Side Story〈Yuuki〉episodeXVIII

本話は、本編64話+の話になります。

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 夜の街を進み、私たちはゆめさんが予約していたというカラオケにやってきました。

 こんな夜の時間にカラオケに来るなんて初めてですし、まして皆さんとは今日お会いしたばかり。

 でもまだ帰りたくない、そんな気持ちを抱いたまま、私は皆さんに続いてカラオケルームに入ります。

 ちなみにカラオケに到着したあたりでぴょんさんとゆめさんがゼロさんと離れていたので、私もだいさんから離れていますよ。


「一番手いきま〜す」


 そして手慣れた動作でゆめさんが曲を入力し、疾走感あるような、そんなメロディが流れ出します。

 聴いたことがあるとは思うんですけど、どこで聴いたんだったかな……。


「ゆっきーも何か頼む?」

「あ、皆さん何か頼まれますか?」

「ぴょんがまだ飲もうってさ」

「わかりました」


 店内の配置はモニターの正面のソファーにゼロさんがお一人で座り、ゼロさんの右手側にだいさんと私、左側にぴょんさんとゆめさんが座っています。

 ゆめさんの歌に集中してましたけど、今だいさんがメニューを回転させたということは、ぴょんさんから回ってきたということなのかな?


 とりあえず先程までも飲んでいたウーロンハイを選ぶ、私はそれをだいさんに伝えます。


「相変わらずうめーなー」

「えへへ~それほどです~」

「さすが音楽科の先生ですね」


 そして一曲目が終わり、ぴょんさんが隣に座るゆめさんへ賞賛を送ると、ゆめさんは可愛らしい笑顔を私たちの方に振りまいてくれました。

 でもほんとに、美しい歌声でした。


 そして二曲目をぴょんさんが、三曲目をだいさんが、四曲目をゼロさんが歌い、いよいよ私の番です。


「私、カラオケ本当に久しぶりです」


 見様見真似でタブレットを操作して私がいれた曲は、ゆずちゃんが好きなアイドルの歌。

 毎日誰かしらのメンバーをテレビで見るような大所帯のアイドルさんですが、ゆずちゃんがずっと聴いて口ずさんでいるので、私まで覚えてしまいました。

 振り付けまではうろ覚えですけど。


「いつぶりなの~?」

「小学生、でしょうか……1度だけ家族と行ったことがあるんですけど、それ以来一度も行ってないです」

「まじかよー、若いのに」

「若さって関係あるのかしら……?」


 そういえば、中学、高校、大学と沙良ちゃんや紗彩ちゃんともカラオケって行ったことなかったですね。

 ……誘われたこともなかったけど、あの二人はカラオケが嫌いだったのでしょうか?


 そんなことを思いつつ、メロディが流れ出したので、思わず身体がリズムに乗り出します。

 そして歌詞の部分が始まり。


「〜〜〜〜♪」


 マイクを持って歌うの、楽しいですね。

 なんだが自分もアイドルになったような……というと調子に乗りすぎですよね、すみません。


「……なるほど」

「本人楽しそうなら、いいんだよ~。歌ってそういうもんじゃん?」

「音楽科も先生の言葉には重みがあるわね……」

「個性的、とも言えるもんな」


 むむ?

 個人的に楽しく歌っていた私ですけど、何やらゆめさん以外の方々の表情が、曇っているような?

