そっか、ならよかった』

「うん、なんとかやってける、かな?」

『ん、でも、俺やうめとも遊ぼうね』

「うん、いつでも呼んで」

『うん、ありがとう』

「遅い時間に、ありがとね」

『ううん、俺、彼氏だしさ』

「あ、そ、そうだね……ありがと」

『うん。遅くまで待たせてごめんね。じゃあ、おやすみ、しず』

「うん、おやすみ、くもん」


 やっぱりくもんは優しいなぁ……。

 そんなくもんと、これからもいれる。

 ギルドがなくても、一緒にいれる。

 寂しい思いはまだ消えないけど、その事実は、やっぱり嬉しいものだった。



 こうして、あたしは長年所属したギルド【Vinchitore】とお別れした。

 とはいっても、色々みんなに呼ばれて遊ぶこともあったし、繋がりが全部なくなったわけじゃないんだけどね。






 3月下旬。

 しばらく野良で遊んだり、くもんと遊んだりしつつ、あたしはソロライフを満喫してた。 

 うめはまだあたしと溝があるみたいで、あんまり会話してくれなかったけど、あたしが【Vinchitore】を抜けた話は一部プレイヤーたちには知れ渡り、ギルドの誘いは引く手数多だった。


 でも、またギルドに所属することに、あたしは少し恐怖もあった。

 また同じことが起きるんじゃないか?

 そんな心配が、消えなかった。

 

 くもんも、最初の頃は色々ギルドの提案してくれたけど、今ではもう言わなくなったし。


 そんな頃だった。


「募集条件、リアル教師……?」


 なんだこれ?

 こんな募集条件のギルド、初めて見た。


 ギルドリーダーは〈Gen〉。ギルドの名前は【Teachers】。

 聞いたことないな。

 

 でも、この募集条件なら、もしかして?

 あたしは教師なんかじゃないけど、教師やるような人なら、人格はちゃんとしてる人が、入ってるはずだよね……?


 初めて、ちょっと入ってもいいかなって思えるギルドだった。

 もちろん募集条件は満たしてないから、ダメ元だったけど。


〈Jack〉>〈Gen〉『はじめまして。ギルド募集を見たんですけど、少しお話してもいいですか?』

〈Gen〉>〈Jack〉『え、ジャックさん!?え、教師なんですか!?』

〈Jack〉>〈Gen〉『あ、いや、違うんですけど・・・ちょっと面白そうだなって思って、条件満たしてないけど、入れないかなって』

〈Gen〉>〈Jack〉『加入希望!?』

〈Gen〉>〈Jack〉『ちょ、ちょっと待ってください!彼女に相談します!』


 え、彼女? あ、カップルのプレイヤーかー。

 って、あたしとくもんも、そうか。えへへ……。


 数分後。


〈Gen〉>〈Jack〉『ぜひ!!』

〈Gen〉>〈Jack〉『でも俺ら、まだ二人なんですけどねw』


 おお、超新規ギルドかー。でも、それはそれで楽しそう?

 【Vinchitore】も、最初はあたしとるっさんとリチャードの3人で始まったんだし、始まりはいつもそういうものだろう。


 条件満たしてなくても入れてくれるのが、嬉しかった。


 少し経って、あたしにギルドへの招待が送られてくる。

 この招待を見るのは、もう4年もやってるのに、これで2度目。

 それを承認。

 ギルドリストには、ほんとに名前が3つしかなかった。


〈Gen〉『ようこそ!』

〈Soulking〉『ジャックさんなら大歓迎です!』

〈Jack〉『よろしくおねがいしまーーーーすw』

〈Jack〉『あ、条件満たしてないことは、これから入ってくるメンバーに秘密にしてもらっていいですかーーーー?』

〈Gen〉『もちろん!』

〈Jack〉『ありがとーーーーw』

〈Soulking〉『ご指導いただけると、嬉しいです!』


 こうしてあたしは、1か月ぶりにギルドに入った。

 職業詐称だけど、受け入れてくれた二人には感謝したい。




 そしてあたしの加入から3日後。


〈Daikon〉『よろしくお願いします』


 その翌日。


〈Zero〉『よろしくおねがいします!』

〈Jack〉『よろしくーーーーw』

〈Zero〉『って、え!?ジャックさん!?』


 あたしが加入してから、着実にギルドのメンバーは増えていった。


 その後も脱退や加入を繰り返しつつも、【Teachers】は少数精鋭ながら、時にはトップギルドに匹敵する活躍を見せ、着実に成長していったのだ。






 そして現在。【Teachers】に加入してから4年後の、7月。


「どうしたの? 楽しそうな顔して」

「あ、うん。昔涼弥が送ってくれた、あたしが抜けた直後の幹部会のログデータ見つけて、読んでた」

「あー、懐かしいね。しずが抜けて、もう4年かー」

「うん、あたしが【Teachers】に入って、4年目でもあるよ」

「今じゃ立派に学校の人だもんね」

「むぅ。どうせ司書ですよ……」

「元ニートなんだから、十分でしょ」

「ニート言うな! ……事実だけど」


 ギルドを抜けた後は、一生懸命勉強した。社会復帰というか、そもそも働いたことがなかったから、最初は怖かったけど、くもんのサポートも受けながら、あたしは司書資格を取り、学校司書に就職したんだ。

