Side Story〈Yuuki〉episode Ⅻ
本話は、本編57話と58話の間の話になります。
―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―
「お、いたぞ。あいつらだ」
「あの人たちが……」
ゼロさんの後ろをついていくや、あっという間に目的の場所、ヨコバシカメラに辿り着きました。
そしてゼロさんが示す先には、黒髪の綺麗な女性が3人。
薄緑のプリーツスカートに薄手のパーカーを羽織った可愛らしい方と、英字が印刷された白地のTシャツに紺のガウチョパンツを着た日焼けした肌が特徴的な綺麗な方と、そして水色のロングワンピースを着た、びっくりするくらい美人な方。
ええと、たしか可愛い方がゆめさんで、まな板さんがぴょんさんで、巨乳美人さんがだいさんって、ギルドで話してましたよね……。
……なるほど、たしかに特徴を捉えているような……。
おそらくだいさんであろう方のお胸、すごいですね……。
そんな風に私がこれからお会いする方々を予想している間にも、どんどんと3人の女性たちに近づくゼロさん。
そしてそのうちの一人、まな板さん、おそらくぴょんさんが私たちに気づいようです。
少し緊張してきましたけど、まずは、謝らないと、ですね……。
「おー、ゼロやん! こっちだよーって、え! お前いくらモテ男だからってナンパした子連れてくんなよー」
「ちげぇよ!!」
そして私たちが近づくや、いきなりゼロさんが3人の方たちから冷たい目を向けられています。
あれ、四角関係の、争奪戦ではなかったんでしょうか……。
これが恋する女性たちの反応?
なんか、思ったのと違いますね……。
「改札あたりで迷子だった子だ」
「いや、迷子だからってここまで連れてきてどうすんのさ~」
「小さい子ってわけでもないんだから……」
そして私のことを迷子とゼロさんが紹介しますが、否定できないのがちょっと辛いです。
でも、こうして目の前にすると、ほんとに皆さんお綺麗な方たちですね。
おそらくゆめさんと思わしき方は、同い年くらいでしょうか?
「はい、自己紹介して」
ゼロさんから自己紹介を促されたので、私は一度小さく咳ばらいをして私のことを見つめる3人の方々に視線を配り。
「はじめまして、
ちゃんと名前を名乗り、深々と一礼。
あ、でもそういえば、LAの名前を名乗るべきなんでしたっけ……。
「いや、そっちじゃない!」
あ、やっぱりそうでしたよね。
では気を取り直して。
「あ、ゆきむらです」
私が改めて【Teachers】の〈Yukimura〉であることを名乗ると、皆さん納得したご様子を見せてくれました。
あれ、でも私のこと男性だとは思ってなかったのでしょうか……?
「そういうことね」
「わか~い」
「いやぁ、あたしゃゼロやんが犯罪に手を染めようとしてんのかと焦ったよ」
その反応は、まるで私が女性と分かっていたような反応で、ちょっと肩透かしのような気持ちにもなります。
でも性別の他にも、私にはまだ先にお会いしたゼロさんにも話してない嘘が一つ。
意を決して、私はまずそれについて謝ることに。
大丈夫、きっと大丈夫……。
「あの、先に一つ、皆さんに謝らせてもらってもいいですか?」
「ん?」
私の言葉に、皆さんの視線が集まります。
やっぱり、ちょっとドキドキします……。
「私、皆さんに嘘をついておりました」
さぁもう逃げられません。
とはいえ、嘘をついていたという言葉にも、皆さんあまり驚かないご様子。
嘘をつくのは悪いことなのに、怒ったりする様子がないのはありがたいですけど……。
「なになに~?」
「私、ほんとはここに来る資格はないのかもしれません」
「なんだよ、早くいえよー。あたしたちの仲じゃんかー」
資格がない、そう言った言葉にもあまり強い反応を示さない皆さん。
あれ? 意外とそこまで重要ではない、のですか……?
でも、おそらくぴょんさんに「あたしたちの仲」と言われましたが、仲良しと思ってくれていたのでしょうか?
