Side Story〈Yuuki〉episodeⅦ

〈Zero〉『じゃ、いきますか』

〈Jack〉『戦闘の時はゆっきー全力でタゲ取ってねーーーーwサポートするからーーーー』

〈Yukimura〉『了解』


 パーティを組んだ〈Zero〉さんは全体的に黒い衣装を着ていて、背中に海外ドラマでスナイパーと呼ばれるような方たちが持っているような、狙撃銃を付けています。

 私の〈Yukimura〉と違って、けっこう童顔というか、黒髪の少年のようなキャラが持つにはちょっと似合わないような気もする、そんな武器です。

 そしてジャックさんは話し方と見た目が一致しない、錫杖を背負いローブをまとった金髪のクールなエルフキャラ。

 キャラクターの身長で言えば、ジャックさん>私>ゼロさん、ですね。

 そんなパーティの中で、私の役割は盾役。ガンナーのゼロさんもサポーターのジャックさんも防御力は低い方ですから、頑張らないと。


〈Jack〉『じゃ、まずは海岸へーーーーw』


 ジャックさんの転移魔法が唱えられ、私たちは多くのプレイヤーがわちゃわちゃしていた掲示板の前から、エリアの遠くに海が見えるリ・ジェイ海岸というエリアへ。

 全体的には岩肌が目立つようなエリアですが、海の方に行けば部分的に砂浜もありますし、なんとなく、夏を感じるエリア、ですかね。

 まだ5月ですので、海には早い時期ですけど……あ、これはゲーム内では関係ないか。


 ただあいにくゲーム内では曇天で、今にも雨が降ってきそうな、そんな天気でした。


〈Zero〉『はぐれんなよー』


 そしてゼロさんがそう言って、先頭を切って走り始めます。

 このエリア自体の敵は強いわけではないので、アクティブなモンスターに襲われても心配もないエリアですね。


〈Jack〉『ゼロやんは道とかけっこう正確に覚えてるから頼もしいねーーーーw』

〈Zero〉『1回やればなんとなく覚えるだろ』

〈Yukimura〉『え・・・』

〈Jack〉『そうじゃない人もいるみたいだよーーーーw』

〈Jack〉『ゆっきーは、リアルでも道覚えるの苦手な人ーーーー?』

〈Yukimura〉『割と・・・』


 地図というものは、どうしてあんなにも分かりづらいのでしょうか……。

 地図を見ながら移動するというのは、どうにも苦手です。


〈Jack〉『さすがゼロやんは社会科だねーーーーw』

〈Zero〉『いや、LAでそれは関係ねぇw』

〈Zero〉『まぁリアルでも、1回歩いた道はけっこう覚えてる方だけど』

〈Yukimura〉『すごい』

〈Jack〉『リアルもLAみたいに、マップのどのへんにいるか俯瞰で分かればいいのにねーーーーw』 

〈Zero〉『いや、今は道案内アプリとかで迷うこともねぇだろ・・・』

〈Yukimura〉『え』

〈Jack〉『そうじゃない人もいるみたいだよーーーーw』


 ゼロさんは道を覚えるのが得意、ですか……。羨ましい。


 と、そんな話をしている内に、砂浜ではなく、エリアの南東端にある岬に到着。

 その先端部分に、イベント発生ポイントであることを示す青い光が見えました。


〈Jack〉『あれ調べたら、イベント起きるから触ってきてーーーーw』

〈Yukimura〉『了解』

〈Zero〉『イベント終わってもっかい調べると戦闘なるから、イベント終わったら教えてな』


 と言われましたので、私は指示通りに青い光を調べると、ムービーシーンへと画面が切り替わります。


 すると見たことない、背中に翼の生えた傷だらけのNPCが現れました。

 そして彼が空中庭園に住む住人であること、空中庭園に魔王のペットであった空を統べる者たちが出現し、このままだと空中庭園が廃墟と化してしまうこと、だから助けてほしいと、そんなことを教えてくれました。


