Side Story〈Airi〉episode Ⅻ
本話は、本編18話の話になります。
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「いやー、その顔がみたくてねー」
「すごいね、ぴょんの言う通りホントにゼロやん気づいてなかったんだ」
「だから言ったじゃーん。いやぁ早く来た甲斐があったわー」
サンデイズ前で立ち話するのもナンセンスだし、あたしたちは駅前にある遊園地近くのショッピングモールに移動し、ランチを食べるためにイタリアンのレストランに移動した。
案内はもちろんゆめ。
ゆめが行きたいところに行くのが一番だろうしな。
あたしはさっきまで思ってたことを微塵にも出さずに、正面に座るゼロやんに対したあたしは笑ってそう言った。
さすがに純な乙女じゃあるまいし、ある程度見てりゃ顔には慣れるしな!
そんなあたしの隣にいるゆめは、ゼロやんに対する呆れ顔。
でもちょっとだけ声が少し高いような、あー男の前だなーって感じはあるけどね。
「なんだー? 男だと思ってたぴょんくんが、思ったより美人でびっくりしたかい?」
「そ、そりゃびっくりするだろ!」
あ、美人とは思ってくれてんのか。
素直ないいやつだなー。ちょっと嬉しいかも。
「でも、ぴょんが言ってた通りゼロやんけっこうイケメンだね~」
「だろ?」
「LAの中のキャラが、そのまんま大人になった感じ~」
「あー、そう言われれば、たしかに」
「うまくつくったなー」
あたしとゆめにルックスを褒められたゼロやんは露骨に照れていた。
なるほど、そういう可愛い系の顔もできるのね。
素直というかなんというか、モテそうではあるな、やっぱり。
「でもぴょんも綺麗でびっくりした~」
「ゆめだって、ゲーム内じゃ美人系なのに、リアルじゃ可愛い系なんだなー」
「ぴょんはリアルだとちゃんと大きいね~」
「リアル小人なわけねーだろっ」
「……初対面、なんだよな?」
「「そうだよ?」」
ゼロやんの前でお互いの容姿を褒め合うとか、ちょっと茶番。
だから、声がかぶったせいであたしらはめっちゃ笑っちゃった。
「まぁ、元気そうでよかったよ」
「んー、寝たらすっきりしちゃった。昨日みんなと話して、ぴょんがオフ会しよって言ってくれて、むしろ楽しみになってたしねっ」
色々愚痴ってたくせに、って茶化すほどあたしも野暮じゃない。
今日の主役は、ゆめだからな。
「失恋きっかけのオフ会文化誕生って、また変な話だけどなっ」
「あんなくそ男もう忘れたーっ」
「いいぞいいぞっ」
注文した料理が届き、あたしたちはランチを開始する。
何気なく当たり前にサラダ取り分けたら、ゼロやんもゆめも意外そうな顔であたしを見てた。
こいつらあたしを何だと思ってんだ? 別に言わないけどさー。
でも、ゆめが好き嫌いしてたから、さすがにそれは言ってしまったね。
いやー、我ながらおかんみたいなことしちゃったよ。
「好き嫌いしてっと病気リスク高まんぞ?」
「ぴょんお母さんみたいだね~」
「やかましいっ」
「でも大きくなれないぞ? とかじゃないの、年齢を感じるな」
「もう二十代も半分以上終わってんだ。ゼロやん、現実を見たまえよ」
「確かに俺ももうアラサーだけど」
「えー、ゼロやん同い年くらいかと思った~」
それはねーだろ、と心の中でゆめにツッコむ。
いや、確かに若くは見えるけど。
「つか、女性に年齢聞いていいのか?」
「わたしは別にいいけど~?」
「その顔むかつくわ~。ま、あたしも生徒によく聞かれるしね、慣れてるよ」
「どうせ永遠の17歳とか言ってるんでしょ~?」
「おいおい、エスパーかよっ」
「言ってんのかよっ」
「ぴょんは生徒から好かれてそうだね~」
あたしの鉄板ネタを読み取られて少しびっくり。
でもゼロやんのツッコミでみんなが笑ったからよし。
うん、初対面だけど、いい滑り出しじゃないかなー。
まぁ初対面とも普通に話さなきゃいけないのが、あたしたちの仕事だから当然っちゃ当然なんだけど。
「ちなみにあたしは今年で25だよ~」
「うわ、わかっ」
「ってことは、3年目?」
「んー、音大時代一年ウィーンに留学したから、今2年目~」
「音大! ウィーン留学!」
「ゆめは音楽の先生なんだ」
「そだよ~」
「まぁ、お嬢様感あるもんなー」
「いや、それは偏見だろ」
「あたしは永遠の17歳、じゃなくて今年で28になる27歳だよ。まー、留学ってほどじゃないけど、あたしも学生時代休学してアフリカ行ったりして卒業まで6年かかったから、教師なってまだ4年だけどね」
「アフリカ! ぴょんはアクティブだね~」
あたしの経歴に、二人ともけっこう驚いてた。
でも、ゆめと違ってあたしは目的のないただの旅。
自分探しの旅とかそんなこと言うつもりはないけど、ただ世界を見てみたかったから行っただけ。
アフリカを色々回って、あたしは本当に日本は温水だってことを知った。
ま、アフリカ全部サバンナみたいなだと思ってたから、思ったより栄えてるなとも思ったけどね!