それはちょっと、嬉しいかも。
そんな思いもあったので、次からの言葉を口にするのが、少しだけ気楽になりました。
「あの頃は、どうせ最終的にそうなるだろうと思っていたのですが」
……と、ここで不合格だった日、合格発表に自分の受験番号がなかった記憶を思い出し、ほんのちょっとナーバスになりかけましたが、すぐに気を取り直します。
「私、まだちゃんと教師じゃないんです。職業詐称してごめんなさい」
「あらー」
「ちゃんと?」
職業詐称、ちゃんと言えました。
でもやはりこの言葉にもそこまで大きな反応はなく、思っていたような「【Teachers】の資格なき者は去れ!」風な言葉もありません。
というか、ただただ不思議そうですね、皆さん。
「私、今は塾講師として先生と呼ばれることはありますが、基本的には大学院生をやっております。恥ずかしながら、去年採用試験に落ちてしまいまして……」
なので、丁寧に自分の状況を説明してみます。
「あーそういうことか」
「べつにいいんじゃな~い?」
「そうね、別に証明を求めたわけでもないし」
すると、返って来たのは「なんだそんなこと?」みたいな、そんなご様子のリアクション。
ゼロさんも、言葉はなくとも驚いた様子もないですね。
意外と皆さんにとって、大事ではない、のですかね……?
「今は、院の2年生?」
「あ、いえ、その、1年目です。どうせなると思ってたので……ギルドには大学3年生の頃に入らせていただきました……」
「おーおー! いいね! 意識高いじゃーんっ」
「じゃあ今年23歳なの~?」
「あ、はい。早生まれなので、まだ22ですが」
「わっけーなー」
嘘をついていたのに、むしろ意識高いと言われ、それよりも年齢の話の方が盛り上がったように聞かれました。
……なんというか、こんな反応されるなら前回も行ってよかったのではないか、そんな気がしてきます。
「教採って、もうすぐじゃないのか?」
「そういえば、そうよね」
「たしかに!」
「今日来ても大丈夫なの~?」
そして話題がまた変わり、ゼロさんから採用試験の日程が近いのではないか、ご心配されました。
でも、そこは割と自信がある私です。
「あ、筆記は自信ありますので大丈夫です」
「うわ、かっけえ」
「すごいね~」
「私、不安しかなかったけど……」
「去年も1次は受かりましたので」
「何を受けるんだ?」
「東京の、中高国語です」
「え! あたしの後輩じゃん!」
「ぴょんで受かるなら、ゆっきーもなれるよ~」
「おい、ゆめー!?」
あ、おそらくぴょんさんも、同じ教科でしたか。
なるほど、先輩ですね……となると、色々学ぶことが多い方ということですね……。
「あ、そういえば私たち誰も名乗ってないけど、もう、わかったかしら?」
ぴょんさんの動きを観察し、国語科の教員の何たるかを学ぼうと思っていた矢先、不意におそらくだいさんから、誰が誰か分かっているかについて聞かれましたが、それはたぶん、合ってる自信ありますよ。
「あ、お話の中で、はい。だいさんが巨乳美人と言われてたのも、よく理解しました」
「ちょっと!?」
「まな板のぴょんさんに、可愛いゆめさんとイケメンゼロさんですよね」
自信満々に答えましたが、あれ? なんかちょっと、ぴょんさんにすごい見られてます。
というかゆめさん以外何か変なご様子ですけど……むむ?
と、ちょっと不思議な空気になっていたところ。
「あ~~、その会話にあたしもはいっていいかな~~?」
新たな声がそこに加わりました。
私も皆さんも、その方向に視線を向けると、思ったよりも視線を下げる必要性が。
「合言葉は、イケメンwith美女3人でいいのかな~~? 4人いるみたいだけど~~」
なんだかとても小さい方が。
私はゼロさんの次に背が高いみたいですが、新しく来た方は私からすると頭の上が全部見えるくらい、小さい方ですね。
……可愛い。
「その合言葉を知ってるということは!」
「はじめまして、ってのも変だね~~。あたしがジャックで~~す」
えっ?
あれ? ジャックさんも女性?
おお、嘘つき仲間がまだいたんですね。
なんかちょっと、安心です。
「ちっさっ」
「ゆっきーと比べちゃったら、ほんとにそうね……」
「わたしよりちいさ~い」
「ジャックさん、はじめまして。神宮寺優姫です」
「いや、ゆきむらの方名乗るんだぞ?」
「あ、ゆきむらです」
むむ。
またしても本名を名乗ってしまったところ、今度は呆れ顔でぺしっとゼロさんに頭をはたかれました。
痛くはないですけど……なんか変な感じです。
「や~~、それっぽいな~~、って気づいてたんだけどさ、面白そうだからちょっと遠くで眺めさせてもらったよ~~」
なんだかゆったり話す女性ですね。
ゲーム内のジャックさんもよく『ーーーー』と語尾を伸ばしますが、ちょっと似てる、かな?