 

「よし、じゃあ2周目いこー!」

 

 そして私が歌い終わると、皆さん特に何も触れてくることなく、だいさんはフードメニューの見ながら何か食べたいかなどを聞いてくれました。

 先程の居酒屋さんでもう十分食べたので大丈夫ですけど……むむ、何やら不思議な空気……。



 そしてそのまま2周目のカラオケタイムが終わった頃。


「お、コスプレ衣装とかあるみたいだなー」


 ゆめさんがみんなに示したのは、レンタル衣装のカタログでした。

 セーラー服やナース服等、定番のような衣装がつらつらと。

 LAでも季節ごとにイベント装備等が実装されますけど、やはりこういう衣装ってなんだか不思議な魅力がありますよね。


「あ、どうする~? ゼロやんどれか着てほしい〜?」


 ぴょんさんの言葉に、私たちは歌うのを一旦止め、みんなでぴょんさんが開いたカタログのところに集まります。

 そしてゆめさんがゼロさんの好みを聞いていますが、なるほど、こういうところも争奪戦の動きの一つですね。


「わ、私はいやよ!」


 ですが、ゆめさんの問いにまず答えたのはだいさん。

 着るなんて何も決まってない上に、けっこうしっかりカタログを眺めていたと思ったのに、なんだか不思議ですね。


「でも、けっこう可愛いですね」


 あ、巫女服もあるんですね。

 神社は好きです。落ち着いた雰囲気と、歴史を感じる佇まいと、なんだか心が安らぐので。


「社長さん、何がお好みですかー?」

「うわ、でたよ酔っ払いの悪ノリ」


 社長さん?

 ゼロさんは公務員さんですけど……。


「元カノコスプレイヤーなんだから、絶対ゼロやんも好きそうなのに~」


 あ、そうか、セシルさんはコスプレイヤーという奴ですもんね。

 交際されてた時から、コスプレはされてたのかな?


「やめろ! 変な話題出すな!」

「卑猥」


 え、何がだろう……?


「だいさん!?」

「ゼロさんはコスプレ好きなんですか」

「ほらもう! ゆきむら勘違いしちゃうから!」


 コスプレカタログをきっかけに、カラオケそっちのけでゼロさんを中心とした話が広がりましたが、察するにゼロさんはコスプレ好きということですよね。

 皆さんどうするんでしょう?

 皆さんが借りるなら、着てみたい気もしますが……。

 でも別料金みたいですし、頼まないかな、そう思っていると。


「あ、じゃああたしら適当に選んで着替えてくっから、ゼロやんが一番好きな衣装選んだやつが、カラオケ代ゼロやん持ちにしようぜ!」

「おお、面白そう~」

「私もやるの……?」

「ゼロさんの好み、なんでしょう……」

「え!? 俺の同意は!?」


 ぴょんさんの提案で、するもしないもなく、衣装を借りることが決定。

 ゼロさんのお金を動かすのに、それでいいのでしょうか?


「とりあえず現物見せてもらいにいこーぜ!」

「わ、私はいいわよっ」

「うっせー、強制じゃ!」

「ちょっとっ!?」


 色々と驚きはあったのですが、ゼロさんの返事を待つこともなくぴょんさんは嫌がるだいさんの腕を引っ張り室外へ連れて行きます。

 これはつまり、ゼロさんもOKということですよね。


 そして引っ張られるだいさんも観念したのか、すぐに自分の足で歩き出したようです。

 表情だけ見れば、そこまで嫌がってるようには見えないのですけど……?




 そして店員さんに案内され、レンタル衣装置き場に到着。

 そこまで数が多いわけではありませんが、某大型ディスカウントストアにあるような衣装がそこかしこにかけられています。

 そういえば、学生の頃、ハロウィンに紗彩ちゃんが魔女の格好したりしてましたっけ。

 あの時の私はよくわからず、一緒に執事のような格好をさせられましたけど、でもたしかにコスプレすると、ちょっと非日常というか、普段の自分とは違う自分になれる気がしますよね。


 さて、何にしようかな……。


「ゼロやん何が好みだろね〜」

「だいはなんか情報あるのかー?」

「あるようなないような……かしら」

「なんだそれあやふやだなー」


 私たちが衣装を探す中、ぴょんさんがだいさんにゼロさんの好みを聞いたのは、LAの中でのフレンド歴が長いから、ですかね?

