Side Story〈Airi〉episode Ⅹ

本話は、本編18話直前の話になります。

―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―



 6月14日日曜日、午前10時2分。

 2分くらいの遅刻は許容範囲と自己弁護しつつ、あたしは桜木町の改札を出て、ロンTにバラ柄のスカートというゆめを探した。

 

 お、あいつだなー。

 約束のサンデイズ前に立つ、お嬢様然とした女の子。


 うっわー、可愛いなぁ。

 華奢な身体に、白い肌、あたしと違ってはっきりとした二重の大きな目。綺麗にセットされてるなゆるふわボブの髪の上には、可愛いらしいベージュのキャスケット。

 女のあたしでも守ってあげたくなるような可愛い子が、待ち合わせの場所に約束の恰好で立っていた。

 ちらほらと改札を抜ける人の姿を目で追ってるから、誰かを待ってるのは丸わかりだ。

 普通に考えりゃ、デートで彼氏待ってる女だな。


「へい彼女、お茶しない?」

「えっ」


 時代が何周か前のテンプレートであたしは声をかける。

 びっくりしたのか、あたしが声をかけた女性は怯えたような驚きの声を上げた。


 完全にナンパと勘違いされた気がするけど、一応あたしだってレディースのワイドパンツに、ブラウスだし、見た目は男ではないぞー?

 肌はがっつり焼けてるけど!


「なーんつって」

「あっ、もう!」

「びっくりした?」

「そりゃそうでしょ!」

「あははっ。ごめんごめん。えーっと、一応はじめまして! あたしがぴょんだよーん」

「わかってるよ~。はじめまして、ゆめです」

「ちょっと遅刻しちゃってごめんねー」

「わたしもきたばっかだから平気だよ~」

「そりゃよかった、じゃ、立ち話もなんだし、そこでなんか飲みながら話そうぜ」

「うん、いこ~」


 ゆめをつれだって、駅から徒歩15秒くらいのスラーバックスに移動する。

 さすがに午前中だから、まだ席は空いててよかった。


 あたしはアイスコーヒー、ゆめはなんか甘いのを頼み、席に着く。

 いやぁ、この辺の注文も見た目通りだなー。

 LA内で話したことなかったら、間違いなくあたしは近づこうとしないタイプだし。


「なんか、ずっと話してた人なのに会うの初めてって、変な感じだね~」

「そだなー。ゆめはオフ会って初めて?」

「うん。ぴょんは~?」

「あたしも初めて」

「あ、そうなんだ~。なんか意外~」

「そうかー? そもそもあたし、チャットとかだってLAで初めてだったんだぞ?」

「あ、そうなんだ~」

「ゆめはオンライゲームとか経験あったの?」

「うん~。LAの前も別なのやってたよ~」

「おー、インドア派か」

「そだよ~。休みの日はピアノかゲームって感じ」


 ゲームは見た目通りってわけじゃないけど、ピアノやってるのは見た目通りだなー。

 ほんと、お嬢様育ちの音楽の先生って感じ。


「元カレもゲーム好きだったんだけどね~。最初は」

「ほうほう」

「大学の先輩でね~、付き合い立ての頃は別のMMO一緒にやってたんだけど、なんか周りが結婚し出したらどんどんわたしらも~ってそういう方向に進めようとしだしちゃって」

「あれ、ゆめって今いくつだっけ?」

「わたしは今年で25になる24歳だよ~」

「あたしの3つ下か」


 わけーなー。まだアラサーですらないじゃーん。

 でも、そんな彼女ともう結婚の話進めるって、男の方も早くねーか?