「今年28ったら、俺とタメじゃん」
あ、そうなの? じゃああれか。こいつも仲間たちがどんどん結婚し出してってんだろうなー。
結婚とか、考えたりしてんのかな。
こんなことさすがに恥ずかしくて聞けないけど……。
「え、ゼロやんゆめよりは上だろうけど、あたしより下だと思ったのにっ」
「そこまで範囲狭めたらほぼ誤差だろ……」
「わたしの3つ上か~」
「俺は新卒ですぐ先生なったから、今6年目だよ」
「おお、ベテランじゃーん」
「大先輩だね~」
「そこまで変わんねぇだろ」
「ぴょんは……体育の先生?」
「残念! よく言われるけど、あたしは中学の国語科だよ」
ちなみにゆめはあえてこのくだりをぶっこんで来た。
あたしとゆめはLA内でかなり話してたから、お互いの教科とか、職場とかは知ってるんだよね。
「ゼロやんは?」
「俺は都立高校の公民科だよ。倫理専門」
「うわ、公民科一発合格とか、エリートじゃん」
「倫理って、ソクラテスとかニーチェとか、あの難しいやつ~?」
「エリートじゃないけど、まぁそういうの教えてる」
そんな感じで、あたしたちは自己紹介と仕事の話をメインに会話を続けた。
ゆめ自身がゼロやんと会う前のあたしとの会話で吹っ切れたのか、元カレの話はしなかった。
なんていうか、ゼロやんを男として意識してるって空気は、ちょっと感じた。
切り替え早いなー、ほんと。
尊敬するよお姉さんは。
ん? お姉さんだからな? おばさんじゃないからな?
今27をおばさんって思ったやつ、自分がその年齢になった時思い知れ。
そしてランチを食ってカラオケに移動。
カラオケの間はゆめがゼロやんの隣に座ってボディタッチしたりする光景に、女子力の違いを感じながら、あたしたちは時間を過ごした。
しかしほんとに、ゆめの歌は上手かった。
そしてまもなく16時。
あたしにとってもう一つのメインタイムがやってくる。
さぁだいはどんな子かなー。
ゲーム内のイメージだと、けっこう暗そうというか、人見知りなイメージで、パッとしないんじゃないかなって気がしなくもない。
それでも教師やってんだったら、多少は違うかもしんないけど。
でも、自分の気持ちとしてだいを応援したい気持ちと、変な言い方だけど自分で勝てる女の子であってほしいって気持ちが、無意識に戦い出してたのは、自覚してる。
でも、そんな気持ちは欠片にも出さない。
そんなの顔に出すなんて、あたしらしくないし。
あたしよりも一歩近くゼロやんにくっつくゆめを見てれば、既にあたしはその分負けてるのが分かるから。
可愛いは女の強さだし、あたしはそれは否定しない。
だからって、自分にないものだって悲観することはしたくない。
あたしはあたし。
恋愛脳に染まり切った奴らとは、違うのだ。
あたしは、みんなで楽しくできればそれでいい。
そんなことを思いながら――
だいが男だと思い込んで期待しているゼロやんの間抜け面にあたしとゆめはお互い苦笑いを浮かべながら、あたしたちはだいを迎えに駅前に戻ったのである。
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