Side Story 〈Shizuru〉 episodeⅢ

 そして待望の本サービス開始。

 あたしたちは予定通りにスタートダッシュを決めた。

 本サービス開始と同時にルチアーノも攻略サイト「Legendary Adventure Complete」の運営をスタート。

 掲載してたのはβ版のデータだったけど、そのサイトはしょっぱなからアクセス数はよかったらしい。

 ルチアーノがSNSを通じて宣伝もスタートしたのもあると思う。


 その甲斐あって、01サーバーのルチアーノが率いる本家だけでなく、全サーバーに配属された【Vinchitore】の仲間たちも着実にギルドの仲間たちを増やしていったようだった。

 ちなみに02サーバー以下のギルド名は【Vinchitore dueドゥーエ】みたいに、イタリア語でサーバーのナンバリングが入ってる。

 01サーバー以外の【Vinchitore】の運営は基本的にルチアーノが信頼するギルドリーダーに委任してたのも、活気が出るのに繋がったんじゃないかな、たぶん。


 そしてサービス開始3か月が経つ頃には、01サーバーの本家【Vinchitore】のメンバーは100人を越えた。


 全種族、全武器使いがいるのは当たり前。

 でもこれだけいると運営も大変。


 なのでその中でもトップ級のプレイヤースキルを持つプレイヤーたちが、その役割別に幹部としてメンバーの育成を任せられることになった。


LAの役割は装備ごとに大きく分けて

・盾役:盾&片手剣パラディン

・サブ盾:格闘グラップラー武士

・近接アタッカー:大剣、斧、槍ファイター

・遊撃アタッカー:短剣ロバー苦無忍者

・遠隔アタッカー:ガンナーアーチャー

・後衛アタッカー:樫の杖ウィザード

・サポート:メイスサポーター

・ヒーラー:錫杖ヒーラー

に分けられる。この中であたしはありがたくもサポート役の幹部に任命された。


 あたしなんかが、って最初は思ったけど、頼られたのが嬉しかった。

 こんなあたしを信頼してくれる、ルチアーノの信頼に応えたかった。


 ちなみに武器による役割の名前とかは、運営側が特に明記しなかったので、あたしたちというか、【Vinchitore】が決めた。

 人によっては様々だけど、あたしたちの呼び方は広く広まっていったのは、ちょっと鼻高々だよ。


 というわけで選ばれた幹部は以下の通り。

〈Luciano〉:ギルドリーダーでもあり、盾役統括。キャラクターは銀髪男エルフ

Mobkunもぶくん〉:格闘&サブ盾統括。黒髪ロン毛の男ヒューム

〈Richard〉:近接アタッカー統括。スキンヘッド男ヒューム

Kumonくもん〉:短剣&苦無遊撃アタッカー統括。犬型獣人男

Cecilセシル〉:ガンナー&遠隔アタッカー統括。猫耳獣人女

〈Semimaru〉:後衛アタッカーウィザード統括。老人男ヒューム

Jackあたし〉:サポーター統括。銀髪男エルフ

Yamachanやまちゃん〉:ヒーラー統括。銀髪女エルフ


 本当ならもぶくんが入ったサブ盾幹部はもこにやって欲しかったけど、しょうがない。もぶくんはβ版時代に高いログイン率とプレイヤースキルが認められた、ルチアーノが目を付けてたプレイヤーだったらしい。

 乱暴な言い方が多い奴だけど、話してみると悪い奴じゃないから、あたしも割と一緒にプレイすることは多かった。


 くもんとセシルとやまちゃんは、本サービス開始後からのプレイヤーみたいだっただけど、みんなルチアーノが見つけてきた。

 3人とも飲み込みが早くて、1を言えば10察してくれるようなプレイヤー。

 すぐに古参メンバーと肩を並べるくらい強くなっていった。




 そしてそんな風に【Vinchitore】の基本構造が出来上がっていった頃だったかな。


〈Luciano〉『よし、じゃあ準備はいいな?』


 不毛の大地、コタンの丘というフィールドエリアの最奥部。お化け屋敷みたいな佇まいの館の前にあたしたち幹部は勢ぞろい。付き人みたいに何人もギルドメンバーが見守ってたけど、パーティは幹部のみの8人で組んでいた。

 あたしの付き添いにはあたしを慕ってくれる〈Umeうめ〉がいてくれた。リアルの年齢は知らないけど、あたしの弟子みたいな子である。


 ちなみに気を遣ってかルチアーノはギルドチャットで喋ってるけど、この言葉はパーティメンバーであるあたしたちのためのものなのは明白だから、幹部以外のメンバーの誰も、ギルドチャットには入ってこなかったよ。