「元カレは?」

「2つ上だった~」

「あたしより年下かー。まぁたしかにそのくらいからちょっとずつ結婚する奴でてくるけど」


 今年27世代かー。それじゃあ、ちょっとは思うところはあるかもな。

 あたしの仲間も、結婚した奴は増えてきたしなー。

 あたしも実家からはまだかー? って言われるし。

 でもそういうのって促されるとやなんだよなー。


「うん、なんかもうパパなった友達がいて、子ども可愛いって言われて、触発されたみたい」

「あー、あるあるだな」

「そのせいかその話聞いた後、1回つけないでしようとしたこともあったし」

「おいおい、そりゃくそじゃん」

「その時も喧嘩なったんだよね~」

「ほんともう、別れるべくして別れたってことなんじゃね?」


 ゲーム内だとのろけばっかだったけど、意外とリアルじゃ喧嘩してたんだなー。


「やっぱそうなのかな~」

「ゆめはそいつといて、楽しかったのか?」

「う~ん、楽しい時もあったけど……」

「けど?」

「最近はそうでもなかったかも~」

「ほほう、なんで付き合ったん?」

「ん~、顔?」

「わーお」


 いいね、取り繕わないその返事はあたし嫌いじゃないぞ。

 まぁ顔はな、あるよな。

 あたしも元カレは顔はよかったし。顔は。

 中身くそだったけどな!


「でもなんか、マンネリはしてたよね~」

「けっこう長く付き合ってたの?」

「うん~。3年くらい」

「おお、そりゃなげぇ」


 あたしそんな長く付き合ったことないなー。

 この年になって、悲しいけど。


「最近だとLAの活動で土曜日に1回帰ったりするのも、けっこう嫌がられてたし」

「え、1回帰ったりって、あのあとどっか行ったりしてたの?」

「うん~。土曜日だし、彼が迎えに来てホテルいくとかくらいだけど」

「わーお」


 お盛んですなー。

 でもやっぱ、実家暮らしだとそうなったりするもんなのか?

 ホテルとか最後に行ったのいつだろうなぁ……。


 でもこの話聞いてると、なんでこいつら付き合ってたんだ?

 そう思えてくるよな。


「ゆめ、ほんとはもう別れたかったんじゃね?」

「え……あ、でもなんか、そんな気もしてきたかも」

「これはもうゆめがフラれたじゃなくて、ゆめがフッただな!」

「おお、目から鱗~」

「もっといい男はいっぱいいるさっ」

「ぴょんはいい人いないの~?」

「あたしにもいつか現れる!」

「あはは~、じゃあわたしとぴょんは仲間だねっ。なんか元気でてきた~」


 そう言ってゆめが笑う。

 独り身仲間ってのは悲しい気もするけど、くそ男と付き合ってイラっとするくらいなら、独り身の方がましだしな。

 うん、大丈夫。あたしもまだ焦っちゃいない……!


「ゼロやんはどんな人だろうね~?」

「んー、だいがゼロやんのこと好きそうなんだよなー」

「やっぱりそうなのかな~?」

「あたし、ギルド入ったのゆめより半年くらい早いけど、あいつら基本一緒だぞ?」

「それは思ってたけど~」

「ゼロやんがどう思ってるか分かんないけど、だいはゼロやんにくっ付いていってる感じだし」

「どう考えてもだいは女の子なのに、ゼロやん気づいてなさそうだけど~」

「今日のオフ会、そこもけっこう楽しみなんだよねー」

「たしかに~。でもゼロやんイケメンだったらどうする~?」


 あ、そっか。この前のセシルの話、ゆめは知らないんだっけ。

 とりあえずこれはまだ秘密にしとこっと。


「イケメンだったら、狙っちゃう?」

「仕事と趣味が一緒だと、条件としては悪くないよね~」

「じゃあ、争奪戦か?」

「まだ会ったわけじゃないのにね~」


 まだ見ぬだいとゼロやんを思い、あたしとゆめはそう言って笑い合った。


 争奪戦って自分で言ってみたけど、まぁ元カノがセシル可愛い系って段階で、あたしよりゆめのが分はいいよな……って、あたしも何考えてんだおい。

 でもゆめはかなり可愛いし、ゆめがその気になったら、これはだいピンチかー?


 まもなくゼロやんがくる10分前。

 今日はゆめを慰めるのと、だいとゼロやんの関係を知るのがあたしの中では最優先。


 こんな風に思ってたんだけどね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る