Side Story 〈Shizuru〉 episodeⅤ
【Vinchitore】によるドラキュラ伯爵討伐の情報は、攻略サイトを通じてあっという間に広まった。
載せたのはドラキュラ伯爵の行動パターンとか、ドロップ品とかで、攻略動画はまだ粗が目立つということで公開せずに、幹部たちの中にのみデータが渡されただけだったけど。
でもやっぱり、1度倒してしまえばあとは攻略の道筋が見えてくる。
撃破から1週間もしないうちに、四連撃の情報含めてあたしたちは全プレイヤーに情報を公開。
そこからは一気に攻略達成プレイヤーも増えだしていった。
あたしたちも、幹部だけのパーティなんて豪華な編成は組まずに、ギルド内の色んなメンバーと攻略を進め出す。
そんな風に、あたしたちはこの世界の最前線を駆け抜けて、全プレイヤーたちから一目置かれるギルドへと、成長していったのだ。
そしてサービス開始一周年を前に大学を卒業したあたしは、LAの世界にのめりこみ過ぎ、完全にニートになっていた。
4年間で大学は卒業したけど、就職はせず。
相変わらず友達もなし。
生活必需品や食べ物を買いに行くのと、両親の墓参りくらいしか外には出ない日々。
でも、充実はしてた、って当時は思ってた。
今考えると、何やってたんだろって思うけど……でもあの頃があったから今もあるわけで。
是か非かの判断は、もう少し人生を重ねてから判断するとしよう。
そしてそして。
サービス開始から3年半くらいが経った年の瀬。
あたしたち幹部は定例の幹部会のため、ギルドハウスに集まっていた。
今は一通り真面目な話も終わって、恒例の雑談タイム中。
〈Yamachan〉『いやーもうほんとに可愛かったです!』
〈Cecil〉『まさか来てくれるなんて思わなかったよーw』
〈Mobkun〉『いや、まじ生セシル天使』
〈Richard〉『もぶが言うとなんかキモいなw』
〈Mobkun〉『あ?殺すぞ?』
〈Cecil〉『ケンカしないのーwもぶも来てくれたんだったら話しかけてくれればよかったのに~』
〈Yamachan〉『ああ、ほんともう幸せでした』
いつも幹部会後の雑談もギルド関連の話が多いんだけど、この日はなぜか真面目な感じになってない。
というかやまちゃんのテンションが爆上がり。
話し合いが終わってるっさんはちょっとキャラ放置で離席中なので、それを止める存在も今はいなそう。
あ、るっさんはルチアーノのことね。一緒に過ごす期間が長くなったあたしは、ルチアーノのことをるっさんって呼ぶようになったんだ。
話を戻して、今なんでこんな盛り上がってるのかというと。
年末のオタクたちの祭典で、やまちゃんがセシルと会ったというのだ。
それだけで何でこんなに盛り上がるのかって? そりゃもうなんとセシルが今年の夏前頃からMMO愛好家の愛読書である『月間MMO』にコラムページを持ち始めたから。
しかも顔出しのコスプレ写真付き。
女のあたしからしても、セシルはめちゃくちゃ可愛かった。
あんな顔で生まれたら人生イージーだろうなぁって思うほど。
ほんと、世界は不平等だ。
でも、リアルでもちゃんと居場所があって、仕事しながらもLAもやってるセシルは、眩しかった。
あたし、今のままでいいのかなって、ちょっと思わされた面もあったし。
ちなみにセシルがコラムを持ち始めてから、【Vinchitore】への加入希望者はものすごい増えた。おかげで新人が増えて今年はけっこう育成に忙しかった。
セシル目的だけだったミーハーたちは、ギルドについていけず辞めたりもしちゃったけど。
〈Cecil〉『でも、オフで会うってなんか変な感じだったねーw』
〈Richard〉『オフ会とかやってるギルドもあるんだってなー』
〈Semimaru〉『わしらはそんな仲良しこよしでやってるわけじゃなかろうて』
〈Cecil〉『えー、楽しそうなのにーw』
〈Mobkun〉『じじいも生セシル見たらやりたくなるぞw』
オフ会かー。
もうずっと一緒にいるみんなと、リアルで会うのとか楽しそうだけど……でもなぁ。
〈Jack〉と違って、ほんとのあたしは、全然しゃべれないし、あたしには無理だよなぁ。
リアルでちゃんと人と話したのなんて、いつが最後だろう?
