Side Story〈Airi〉episode XVI

本話は、本編21話の話になります。

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 あたしが少しだけ考え事してる間にまた会話が消える。

 ほんともう、なぁ?


「ゆめはまだ若いからいいけど、何だかんだもう結婚してる友達も多いんだよなー」


 あたしの愚痴とも取れるような軽口に、ゼロやんが苦笑い。


「あー、それは分かるわ。ご祝儀で出てくばっかだよな」

「そーそー。ゆめはまぁいいとして、だいは欲しくないとか言ってるうちに行き遅れちゃうかもよー?」

「よ、余計なお世話よ!」

「いやいや、年上の話には耳を傾けておくべきだってー」

「いい恋した~い」

「れ、恋愛とかよく分からないし……!」

「え、まさか今までずっといないの?」

「いないわよ!」


 その顔で恋人いなかったとか、ほんと中身に問題ありとしか思えないんだけど……。

 もしゼロやんに片想いしてたのが、フレンドなったっていう7年前だとしても、その頃お前は19歳とかだろー?

 さすがに中高と、何してんだよとは思うな。


 あたし?

 あたしの初カレは中3。3日で別れたけど。

 

「だいはツンツンしすぎなんだよ~」


 ちょっと信じられねーな、って気持ちで横に座るだいを見てたら、正面でゆめが動き出した。


「こんな風にさ~、甘えちゃえばいいんだよ~」

「!!!」


 わお。

 やっぱこういうこと出来る子だよねー。


 甘えちゃえばいい、そう言ったゆめはゼロやんの右腕に抱きついた。

 そういう子だって分かってたから、やっぱゆめのこと苦手だなとは思わないけど、なんていうか、尊敬するわ。


 しかしだい固まっちゃったけど、ゆめはどういう意図でやったのかなー。


「おー! やるなぁゆめ!」

「意外と筋肉あるんだね~」


 そしてゼロやんは完全に照れてる。

 おいおい童貞かよ、顔真っ赤じゃん。

 さっきまで元カノと半同棲してたとか、そんな話してた奴とは思えねーぞー?


「おいおいゼロやんガチ照れじゃーん」

「ほら~、ドキドキするでしょ~?」

「か、からかうなよ!」

「え~、わたしゼロやん、なしじゃないよ?」

「おー、失恋したての女子に優しくするとか定番パターンか!」

「ゼロやんはわたしのことなし~?」

「だから年上をからかうなって……! とりあえず離れろっ」

「えー、ダメ~?」

「ゆめ、酔いすぎ!」


 あたしはだいのことを気にしながらも、場の空気も考えて色々冷やかしてみた。

 けど正気に戻っただいの注意でゆめが離れる。

 

 隣に座るだいは完全に嫉妬の目。

 ほんとは自分もやりたいんだろうけど、出来ないんだろうなぁ。

 気持ちは分かるよ。


「いやー、可愛い顔してやるねー、お姉さん見習いたいわー」

「ぴょんだって綺麗な顔してるじゃ~ん」


 ふわふわした笑顔のゆめは、ほんと甘え上手のザ・年下女子という感じで可愛い。

 そんな顔してあたしを褒めるのはやめてくれ。


「あたしは甘えるの苦手なんだよなー」

「え~、別にくっつくだけでもいいんだよ~」

「それはゆめだから出来るんじゃないかしら……」

「じゃあ、ゼロやんで練習してみなよ~」


 ……あ?

 なるほど、こいつ面白い提案するなぁ。


 揺さぶり、かけてみよっかな。


「おい! 勝手に人を使うな!」

「よっしゃ! やってみる!」

「ええ!?」


 これはあたしのためじゃないぞ?

 だいの気持ちをはっきりさせるために、危機感を持たせるためにやるんだぞ?


 普段だったらやらねーからなー?


「どうだー、うれしいかー?」


 そう言ってあたしはゼロやんの隣に移動し、左腕にくっついてみせる。

 

 うわ、しかし、勢いでやっちゃったけど、これ恥ずかしいわ。

 早く誰か止めて欲しい……。


 でも、ほんとゆめが言った通り、思ったよりたくましいんだな……。


「あー、酔っ払いに悪ノリされてる気分だわ」

「おい!」


 殺すぞ?


「え~、じゃあわたしは~?」

「ちょ、ちょっと!」


 再びゆめが反対側にくっついてきたみたい。

 ゆめがくっついて、ゼロやんの鼓動が速くなったのが、なんとなくわかった。


 ……なんかむかつく。


「酔いすぎよあなたたち……!」

 

 正面の席で一人だけになってるだいは、焼きもち全開に顔を赤くしてた。

 代わる? って言いたいけど、さすがにやめとくか。

 

「ゆめの方が、女の子感あるなー」

「あ?」

「ぴょんこわ~い」

「誰がまな板だって?」

「だ、誰もそんなこと言ってねぇだろ!」

「最低」

「ご、ごめんなさい」


 そりゃあたしだってゆめには勝てないの分かってるよ。

 これは、だいへの煽りでやってるだけだし?


「まーでも、あたしもゼロやんはなしじゃないな!」

「はぁ?」

「でもあれかー、元カノがあれだもんなー。あたしよりゆめのがタイプかー?」

「え~、セシルちゃんと比べられんのはつらいな~」

「じゃー、あたしもコスプレしてやろっか?」

「何の話だ!」

「あ、ゼロやんちょっとドキドキしてる~」

「コスプレ好きかー」

「変態」

「違うよ!?」


 焦るゼロやんのツッコミにあたしとゆめはは笑う。


 でも、ゼロやんなしじゃないって、気づいたら口にしてた言葉はあたしの本音、ではないと思う。

 だいとゆめがいなかったら、って条件がつけば、嘘ではないかもしれないけど。


 ゼロやんの空気感は、悪くないし。

 でも、そこにいるべきはあたしじゃないって思う方が強い。


 やっぱずっとギルドで見てきた二人だからこそ、あんなに可愛い顔みせるだいだからこそ、そこにいてほしいって思う。


 会ったばっかのみんなだけど、あたしはみんなとの友情を優先したい。

 あたしが馬鹿して笑ってくれるんだったら、それでいいんだ。


 損な役回りとか言うなよ?

 好きでやってんだから。


 みんなが笑ってくれるから、私も笑えるんだから。

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