Side Story〈Yuuki〉episodeⅤ
「お姉ちゃんごめんっ」
「どうしたのゆずちゃん?」
紗彩ちゃんに色々と教えてもらった土日も終わり、また始まった1週間。
月曜日の講義を終えて私が帰宅すると、先に家に帰っていたゆずちゃんがいきなり私に謝ってきました。
「今日学校で友達にLA始めたよって言ったらね、友達、やりすぎって親に怒られちゃって、やめさせられちゃったんだって」
「え」
「しかもね、サーバーっていうのもゆずたちと違ったみたいで、あのままじゃ一緒に遊べなかったみたい」
「そう、なんだ」
たしかにゆずちゃんの友達のサーバーについては、確認してませんでしたね……。
でも、なんで「ごめん」なんだろう?
「でね、代わりにオンラインゲームじゃないゲームやろうって言われてね」
「あら」
「ちょっといったん、LAは休むね!」
「あ、うん……」
まだ初めて3日目なんだけど……。
元気よくそう宣言された私は、何も言えず。
でも、ここで私が辞めたら、せっかく教えてくれた紗彩ちゃんに申し訳ないし……。
とりあえず、私だけでも、続けてみようかな……。
☆
翌日、この話を紗彩ちゃんにしたら、紗彩ちゃんは思い切り笑ってました。
中学生の気持ちなんて変わりやすいからねって、そう言ってくれましたが、私としては一度始めたものをそんなすぐにやめるのがどうにも気が引けて。
ということで、大学が終わって、家に帰り家事を済ませると、私はコツコツLAへログインして〈Yukimura〉を鍛える日々が始まりました。
ゆずちゃんもすぐやめてしまった負い目があるのか、私がLAをやっていても特に何か言ってくることもなく。
インターネットで調べると、色々と親切に何をすればいいのかなどの情報も書いてあったので、それを参考に私は一人で出来ることをやってみたり、刀スキルというものを上げてみたり。
時折一人で何かしている私を見かねて手伝ってくれる方とお話をするなどして、私はなんとなくMMOというものを理解し、LAでの生活を楽しむ日々を送るのでした。
☆
そんな日々が半年ほど続き、私は無事二十歳を迎え、大学も3年生へと進級しました。
でも残念ながら二十歳になっても恋愛というものについてはよくわからないまま。
しばらくお休みするね、と言っていたゆずちゃんがLAを始める様子もなく。
そんないつも通りの日々の中、大学を終えて家事を終えログインした、5月頃の夜でした。
「……【Teachers】?」
LAを初めて半年、おそらく人並みにはゲームのことを理解した自負はありましたが、私はまだギルドというものに所属していませんでした。
そんな中、ふらっと覗いた中央都市の掲示板に乗っていた、ギルドメンバー募集掲示板。
「募集条件、職業教師……?」
そんな内容を見たのは初めてでした。
今までも何度かやはり何かしらに所属したほうがいいものかと覗いてきましたが、どの武器を鍛えているかや、スキルレベルがいくつ以上とか、プレイ時間が何時とか、そういう募集条件は見てきましたが……現実での職業を条件にするって、どういうことなのでしょうか?
……でも、このギルドには現役の先生たちがいる、ってことですよね……。
対面するわけではないので、いくらでも詐称できると思いますけど、少なくともリーダーをやってる人は、本当に先生なんでしょうし。
となると、もしかしたら何か勉強になることがあるかも?
私も、いずれはその仲間入りをする予定ですし……。
応募してみようかな……。
その出会いは、本当に偶然だったんだと思います。
掲示板の掲載は基本的に24時間で消えてしまうので、常時掲載するにはギルドリーダーの人が毎日掲載する必要があるはずなので。
今まで見たことがなかったということは、マメに掲載するリーダーというわけではないですよね。
となれば、これは千載一遇のチャンス?
気づけば私はギルドリーダーの〈Gen〉という方に、メッセージを作成していました。
〈Yukimura〉>〈Gen〉『はじめまして。ギルドの募集を見たのですが』
ああ、送ってしまった……!
送ってから、私はこれから嘘をつくんだということに、少しだけ罪悪感が湧いてきました。
でも、遅かれ早かれですし……。
そう自分に言い聞かせながら、返事を待ったのは、5分くらいだったでしょうか。
〈Gen〉>〈Yukimura〉『はじめまして!加入希望ですか!?』
なんとなく、元気のいい人だなというメッセージが返ってきました。
返事があったことに、まずは一安心。
〈Yukimura〉>〈Gen〉『はい。ギルドには今まで入ったこともないのですが、よろしいですか?』
〈Gen〉>〈Yukimura〉『もちろん!あ、ちなみに校種は?』
校種、なるほど。もしこの言葉がわからなければ、嘘ってわかりますもんね。
でも教職課程を取っている私はその意味を理解できます。
ここは自分の希望を伝えてみましょう。
〈Yukimura〉>〈Gen〉『高校の国語科です』
〈Gen〉>〈Yukimura〉『お、高校ですか!では、招待送ります!』
あ、こんな程度でいいんだ。
スキルも何も話してないけど、OKなんですね。
少し待つと、ギルドへの招待が送られてきた旨を知らせるログが現れ。
加入すると入力するや、私のステータス画面に所属ギルド名が増えました。
所属ギルド【Teachers】が、私のステータスに加わった瞬間です。
とりあえず、まずは挨拶ですよね。
〈Yukimura〉『はじめまして。ゆきむらです』
あ、ギルドチャットの文字は緑色なんですね。初めて見ました。
〈Gen〉『新メンバー加入!』
〈Jack〉『おーーーーw』
〈Jack〉『俺はジャックだよーーーーwサポーターメインでやってまーーーーす!』
〈Zero〉『はじめまして!俺はガンナーのゼロ。いやー、新メンバー久々すぎw』
〈Kamome〉『かもめでーす。ロバーとウィザードやってまーす』
〈Daikon〉『だいこんです。同じくロバーとウィザードやってます』
〈Gen〉『改めまして、俺はゲン!みんなはリダって呼ぶけど、メインはパラディン!』
〈Jack〉『今はいないけど、あとはSoulkingっていうヒーラーがいるよーーーーw』
〈Yukimura〉『よろしくお願いします』
今いないという方を入れて、私も含めて7人、ということでしょうか?
そこまで多くないのは、本当に条件を満たしてる人の数を示しているように感じ、少しだけ緊張します。
〈Zero〉『ゆきむらさん武器は?』
あ、そうか、皆さん自分の鍛えているであろう役割を言ってますし、答えなきゃいけませんよね。
私は刀です、そう答えようとして、ふとあることに思い至りました。
……私のキャラクター男なんですよね。
となると「私」というと、変ですかね……?
もう少し、色んな人と関わっていればそれもありふれたことだと気づけたのかもしれませんが、その時の私は、そんなことが気になってしまい。
〈Yukimura〉『俺は刀を鍛えてます。まだ初めて半年ほどなので、まだまだですけど・・・』
〈Jack〉『おーーーーw刀は今までいなかったからありがたいねーーーーw』
〈Zero〉『せんかん以来のサブ盾か!いいね!』
自分のことを俺なんて言ったのは初めてで、ちょっとドキドキですけど、そもそも職業も嘘をついたんですし、もう今さらですよね。
〈Yukimura〉『お役に立てるよう頑張ります』
〈Zero〉『かた!wだい2号かよww』
〈Gen〉『うちは火土活動だけのゆるいギルドだから、気楽にな!w』
気楽に、気楽に、ですか……。
文字だけなら、敬語じゃなくても話せる、かな……。
今思えば、悪ノリ、というやつだったのでしょうか。
どうどうと嘘をついていることもあり、私はそこで少し調子に乗ってみました。
〈Yukimura〉『よろしく』
〈Jack〉『よろしくねーーーーw』
〈Kamome〉『よろしく!w』
たった4文字を打つのに、少しドキドキしましたけど。
こうして私は、長く所属していくことになる【Teachers】の一員となったのでした。
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以下
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ギルド加入……!
更新遅くも、中身はテンポあげていってみます……!
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