あれ、もしかして……
〈Mobkun〉『くもんだってセシル見たいとか思わねーのかー?w』
〈Kumon〉『え』
〈Richard〉『すげえなもぶwこの話題をくもんに振るのかよw』
〈Yamachan〉『ほんとゲスいな』
〈Mobkun〉『あ!?』
〈Kumon〉『月間MMOは見てるけど、可愛いと、思います』
〈Cecil〉『えーほんとー?くもちんに言われるとなんか嬉しいなw』
〈Richard〉『これが人望だぞもぶwww』
〈Mobkun〉『うるせえ!』
〈Yamachan〉『ジャックもセシル可愛いと思うでしょー?』
〈Jack〉『そりゃもちろーーーーんw』
〈Mobkun〉『男で可愛いと思わないやつなんて嘘だもんな!』
あたしのキャラが男だから、たぶんあたしのことも男だと思ってるんだろうな。
その方が楽だからいいんだけど。
でも、くもんもセシルが可愛いと思うかぁ……そりゃそうだろうけど。
でも、なんだろ、ちょっともやもやというか、分不相応ながらセシルに対していいなぁって思ってしまった。
そんな気持ちが、あたしの心にあったからかな。
気づいたら、あたしは言ってしまった。
ほんと、なんであんなことを言ってしまったのか。
〈Jack〉『うちらもオフ会やるーーーー?w』
〈Richard〉『え、マジ!?w』
〈Semimaru〉『ほほう』
〈Mobkun〉『セシルくるのか!?』
〈Yamachan〉『がっつくなよキモ』
〈Mobkun〉『ああ!?』
〈Cecil〉『面白そう!いつやるのー?』
〈Jack〉『俺はいつでも平気ーーーーw』
言ってしまった言葉に、予想以上にみんな乗り気だった。
リアルコミュ障の提案なのに、みんなが鼻で笑ったり、馬鹿にしなかったりしてくれたのが、嬉しくなる。
日程もなんも考えてなかったけど、あたしは365日、ギルドの活動がなければ大丈夫。あ、いや、年363日だ。両親の命日には、墓参りに行くから。
でもつまり、ニートのあたしからすればいつでもいいのだ。
年末年始の予定なんか、なんもないし。
〈Kumon〉『日程決めるよりも、まずは場所じゃないの?』
〈Cecil〉『おお、さすがくもちん!冷静!』
〈Jack〉『たしかに住んでる場所は大事だもんねーーーー教えてもらえるのかなーーーー?』
〈Richard〉『俺は福岡w』
〈Semimaru〉『わしは滋賀じゃ』
〈Mobkun〉『東京!』
〈Yamachan〉『うえ、私も東京なんですけど』
〈Cecil〉『私もだけど、あ、でも明日には実家戻るやー』
〈Jack〉『俺は千葉ーーーーw』
〈Kumon〉『俺も千葉』
え、嘘!
くもんも千葉なんだ……!