 ……いつも思いますけど、このNPCはプレイヤーの数だけ同じ話を何回もするわけですよね。……ご苦労様です。


 そしてこの羽根を掲げれば空中庭園へと導かれる、と純白の羽根を渡してもらおうとしたところで、急に猛禽類のような鳥が出現し、その羽根を奪ってしまいます。

 そしてNPCから「取り返してくれ!」と頼まれたところで、イベントが終了。

 なるほど、だからもう1回調べたら戦闘、ということなんですね。

 見た目でワシとタカの区別っていまいち分からないんですけど、今のは……Darknessダークネス Eagleイーグルと書いているので、ワシってことですかね……。


 そして今までソロでほとんどのストーリーを進めてきた癖で、私は思わず報告することも忘れてもう1度青い光を調べてしまい。


〈Jack〉『おっとーーーーw』

〈Zero〉『マジか!』

〈Yukimura〉『あ』


 私が報告しなかったので、お二方からするといきなりのモンスターPOP。

 ということで戦闘序盤、いきなりバタつく羽目に。


〈Yukimura〉『すみません、癖で・・・』

〈Jack〉『なんとかなるっしょーーーーw』

〈Zero〉『ゆきむらヘイト上げ』

〈Zero〉『ジャックは弱体一式とゆきむらの強化』

〈Jack〉『はいはーーーーいw』

〈Yukimura〉『了解』


 慌てた私たち、と思ったのですが、突然の出現にそのまま壊滅、なんてことはなく、ワシの攻撃はPOPさせた私に集中していましたので、その隙にゼロさんはガンナーの定位置である後方に移動したようです。

 私も〈Yukimura〉に抜刀させ、敵の攻撃を捌こうとしますが……うーん、急上昇急降下という形で攻撃をしかけてくる敵の攻撃モーションが初めてで、なかなか捌くのが難しい、ですね……。


〈Zero〉『上昇から攻撃までの間隔は同じだから、上がった段階で攻撃に備えろ』


 ……なるほど。


〈Yukimura〉『了解』


 そして少し手間取っていた私ですが、ゼロさんの指示に従い2,3発攻撃を受けたあとは、見事に敵の攻撃を捌くことに成功し始めました。

 でもなんか、ダメージも減ったし、攻撃頻度も減ったような?


〈Jack〉『スタンバイおっけーーーーw』

〈Zero〉『ゆきむらそのままキープな!』


 あ、そうか。一人じゃないから、ジャックさんが阻害魔法をしてくれたんですね。


 そしてジャックさんの報告後、時折雷撃のようなエフェクトがワシを捉え、その度に私が向き合うワシのHPが少しずつ減っていきます。

 これはきっとゼロさんによる銃撃のおかげでしょう。

 私の攻撃ではあんまり減らないけれど、ゼロさんの銃撃は確実にHPを減らしていきますので、これが私とゼロさんのスキルの差、ということなんでしょうね。


 一人だとちょっと勝てるかわかりませんでしたけど、これならいける、かな?


〈Jack〉『ゆっきー耐えれるかなーーーー』

〈Zero〉『アタックしなくていいから、ダメージカット用の装備とかあればつけといて』

〈Yukimura〉『む』


 ここまでの的確な指示をくれるお二人なので、私はその言葉を信じ、攻撃の合間に装備するアクセサリー類を防御性能が高いものに切り替えます。

 そして残り3割くらいの時だったでしょうか、急上昇ではない動きで少し高い位置に上昇したワシが、何か溜めるような動きをしたあと、一気に翼を広げました。

 それと同時に画面いっぱいに嵐のようなエフェクトが現れ、私のHPが残り1割を切るくらいまで減っているではありませんか。

 ものすごい大ダメージ技ですね……。


 今までだったらこのままずるずる負けてしまった、そう思いましたが。


〈Jack〉『せーふせーふーーーーw』

〈Zero〉『よく耐えた!w』


 ジャックさんの回復魔法が私に届き、危機を脱することができました。

 どうやら後方にいた二人は今の攻撃の範囲外だったようで、ノーダメージみたいですね。

 