〈Richard〉『今日こそ勝ーつ!』

〈Cecil〉『おうよー!』

〈Yamachan〉『今日はサブ盾ミスんなよー?』

〈Mobkun〉『やかましい!この前はちょっと油断しただけだ!』

〈Kumon〉『その油断が命取り』

〈Jack〉『くもんの言う通りだよーーーーw』

〈Semimaru〉『そろそろ攻略せんと、わしらの面子が立たんからの』

〈Cecil〉『もこさんとこに先越されるわけにはいかないもんね!』

〈Luciano〉『ああ。もこのとこも、けんろうのとこも攻略に着手し始めている』

〈Luciano〉『【Vinchitore】の名を守るためにも、今日は倒すぞ』


 この頃には、自分の喋り方も当たり前のようにできるようになってたっけな。


 あたしたちが今挑もうとしているのは、サービス開始直後の最難関コンテンツであるドラキュラ伯爵討伐。道中3体の中ボスを撃破し、ボスであるドラキュラ伯爵を倒すまでトータル45分で駆け抜けなきゃいけない。

 幹部メンバーのメイン武器のスキルが全員当時のスキルキャップに至ったこともあり、先週からいよいよ攻略に着手したのだ。

 

 この時このコンテンツに挑んだことがあるギルドはそれなりにあったけど、どこもボスまで辿り着けずに敗退してるのは知ってた。

 かつての仲間だったもこが率いる【Mocomococlub】もけっこう腕利きのプレイヤーが多かったけど、それでも3体目の中ボスでタイムアウトとかって聞いてた気がする。


 こんな敵はβ版にはいなかったから、正直このボスと戦うのがあたしはすっごく楽しかった。

 負けてばっかでも、楽しかったな。


 ルチアーノもあたしも、別々なパーティでコンテンツ覗いたりはしてたけど、この豪華メンバーで本腰を入れて攻略を開始したのは先週が初めて。

 24時間に1度しか入場ができないから、今回で攻略は7回目だったかな。


 5回目からボスにはたどり着けたけど、初めてのボス戦は突入段階で5分しかなくて時間切れ。2回目のボス戦は8分あったけど、やはり時間切れ。

 でも何回も突入を繰り返してきたから、既にあたしたちはこのエリアのマップを完成させている。そして脳内にはそのマップが叩き込まれている。

 念のためプリントアウトもしたけど。

 これで最短距離で進行が出来るから、予定通りにいけば今日は15分くらいはボスと戦う時間が持てるはず。


 そんなこんなで、道中についての確認が終わり、最終チェックとして、中ボス含むボス戦の確認が始まる。

 さすがにこっからは、メンバーによって戦い方が変わってくるからルチアーノもパーティチャットに切り替えた。


〈Luciano〉『2体目、赤コウモリは俺が、青コウモリはもぶがキープ』

〈Luciano〉『赤へのアタックはセシル。青へはリチャードとくもんとせみまる』

〈Luciano〉『青を3分以内に撃破だ』

〈Luciano〉『連撃は俺のタックルかもぶのアッパーからくもん>セシル>リチャード』

〈Luciano〉『回復の優先順位は俺>もぶ>リチャード>くもん>セシルだ』

〈Luciano〉『ジャックはいつも通り頼む』

〈Jack〉『お任せあれーーーーw』

〈Kumon〉『あの、一ついいですか?』

〈Cecil〉『お、くもちんが意見って珍しいね!』


 ルチアーノの指示は前回の敗戦後に決まった戦い方だったんだけど、珍しくくもんが何かを言おうとした。

 くもんは犬型獣人キャラのワイルドな見た目のくせに、かなり寡黙で、自分から何か言うのは滅多にない。

 だから、あたしだけじゃなくみんなが「意外」って思っただろうな。


〈Luciano〉『なんだ?』

〈Kumon〉『ルチアーノさんともぶさんも、連撃入ってくれませんか?』

〈Luciano〉『ほお?』

〈Kumon〉『この前の動画見直して気づいたんですけど』

〈Kumon〉『せみまるさんが1回硬直時間中の魔法着弾遅れた時あったんですよ』

〈Semimaru〉『なんと、それはわし自身気づいておらんかったぞ』

〈Richard〉『中身までじじいなってんじゃねーぞw』

〈Kumon〉『でも、ダメージ値は他の時と変化なかったのを確認しました』

〈Kumon〉『だから、もしかしたら魔法の着弾は硬直溶けてても、最後のスキルのエフェクト中なら大丈夫じゃないかなって思うんです』

〈Cecil〉『くもちんすごー。よく見てるね!』

〈Luciano〉『ふむ』

〈Mobkun〉『それができりゃ4連撃じゃん、いいんじゃね?』

〈Luciano〉『硬直させなかった方が連撃の1撃目か。やってみよう』

〈Richard〉『俺の一撃がさらにうなるから、タゲ頼むぜー?w』

〈Yamachan〉『誰に言ってんの、失礼だろが』

〈Jack〉『むしろリチャードがタイミングミスんないでねーーーーw』

〈Cecil〉『もぶもタイミング忘れんなよー?』

〈Mobkun〉『大船に乗ったつもりで大丈夫だぜ!』


 こうして、くもんの言葉であたしたちは攻略を一部変更。


 くもんの言葉には自信を感じたから、なんとなく、勝てるかなって、そんな気がしたのを覚えてるなぁ。

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