〈Richard〉『くそうw関東多いなw』
〈Semimaru〉『わしらは無理かのお』
〈Yamachan〉『セシルさん実家どこなんですかー?』
〈Cecil〉『秘密ーw』
〈Mobkun〉『なんだよ言えよw』
〈Yamachan〉『だからがっつくなキモイ』
〈Mobkun〉『ああ!?』
ログからも分かる通り、やまちゃんともぶは相性が悪い。もぶはけっこう我が強いし、今年に入って何かとセシルと絡もうとしたりするのが、なんか気に入らないみたい。
住んでる場所的に会えるかもだけど、この二人を会わせるのは、ちょっと怖いなぁ……。
〈Kumon〉『ジャックの提案だし、やるなら関東?』
やまちゃんともぶのやり取りに憂鬱になりかけてたあたしだったけど、くもんのログに、ちょっと胸が高鳴った。
くもんが乗り気になってくれてるのが、嬉しい。
くもんは一緒にプレイしててほんと信頼できるし、ギルドへの貢献度も高いし、尊敬できる人だから。
ギルドの中でも、一番戦略とか攻略について話す存在だったしね。
普段は寡黙で大人しくて、犬型獣人キャラのせいもあってるっさんの犬なんて呼ばれたりしてるけど、あたしにとっては共にギルドの頭脳を支える相棒なんだぞ。
〈Jack〉『そだねーーーーリチャードとせみじいごめんねーーーー;』
〈Richard〉『いいってw今回はみんなで楽しめw』
〈Semimaru〉『うむ若者たちで楽しむがよい』
〈Mobkun〉『じゃあいつやる!?』
〈Cecil〉『どうせなら早くやって、話聞かせてよーw』
〈Yamachan〉『あ、さらっとセシルさん今回パスですか?』
〈Cecil〉『んー、ちょっと事務所的に許可が下りなさそうなので?』
〈Yamachan〉『え、事務所とか入ってるんですか!』
〈Cecil〉『詳しくは秘密ーw』
〈Kumon〉『年内だとすると、明後日なら行けるよ』
〈Jack〉『じゃあ、明後日の12月30日にしようかーーーー!』
〈Mobkun〉『男だけかー』
〈Yamachan〉『うわ、そういうとこマジウザ』
〈Richard〉『ゲーマーなんて大概男だろw』
〈Cecil〉『女ゲーマーでーす』
〈Semimaru〉『セシルはレアケースじゃのお』
〈Cecil〉『やまちゃんはいく?』
〈Yamachan〉『セシルさん来ないし、もぶくるし、行きませーん』
〈Richard〉『ストレートに言うなぁw』
〈Jack〉『じゃ、じゃあ第1回は3人かなーーーー』
セシルとやまちゃんが来れないとなると、女はあたしだけかー。
言い出してしまった以上、後には引けないけど……今になってなんてことを言い出してしまったんだろうとちょっと後悔もある。
でも、あのくもんに会える。
リアルのもぶも、もしかしたらいい奴かもしれないし。
きっとこれは、あたしにとって変わるチャンスなんだ。
一生
オフ会なら、LAの話で話題も尽きないだろうし……!
〈Luciano〉『オフ会か。楽しんで来いよ』
〈Jack〉『あ、るっさんおかえりーーーーw』
〈Kumon〉『ルチアーノさんはいらっしゃいませんか?』
〈Luciano〉『俺は北海道だからな』
〈Richard〉『そりゃ無理だわなwww』
〈Yamachan〉『ルチアーノさん北海道だったんですかー』
〈Semimaru〉『寒そうじゃのお』
〈Mobkun〉『この時期はもうどこもさみーだろw』
戻ってきたるっさんが来れないことが判明して、やっぱり3人で確定。
大丈夫。もう3年半も一緒にいる仲間なんだし、リアルで会ったって、きっと平気。
大丈夫、大丈夫だぞあたし。
大丈夫だからな……!
明後日の12月30日は、あたしが新たな一歩を踏み出す日にするんだ……!
少しでも前向きなことを考えないと、不安で心が折れそうだから、あたしはそうやって自分の心に言い聞かせ続けた。
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以下
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Cecilにオフ会参加不可を伝えたのは彼女の血縁者とかなんとか……。
そしてちょっと本編含め書き溜めがピンチなので、1日1話ずつ進まない可能性もでてきました。
本編のほうを優先させていただきたく思います……!
のんびりとお付き合いくだされば幸いです……!
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