「でさ~~、あたしも一つ先に言っとくね〜〜。改めまして、ジャックこと池田しずる、今年で29歳、千葉で学校司書やってま~~す」
「え」
「司書~?」
「嘘ついててごめんね~~」
ジャックさんは本名も名乗ってくれましたが、驚きはそこではなく。
今ジャックさんが言った司書は、教員免許ではなく、司書免許が必要な仕事で、学校で働いていたとしても、先生じゃありませんよね。
ということは、おお、ジャックさんはその点も仲間だったんですね。
より安堵感が高まった気がします。
「ま、その辺の話も含めて、全員揃ったしまずは移動すっか!」
「そだね~いこ~」
そして全員が集合したということで、ぴょんさんとゆめさんを先頭に移動を開始。
それに続いて私はだいさんと並んで歩きます。
後ろにはゼロさんとジャックさん。
あれ? 誰も奪い合ったりはしないんですかね……。
「私とゆっきー、同じだったんだね」
「はい?」
そして道中、隣を歩くだいさんが優しく微笑みかけながら、私に同じという言葉を伝えてきました。
だいさんは、同性の私でもドキッとするくらい綺麗で、テレビで見るような女優さんのような、そんな印象を持ってしまいます。
でも、むむ……私とだいさんが同じこと……キャラクターの性別を偽っていたことですかね……。
顔もお胸も、及ぶ要素がありませんし……。
「私は4年生だった」
「むむ?」
4年生というと、色々ありますけど……。
「ギルドに入ったの」
「え?」
「私も憧れの人が教師になったって聞いて、私も絶対なるって決めてたから、募集したてだったリダのギルドに嘘ついていれてもらったの。ちょうど前にいたギルドも抜けたばっかりだったしね」
「憧れの人……」
だいさんに憧れられるって、どんな人でしょうか?
ギルドでは頼りになる存在で、リアルではこんなに綺麗で、その人が憧れる存在……。天上人ですか?
「その時はまだリダと、結婚する前の嫁キングとジャックの3人しかいなかったかな。よく考えたら募集で集まった最初の2人、嘘つきだったのよね」
ふふ、と懐かしむように笑うだいさん。
その笑顔は、本当に楽しそうでした。
「しかも私もジャックも、ゆっきーと同じく男のふりをしてたでしょ? 聞いてて、あ、同じだなって笑いそうだった」
「そう、なんですか……」
何が面白いのかはよくわかりませんが、同じ境遇だった方がいるというのは、やはり安心しますね。
「嘘ついてたとか、気にしないでいいからね? って、嘘つき仲間だった私が言っても説得力ないかもしれないけど」
そう言ってだいさんがまた笑いかけてくれたので。
「嘘つき仲間ですね」
だいさんの笑顔は不思議です。
ゼロさんの笑顔とはまた違う、不思議温かさを感じます。
だから、私は少し偉そうながら、仲間なんてことを言ってしまいました。
あ、失礼じゃないかな……怒られないかな、と思ったのも、杞憂だったようで。
「うん、そうだね。嘘つき仲間だね」
そう言ってだいさんがニコッと微笑んでくれたのは、なんだか少し嬉しかったです。
今まで年上の方々と話すことなんて、先生や教授ばかりだったのに、お兄さんやお姉さんがいたらこんな感じだったのかなと思わせる年齢の方々との会話は、なんだか新鮮で楽しいです。
「今日のオフ会、楽しもうね」
「はい、楽しみです」
そんな会話をだいさんとしつつ、到着した居酒屋さん。
よく考えたら、居酒屋さんに来るのは紗彩ちゃんが沖縄に行く前以来ですね。
でもきっと、だいさんの言う通りに今日は楽しい会になるような気がする。
オフ会ってどんなものなのでしょうか?
皆さんのお話も楽しみですし、ゼロさんのお話も色々聞いてみたいな。
うん、楽しみです。
―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―
以下
―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―
移動の際の会話は本編にはありませんよ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます