Side Story 〈Airi〉 episode Ⅵ
本話は、本編2話直前の話になります。
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あたしの加入から11か月目。
6月9日の火曜日。
その日はすげーむかつくことがあった。
せっかくの火曜日だったのに、くそ男女と
てめーの浮気で別れたのに、馴れ馴れしく話しかけてきたあの神経、どうかしてるとしか言いようがなかったね!
「あ! 愛理じゃん! うっわ、久々。元気だったか?」
「……あ?」
その日はいつもより少し早く仕事が終わったから、駅前で買い物でもしてから帰ろうと、駅前に行った。
あたしの勤務地は東京都町田市。でも住んでるのも町田市だから、通勤は基本的にチャリ。
なので駅前とかあんまし行かないんで、久々に平日に駅前に行けて少しだけ、るんるん気分だった。
だったのに!
あたしがるんるん気分で駅ビルに入ってるテナントたちで夏服を眺めていたハッピータイムを、あの男は妨害してきやがった。
声を聞いただけで分かったあたしもあたしだけど、ああ、マジで今思い出してもイライラするわー。
「愛理久々だねっ」
くそ男の隣にいた女は、知った顔だった。
「おー、さやかじゃーん。元気―?」
くそ男の声を聞いた瞬間は反射的に不機嫌な声を出してしまったが、隣にいた女には、いつも通りの声が出せた。
「うん~、奇遇だねっ。こんなとこで会えるなんてっ」
「だねー」
1オクターブ高い声で話しかけてくるさやか。色白で、ダークブラウンのロングヘアーで、化粧もばっちりで、胸もある。あ、ネイルも可愛いかったな。
でも、なんでこいつら二人でいるんだって、最初は疑問だった。
「
「あ、そーなんだ」
いや、それでお前が来る意味よくわかんねーけど。
なんだ、できてんのか?
ちなみに龍太は、
あたしも龍太もさやかも、大学時代の
あたしと違ってさやかはザ・女の子って感じで、サークル内ではちょっとしたアイドルだった。
あたしからすれば仲が悪かったとは言わないけど、ちょっと苦手な相手でもあった。
「ねぇ、よかったらこれから一緒に飲みに行かないっ?」
「へ?」
「ねっ、龍太もいいでしょ?」
「お、おう」
こいつ、話しかけてきたくせに若干引いてんじゃねーよ。てめーで蒔いた種だろうが?
「そうだな! 久々に会えたんだし、行こうぜ!」
こいつマジで、どんな神経してやがる?
「二人は、付き合ってんの?」
「そうだよ~。12月にあった同窓会で、龍太から告られたの」
「おー、そうなんだ」
「そう言えば愛理、あの時はいなかったよね~」
「ああ、職場の忘年会とかぶってねー」
嘘だけどな。そのくそ男のせいで、行く気にもならなかったし。
でも、12月か。
あの日うちにいた
「ねっ、行こっ?」
小首を傾げた笑顔で、頼んでくるさやか。
女のあたしでも可愛いと思う笑顔に押し切られて、結局あたしは飲みに行くことになった。
でも。
あー、マジで行かなきゃよかったわ。
「愛理は変わらないねー」
「そうか?」
あたしたちが入った駅近の居酒屋で、さやかと龍太が並び、向かい合う形であたしが座った。
メニューを見ながら話しかけてくるさやかは、なんというかすごく笑顔。あたしが苦手な、腹の底が見えない女の子の笑顔をしていた。
ちなみにあたしは大学卒業まで6年かかったから、二人はあたしより2年先に卒業して一足先に社会人になってる。
だからあたしはまだ社会人2年目だけど、こいつらは社会人4年目だ。
「うん、まだテニスやってるの?」
「部活顧問としてねー。昔みたいにがっつりはやってないけど」
「あ、そっかっ。愛理先生だもんね~。すごいな~」
「別に、大したもんじゃないよ」
出た出た、心無い「すごい」。
思ってもない言葉を思ってるように言える女って、ほんと苦手。
「あ、飲み物きた~。じゃあ乾杯しよっ」
「おー」
「かんぱーいっ」
あたしたちは3人でグラスを合わせる。
しかしこのくそ男、全然しゃべんねーな。
ちなみにあたしと龍太がビール。さやかが
乾杯からそんな甘いのとか、あたしには無理。
というか乾杯じゃなくても飲まない。
ほんと、同じ女性とは思えないな。
「愛理はさー、顔はいいんだから、もっと女の子っぽくすればいいのに~」
「へ?」
