Side Story 〈Shizuru〉 episodeⅣ

〈Luciano〉『アタック開始!』


 コンテンツ開始から必要最低限の雑魚を倒しながら進んだあたしたちは、突入から4分後、1体目の中ボスである大型ゾンビと交戦開始。


 いつものようにルチアーノが突っ込んでチアアップヘイト上昇

 その直後、セシルの銃撃が炸裂する中、モンスターの背後にもぶくんを置いて、そこから少し下がった攻撃が届くギリギリの位置にリチャードとくもんが陣取るいつもの態勢。


 あたしは戦闘開始前から全員に攻撃力上昇や命中率上昇魔法を唱え終わっていたので、序盤は見てるだけ。

 あ、そろそろ後方攻撃きそうだから、もぶくんにダメージ軽減魔法っと。


〈Mobkun〉『おお、さんきゅ!』

〈Cecil〉『さっすがジャック!』

〈Semimaru〉『よくわかるもんじゃのお』


 不意をついた後方攻撃を捌ききれなかったもぶだったけど、あたしの魔法のおかげで大したダメージにはならない。

 みんな褒めるけどさ、見てたらなんとなくわかるんじゃないかなーってあたしは思う。


 少しだけHPが減ったもぶくんには、即座にやまちゃんの回復魔法が届いてた。


〈Luciano〉『よし、連撃試すぞ!』


 こっからは連戦が続くため、MPを温存するために通常攻撃でHPを半分まで削ったあたりで、ルチアーノの指示が飛ぶ。

 その言葉の直後にルチアーノがシールドタックルを放ち、モンスターが硬直。


 このゲームはターゲットマークが出ている時にアタックコマンドをすることで攻撃ができるんだけど、基本的に敵の攻撃を防ぐ役のパラディンはアタックマークが出たとしても敵の攻撃が来てたらそれを防ぐのを優先しなきゃならない。

 ルチアーノはさも簡単に硬直させたけど、攻防のバランスの関係で、盾が硬直させるのは、けっこうタイミングが難しいんだよ。

 ダメージ上等って盾役もいるけどね。


〈Mobkun〉『1番正拳突き!』

〈Kumon〉『2番』

〈Cecil〉『3番発射ー!』

〈Richard〉『トドメのダブルスラッシュ!!』


 硬直直後、メンバーによる攻撃スキルが炸裂。ちなみにみんなタイピングで喋ってるんじゃなくて、コマンドに台詞もセットしてるんだよ、これ。


 そしてリチャードの攻撃スキルによる衝撃波みたいなエフェクトが消える前、モンスターの硬直が解けてルチアーノへの攻撃が再開していたけれども、そこにせみまるのバーニング炎魔法が着弾。

 その着弾と同時にモンスターのHPが0になる。


〈Cecil〉『おお!』

〈Richard〉『くもん大発見だな!w』

〈Kumon〉『何度も見ればみんなも気づいたと思います』

〈Mobkun〉『それをやる気になるのがすげーよ』

〈Yamachan〉『早かったねー』

〈Jack〉『大勝利だねーーーーw』

〈Semimaru〉『これは朗報じゃ』


 いつもより早い決着に、あたしたちは皆大満足。


〈Luciano〉『これは収穫だな。くもん、よくやった』

〈Kumon〉『どういたしまして』

〈Richard〉『いやー、めっちゃ気持ちいい!w』

〈Yamachan〉『脳筋らしいダメージは出てたね』

〈Luciano〉『リチャード、自分が出したダメージの倍率をあとで報告してくれ』

〈Richard〉『え!?』

〈Mobkun〉『算数くらいできんだろお前だって』

〈Jack〉『2倍近い感じはしたねーーーー』

〈Richard〉『ジャック神か!』

〈Cecil〉『2倍ってほんと~?』

〈Yamachan〉『それは強い』

〈Semimaru〉『わしの魔法はダメージ変化なしじゃな』

〈Luciano〉『よし、このまま進むぞ!』


 くもんの提案は大正解。


 おかげで3体の中ボス討伐に移動含めて10分×3の30分を想定していたあたしたちだったけど、トータル25分であたしたちはボスであるドラキュラ伯爵の扉前に辿り着くのだった。




〈Luciano〉『だいぶ早いな』

〈Jack〉『強化は終わってるよーーーーw』

〈Cecil〉『この勢いでいっちゃおー!』

〈Yamachan〉『5割切るタイミングだけ気を付けないとね』

〈Luciano〉『そうだな。アタッカーは各自与ダメージを推測してスキルを使っていこう』

〈Richard〉『りょーかいw』

〈Kumon〉『了解です』

〈Semimaru〉『不安はリチャードかのお』

〈Richard〉『おいじじい!w』

〈Mobkun〉『さっさか倒しちまおうぜ!』


 軽口を叩きつつ、あたしたちはこのメンバーで挑む3度目のドラキュラ伯爵戦に臨む。


 道中にもドラキュラ的な雑魚はいるんだけど、それを倍くらいに大きくした巨躯でありながら、グラフィックはしっかりと細部の装飾まで作りこまれた伯爵の姿に、あたしは何度目かわからないわくわく。


 今日こそこいつを倒すんだ……!

 全プレイヤーたちの中で一番早く、あたしたちが倒すんだ……!


 そして戦闘がゆるやかな流れでスタート。

 通常攻撃やMP消費の少ない単発スキルでまずは4分くらいかけて2割を削る。

 そこから1回目の連撃で、1割ほどを削った。

 うん、やっぱ4連撃にすると明らかに削れるダメージ量が違う。

 やっぱリチャードが、強い。


 くもんもセシルもいいダメージは出すけど、やっぱり近接ファイターの一撃には及ばない。ま、リチャードが一番ミス通常攻撃外しも多いんだけどさ。

 

 そして再び連撃で、トータル4割ちょいほどを削る。


〈Luciano〉『5割まで通常で削るか』

〈Kumon〉『いや、リチャードさん抜きでおそらくちょうどです』

〈Richard〉『すげえな、そんなの分かるのかよ?』

〈Kumon〉『ログ追ってればそれくらいは』

〈Cecil〉『うっそ!? ログってずっと流れてるじゃん!?』


 くもんの言葉にみんな驚いてるけど、それはあたしも思ってたことだった。

 流れるログを抽出して読み解くのは、あたしけっこう得意なんだよね。


〈Jack〉『念のため、せみまるは1ランク下げた魔法がいいよーーーー』

〈Semimaru〉『ほお、心得たぞい』

〈Yamachan〉『ジャックもすごー』

〈Mobkun〉『いつでもいいぞ!』

〈Luciano〉『では二人の言う通りでいくぞ!』


 ルチアーノの言葉から、3度目の連撃。リチャードがいない分、与えるダメージは少ないけど、ほんと、ギリギリ5割まで削れた感じ。


〈Luciano〉『各自防御準備』

〈Mobkun〉『いつでもいいぞ!』

〈Kumon〉『半分割ります』


 そして単発でくもんがスキルを打って、あたしたちはドラキュラ伯爵のHPを半分以下まで割り込んだ。

 その瞬間、伯爵が咆哮するようなモーションを見せたあと、回転攻撃による範囲攻撃を放つ。

 防御態勢なってたから、大したダメージはなし。

 分かってればね、対応できるもんね!


〈Luciano〉『よし、ここから一気に削るぞ!全力だ!』

〈Richard〉『っしゃあ!』


 ルチアーノの指示に、あたしもメンバーにかける強化魔法のランクを上げる。

 ここまでの展開は、想定通り!



 そして、戦闘開始から15分くらい。


〈Richard〉『やべ!』

〈Mobkun〉『おい!!』

〈Kumon〉『リチャードを優先!』

〈Yamachan〉『おk!』

〈Mobkun〉『俺じゃねーのかよ!』


 注意深く削ってはいたものの、どうやら伯爵が自身の攻撃を上昇させ、防御を下げる技を使っていたようで、リチャードの一撃で伯爵のHPが2割を切って一気に残り1割まで減ってしまった。

 予想外のダメージに、正直焦った。


 その瞬間、力を解放するようなモーションとともに、伯爵の周囲にいるプレイヤーに範囲大ダメージが襲い掛かる。

 信じられないけどこれも予測していたのか、ルチアーノ以外のHPが一気に残り2割くらいまで削られた。防御スキルを使ったルチアーノも4割くらいのHPを一気に持っていかれたみたいだけど。


〈Luciano〉『セシルは撃ち続けろ』

〈Cecil〉『まっかせといてー!』


 あたしがルチアーノを、やまちゃんがくもんの意図を察してリチャードの回復をしている間に、再び同じモーションが起きる。

 でもこういうとき遠距離からアタックするガンナーって便利だなぁ。DPSDamage Per Second低めなのを補って余りある性能だと思う。ほんと。


〈Mobkun〉『くっそ!』

〈Kumon〉『大丈夫』

〈Luciano〉『そのまま俺とリチャードをキープ!』

〈Luciano〉『押し込むぞ!合わせろ!』


 もぶとくもんが死んで戦闘不能になってるけど、それを回復させる余裕はない。

 それはきっとみんなわかってるから、もぶもくもんも何も言わない。


 そしてルチアーノが間隙を縫ってシールドタックルで伯爵を硬直させ、セシルとリチャードの連撃と、せみまるの魔法でHPを削っていく。

 ほんと、この時伯爵は攻撃間隔が短くなる猛攻状態だから、その攻撃を盾で防ぐのでいっぱいいっぱいのはずなのに、さすがルチアーノ、見えてる世界が違うなー。


 そして、残り時間47秒。


〈Richard〉『っしゃあ!!』

〈Cecil〉『いぇーい!』

〈Semimaru〉『感慨深いのお』

〈Jack〉『やったねーーーーw』

〈Yamachan〉『疲れたー』

〈Mobkun〉『次は生き残ってやる・・・!』

〈Kumon〉『3割ちょっとの時にきた技、確認しておきます』

〈Cecil〉『くもちんマジメかっ』

〈Luciano〉『何はともあれ、よくやった!』

〈Luciano〉『俺たちの勝利だ!』


 ついにあたしたちは全プレイヤーたちの中で初めてのドラキュラ伯爵討伐に成功した。

 この時芽生えたのは、やはり難敵に挑むのは楽しいという、このゲームの醍醐味と。

 あたし以上に細かく分析をしてる、くもんへの敬意。


 どんな人なんだろう?

 勝利の余韻の中、そんな風に思ったの、覚えてるな。

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