 とはいえ、あやふやな答えをしつつ、だいさんはすごく真剣なご様子ですけど。


「なんだかんだ一番真剣じゃ〜ん」

「べ、別に……負けたくないだけだし……」


 そんなだいさんへ、楽しそうに笑いながら声をかけるゆめさん。

 負けたくない、ということは、ゼロさんにお代をもってもらえるから、ですかね?

 さっきはやりたくなさそうでしたけど、何だかんだその気にはなっておられるようです。

 真剣な表情で、迷っているというよりは、何かを探している感じですね。


 あ、ゆめさんが持ってるのは、セーラー服ですか。

 たしかにゆめさんは幼い雰囲気もありますし、似合いそうです。


「学校の先生相手にそれかー?」

「や〜、意外と好きで先生なったのかもよ〜?」

「え……?」

「いや、冗談だよ〜?」

「おい、ゆっきーだけじゃなくだいまでそんな顔すんなっ」


 ゆめさんの言葉に、まさかゼロさんが? と驚いた私でしたが、私以上に驚きの表情を見せたのはだいさん。

 一瞬まるでこの世の終わりみたいな顔をされた気がしましたが、気のせいでしょうか?


「ま、年下好きそうだけどなー」

「あ~、そだね~。セシルも可愛い系だし、ちょっとそれは思うかも~」

「そうなると、あたしは勝負なんねーかなー」

「どんま~い」

「おいっ」


 ですが、驚く私とだいさんをよそに、ぴょんさんとゆめさんの会話が続きます。

 でも、どうやったらゼロさんが年下が好きそうというのが分かるのでしょうか? 不思議です。セシルさんだって、ゼロさんの同級生だったということは、同い年だったということですよね?


「あたしこれにしよーっと」

「お~、婦警さんか~、似合いそ~」

「だろー? とりあえず鈍感罪であいつ逮捕してくっかなっ」

「名案でありま~す」


 むむ、鈍感罪?

 鈍感というのは、罪ということですか?


 青地の女性警官のコスチュームを手にそんなことを言うぴょんさんですが、たしかにその衣装はぴょんさんに似合いそうでした。


 ちなみにこの間に私はさきほどカタログを眺めている時にいいなと思った巫女さんの服を手にし、だいさんもようやく衣装を決めたようです。


「ゆっきーは巫女さんか~、いいね~、似合いそ~」

「そうなー。すらっとしてるし、色白だし、ほんとに神社にいたらお守り買いに来る奴増えそうだなー」

「ゆっきーは、今まで彼氏とかいたことないんだよね~?」

「あ、はい。そうですけど……」

「おー、じゃあ純潔ならほんとに巫女なれんなー」

「言うと思った~」

「ふったのゆめじゃん!」

「むむ?」


 純潔……巫女さん……あ。

 ……ふむ。たしかに、そういう経験はありませんけど……。


 こんなことを考えるのは、ちょっと恥ずかしいですね……。


「あたしはもう巫女にはなれねーからなー」

「誰も聞いてませ~ん」

「何の話してるのよ……」


 あ、ぴょんさんは経験お有りなんですね……。

 

 そんなぴょんさんとゆめさんにだいさんは何だか呆れ顔のご様子です。


「まー、年齢的にもゆめもギリだろー? 25くらいまでじゃなかったっけ」

「そんなこと聞いたことあるね~」

「ま、ゆっきーならそこもクリアかっ」

「清楚だしね~」

「じゃあ、これにしてみます」


 そしてそんなお話の末、私は違うのにする気にもならず、巫女服で勝負することを決定します。


「だいさんは、チャイナドレスですか」

「あ、うん。いいかなって」

「スタイルいいからなー」

「ぴょんも細さなら大丈夫だよ~?」

「んー? ゆめちゃんは何の話をしてるのかなー?」

「きゃ~、こわ~い」


 終始ぴょんさんとゆめさんがはしゃいでますけど、たしかにコスプレするって、なんか少しテンションが上がる気がしますもんね。新しいグラフィックの装備を手に入れた時のような、そんな気分。