 

 そして今、あたしは千葉市のマンションに住んでいる。

 ここに住むのは、あたしだけじゃない。


 涼弥、くもんも、一緒に住んでるんだ。

 実家を引き払うのは少し寂しかったけど、あたしはくもんと二人で生きることを選んだ。


 PCを見ていたあたしの後ろには、あたしの画面をのぞき込むように、今くもんが立っている。


「懐かしいね、昔はこんな風になるなんて、想像もしてなかった」

「そうだね。でも、しずが今みたいに笑えるようになって、良かったよ」

「うん……涼弥のおかげだよ」

「いいギルドにも巡り会えてよかったね」

「うん、この前のオフ会、ほんと楽しかったなー」

「うん、ほんとよかった。これからも、しずにはずっと笑っていてほしいな」

「……え? な、何急に?」

「え? 思ったままだけど?」

「あ、うん、なんだ」


 ちょっとびっくりした。思わず振り返っちゃったし。


 くもんはこうやって、急に意味深なことを言うからドキドキしちゃう。

 もう4年も付き合ってるのに、今でもくもんは変わらず優しい。

 あたしはもう、くもんなしじゃダメなんだよなー。


「ねぇしず」

「なにー?」


 PCに向き直ったあたしは、振り向かずにその声に返事を返す。


「俺と結婚してくれませんか?」

「……え!?」


 慌てて椅子ごと振り返ったあたしに、くもんは片膝をついて、開いた箱を差し出していた。

 

 え? え? え!?

 何、何なの!?


「俺がずっと、君を守るから」


 それは、ずるいよ……。


 その言葉は、あの日のあたしを救ってくれた言葉。

 もう十分救われて、守られてるのに。


 くもんが差し出す箱には、キラキラと輝く半円が見える。


「俺と、幸せになろう」


 もう十分幸せだと思ってた。

 でも、これ以上が、あるんだ……。


「はいっ」


 立ち上がって、くもんが差し出す箱を受け取り、半円を取り出し、あたしはそれを左手の薬指にはめた。

 サイズはぴったり。


 そんなあたしを、くもんが抱きしめてくれる。

 ああもう、幸せ過ぎるよ……。


「大好きだよ」

「うん、あたしも、大好きっ」


 今度みんなに言わなきゃな。

 あたしも、くもんになったんだよって。





―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―

以下作者の声によるあとがきです。

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 いかがでしたでしょうか?

 〈Airi〉の時は本編に即した内容の別サイドを書きましたが、〈Shizuru〉ではほぼ全編過去のストーリーを展開させていただきました。

 ご期待に沿えなかった方、申し訳ありません!


 このSide Storyのテーマは王道でした。

 いや、オンラインゲームで出会うカップル自体が王道かどうかよくわかんないですけど、悪役からヒロインを救うヒーローという図式で構成させていただきました。

 本編だとあまり出てこない【Vinchitore】のメンバーをたくさん動かすことができて、作者としても楽しかったです。

 るっさんもっとちゃんとしろよって声も聞こえそうですが、一応その後はギルド内は平和みたいですね。ギルド内は(この意味がいまいちの方は本編第4章をお読みください※宣伝)。

 特にゼロやんが恐れる〈Yamachan〉の台詞は、書いてて楽しかったです。彼女もいずれ本編には再登場しますけどね!〈Yamachan〉って誰だっけと思う方は、第1章後半ですよ!※宣伝


 時系列的にはプロポーズが7月で、本編はすでに同年の8月に入っています(2020/7/18更新現在)。このエピソードはSideと本編とでもリンクしていきますよ……!

 いやぁ、ジャックとくもんは本編で影薄めなので、幸せになってほしいものです。

 二人の結婚がもたらす影響もあるはずなので、たぶん。

 今後とも本編ともどもお付き合いいただければ幸いです。


 そしてまた少し休養期間を挟みまして、3本目のSide Storyを展開します。

 3本目は〈Airi〉形式の、本編のSide Storyの予定です。懐かしいなぁって思いながら読んでくださると嬉しいです。

 本編を優先するので、毎日更新できるかはなんともですが。笑

 視点はメインキャラの一人で現在執筆中です。乞うご期待!!


 後書きが長くなりましたが、〈Shizuru〉のストーリーにお付き合いくださりありがとうございました。

 毎回コメントをくださる方々、投稿するたび本当に頂けるコメントが楽しみです。

 応援を押してくださる方も、読んでくださる方も、レビューやフォローしてくださる方も、本当にありがとうございます。

 これからも精進して参りますので、今後ともよろしくお願いいたします!

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