〈Zero〉『押す』

〈Jack〉『ごーごーーーーw』


 そしてまた私が攻撃を捌いていると、先ほどよりも明らかにダメージ量が増えた攻撃が、先ほどよりも早いテンポでワシのHPを減らしていき、大ダメージから30秒後ほどに、私たちはワシを撃破しました。


〈Zero〉『ゆきむらカット装備ナイス!w』

〈Jack〉『装備がんばってるねーーーーw』

〈Zero〉『初めてやったとき、だいは死んでたなw』

〈Jack〉『あの時はギミック何も分からなかったからねーーーーw』


 そして勝った直後のイベントムービーが始まった私をよそに、二人は自分たちが初めて戦った時の思い出を語っているようでした。

 たしかに先ほどの攻撃は、何も分かってなかったら危なかった、ですね……。


〈Jack〉『イベント終わったら空中庭園に行けるよーーーーw』

〈Zero〉『俺ら先に転移先行ってるな!』


 そして私も「よく倒せたな」と語るNPCから再び羽根を渡され、それを〈Yukimura〉が掲げると、ふわーっと羽根とともにゆきむらも浮かびだし、空の方へと吸い込まれ、画面が読み込み中へ。


 そして再び表示された画面は、初めて見るエリアへと切り替わりました。

 雲のような足場の上に立っているようですけど、どういう原理なのでしょうか……。


〈Zero〉『じゃ、都市はこっちな』

〈Jack〉『とりあえず空中都市のプレイヤーハウス入って、転移の記録つけるといいよーーーーw』

〈Yukimura〉『了解』


 そして私のキャラが東西南北様々なな方角を見渡したことにイベントの終了を察したお二人が、私に進むべき道を示します。

 でもあれなんですね、さっきまで曇ってた天気でしたけど、空の上だからか、綺麗な青空に変わるんですね。このエリアはいつも晴れなんでしょうか?


〈Zero〉『とりあえず最初は定番に、都市の中のイベント連発だから、しばらく戦闘はないかな』

〈Jack〉『ストーリーもまだ実装途中だしねーーーーw』

〈Jack〉『もう1個戦闘あるとこあるけど、それ以降は今後の実装だから、そこまで進めたら次からはみんなと一緒にやろうねーーーーw』

〈Yukimura〉『その戦闘は一人でできる?』

〈Zero〉『無理www』

〈Jack〉『さっきのより強いよーーーーw』

〈Yukimura〉『むむ・・・』


 となると、なかなか追いつくのも簡単ではないですね……。


〈Zero〉『戦闘必要なとこまで進めたら、みんなで戦いにいくよw』

〈Jack〉『みんな喜んで手伝ってくれるさーーーーw』

〈Yukimura〉『え』

〈Zero〉『なんのためのギルドだってw』

〈Jack〉『俺らもう仲間じゃーーーーんw』

〈Yukimura〉『あ』


 そうか。

 この人たちは、ギルドの仲間だから手伝ってくれたんですよね……。

 そうか、ギルドってそういうものなんですね……。


〈Yukimura〉『ありがとう』

〈Zero〉『いえいえw』

〈Jack〉『色々綺麗なとこ多いから、記録つけたら見に行っておいでーーーーw』

〈Yukimura〉『わかった』


 このお礼は、すっと自然に言えました。

 そしてなんというか、自然と敬語にならなかったのです。


 仲間、仲間……いい響きですね。


 職業を詐称して加入させてもらったギルドで、常に嘘をついているということに心苦しさがないわけではありませんが、私ももう仲間なんだ、そう思うと、なんだか胸が温かくなるような、そんな思いを感じます。


 困ったことがあったら頼ってもいい。

 何か困ってる仲間がいれば、いつでも助けよう。


 きっとギルドというのは、仲間というのはそういうものなのでしょう。

 部活とかやってたら、こういう感じだったのかな?


 うん、私はきっと、いいギルドに入れたのではないでしょうか。




 何気なくログインした日曜日のお昼でしたけど、私はこの日、【Teachers】というギルドに入ってよかったということと、改めてMMORPGの面白さと、二つのことに気づけたんだと思います。






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以下作者の声によるあとがきです。

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 次話から本編の裏となるようなepisodeに入って行く予定です。

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