 皆さんの衣装は最終的に、ぴょんさんが警察官、ゆめさんがセーラー服、だいさんが青いチャイナドレス、私が巫女の服、ということですね。


「うし、じゃぱぱっと着替えようぜー」

「誰から見せにいく~?」

「そだなー、何順にっすっかなー……」

「じゃんけんでいいんじゃないの?」

「やー、うーん、なんつーかほら、だいを最後にしてあげよっかなーって」

「え、なんでよ?」

「自分の番でテンション下げられてもね~」

「そ、そんなの決まってないでしょ……」

「やー、でもやっぱほら、巨乳は強いじゃん?」

「やめて」

「でもゼロやんの視線、ちょくちょく胸らへんにくるもんね~」

「え、そうなんですか?」

「ま、男ってそういう生き物だろー」


 そしてそれぞれが着替えを持ち、洋服屋さんの試着室のようなカーテンの仕切りが2つあったので、そちらでまずは私とぴょんさんが着替えを開始。

 着替えていても声は聞こえるので、順番のお話が出ましたけど、どうしてぴょんさんはだいさんを最後にしたがっているのでしょうか?

 でもたしかにだいさんはお綺麗ですし、お胸も大きいですし、女性的な魅力でいえば、かなり高いとは思いますけど……。

 自身の胸に触れつつ、比べるまでもないなと、少しがっかりしたのは秘密です。


「あ、じゃあ昇順は~?」

「むむ?」

「あー、あの成績付けで並べ替える時に使うあれかーって、んー? それはつまり、あたしが最初になる順番にしようってことかなー?」

「バレたか~」

「えーっと、何の順番でしょうか? って、えっ?」

「ゆめっ!?」

「なるほど~。見た目通りでよさそうだね~」

「え、あ、あの……?」


 私が着替えている間、バッゆめさんがカーテンの中を覗いてきすぐに戻っていかれたのですが、え、ええと、何だったのでしょうか……。


「ぴょん、ゆっきー、わたし、だいの順で~」

「すごいセクハラを見た気がするわ……」

「気にしな~い。ゆっきーも順番おっけ~?」

「え、あ、はい……」

 

 そしてよく分からないまま順番が決まりましたが、私が着替えを終えて試着室から出ると、既にぴょんさんが着替えを終え、ゆめさんが着替えを始めたみたいでした。

 

「ゆっきーすごい可愛いね」

「おー、めっちゃ似合ってんなー」

「そうですか? ありがとうございます」

「え~、早くみた~い」


 そして私はだいさんと交代。

 警察官の恰好のぴょんさんもすごい似合ってるように見えますけど、お二方に褒められて、私はちょっと安心です。

 

 そんな巫女姿に着替えた自分を鏡で確認すると、まるで自分ではないような自分が映っています。

 やはり普段することがない恰好というのは少し気持ちが上がりますね。

 初めてのオフ会、連絡先交換、久しぶりのカラオケ、そしてコスプレと、今日は一日中楽しいことでいっぱいです。

 そして何より、争奪戦というものにも参加させていただけましたし。


 恋愛というものを、ついに学べる日がやってきたことも嬉しいです。


 私の恰好、ゼロさんも、可愛いと思ってくれるでしょうか?

 

 そう思ってくれるといいな、なんて思ってしまうのは、私が争奪戦に参加すると決めたから、ですかね。


「よし、じゃ一人持ち時間1分で、それ以外は部屋の前待機ってことで」

「おっけ~」

「外で待つの恥ずかしいわね……」

「一人じゃないから平気だよ~」

「ゼロさん、喜んでくれるといいですね」

「ま、そこは大丈夫だろー」


 全員の着替えが完了し、私服から一転、非日常へと切り替わった私たちは、みんな揃ってゼロさんが一人待つ、カラオケルームへと戻るのでした。





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以下作者の声によるあとがきです。

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 舞台裏、という感じに。 

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