「お、おい!?」
飲み始めて1時間半くらい。もうすぐ20時半になるから、いい加減帰らないとログイン間に合わねーなーって思ってた頃だった。
普段の仕事の話とか、差しさわりない話を続けていたあたしたちだったが、酔いが回ってきたのか、さやかがいきなりぶっこんで来た。
それは、あたしが最もしたくない話題。
女の子らしさとか、女子力とか、そんな言葉微塵切りにしてしまいたい。
「日焼けして、髪短くしてじゃ、モテないよ~?」
はいでましたー。
それ、お前の常識だから。
あたしをお前の常識でくくんな。
「あはは、そーだよなー」
「おい、さやか失礼だろ?」
愛想笑いを浮かべるあたしを見てか、くそ男はさやかを止めようとしてた。
あたしの評価を0.01ポイント上昇させてあげよう。まぁそれでもあたしの評価はマイナス2億だけど。
「えー、だって龍太だって女の子らしい子が好きって言ってたじゃん?」
「お、おい!」
「……ふーん」
「ち、違うって!」
「え~、何が違うの~?」
ふにゃふにゃになったさやかが、くそ男にくっつき始める。
おーおー、見せつけてくれるじゃーん。
そんなことしなくたって、あたしはそいつにゃくそほども興味ねーよ。
いつぞやに『そんな愛理が好きなんだ』って言ってた嘘つきは、もう笑えるくらいテンパってる。
結局てめーは顔だけだ。
お前が彼女をコントロールできねーから、こんな目に合うんだよ、ばーか。
「だから浮気されちゃうんだよ~?」
「……は?」
ふにゃふにゃになってる癖に、その言葉を発した時の目は、完全にあたしを見下すような、そんな目だった。
その目と言葉に、すっとあたし体温が下がった気がする。
あーね。そういうことね。
「おい、さやか!」
「愛理は昔から男の子たちとすぐ仲良くなってたけど、友達感覚のままじゃ幸せにはなれないよ~」
顔は笑ってるくせに、言葉は釘バットみたいに暴力的。
「女なんだから、女を伸ばさないと」
「さやかちょっと黙れって!」
満面の笑顔のさやかは猛攻状態。
必死にくそ男が止めようとするけど、止まらない。
「浮気されないために努力しないのも、悪いんじゃないかな~?」
こいつは全部分かった上であたしを誘い、マウントを取りに来たんだろう。
あたしがくそ男の元カノって知った上で、絶対に近づけないための計略。
捨てたのあたしなんだけど。
でも、分かってたはずなのに、その言葉はグサッとあたしの心に刺さった。
こんなくそ女の言葉を喰らうとか、不覚すぎたな。
「ありがと。勉強になったよ」
そう言ってあたしは立ち上がり鞄から財布を取り出す。
もちろん表情は笑顔。
「お、おい愛理!?」
「明日も朝練あるし、帰るわ」
あたしのこんな姿を見ても、焦るのはくそ男だけ。
くそ女は、笑ってた。
「じゃあね」
テーブルの上に
ちょっと多い気はするけど、これ以上あいつらと会話するのは嫌だった。
言われた言葉にむかつくし、あのくそ女の笑顔もむかつくし、言い返せないあたしにもむかつくし、こんな時だけ間に入ろうとするくそ男にもむかつくし、逃げるように帰るあたしにもむかつく。
ああもう、マジむかつく!
駐輪場についた時点で21時になってた。
あー、もう間に合わないじゃん。
こんな日はみんなに会いたかったけど、仕方ない。
自転車を押しながら、あたしは一人帰路につく。
梅雨時期だというのに、むかつくほどに晴れた夜空もむかつく。
こんな気分なんだし、どうせだったら雨でも降れってんだ。
ほんとこの日は、最悪な日だったな。
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いまさらながら〈Airi〉のプロフィール
名前:
性別:女
身長:157cm
年齢:27(8月23日生)
職業:東京都町田市の中学教師
居住地:東京都町田市
出身地:愛知県
髪型:黒髪ベリーショート
見た目:さばさば系美人
特徴:小麦色の焼けた肌 胸の絶壁 下ネタ好き
LAキャラクター名:Pyonkichi(プレイ歴3年)
種族:茶髪小人族男
武器スキル:樫の杖243、格闘182
所属ギルド:【Teachers】加入歴約2年
呼ばれ方:ぴょん
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