第31話 屋上の狂人
鷹山巌一郎総理の遊説が始まった。近日、解散総選挙を控えている。プロミネンスウイルスで人心の不安が高まる中、SPたちにも緊迫感が張り詰めている。
北伊勢スクエアガーデンで、本日午後三時より鷹山が演説する予定だ。白馬はボスの指令により、現地に駆り出されていた。
周りの高層ビルでは厳重な警戒がなされ、屋上への出入り口は封鎖されている。
「これならセッテンブリーニの奴も入れないだろう」
白馬は高をくくっていた。
ルイージ・セッテンブリーニ。グリムリーパーとは対照的に、仕事の依頼は金次第。無論偽名である。
プロミネンス禍ということもあり、聴衆の数は制限されていたが、それでも鷹山の人柄を慕って多くの市民が駆けつけていた。
スクエアガーデンに面した国道沿いに、黒塗りのハイエースが3秒ほど停止したかと思うと、またすぐさま走り出した。濃いめのスモークで窓の中が見えづらくなっている。白馬はその挙動を見逃さなかった。
白馬が得意の尾行で後をつけると、建設中の北伊勢タワー前にある四天王パーキングに、ハイエースが駐車していた。
「上か・・・」
白馬は軽装になり、足場をよじのぼっていった。
(たしかに、ここからなら射程圏内だな)
途中、現場監督に止められたが、手帳を見せて事情を話すとこころよく承諾してくれた。
ボルト締めを行っている職人のうち、ひとりだけ離れて作業をしている髭をたくわえた男がいた。
「あ~、すまないが、その工具を見せてくれないかね?」
「ああ、いいとも」
次の瞬間、白馬の耳元を金属音がかすめて飛んでいった。
「くっ、ネイルガンか!」
「ネイルガン? 違うな。バールガンだよ!」
解体工事用に使われる大型のバールが弾になって、白馬を次々と襲った。
(こんなのをくらったら、頭が吹っ飛ぶぞ!)
落下防止用の安全ロープの端を掴み、白馬は振り子になった。
スピットファイヤーでセッテンブリーニの脚を打ち抜くと、スナイパーは脱出を試みた。
「お、おい! ここは地上369メートルだぞ!」
腰元の風車が回転し、ドローンの原理で浮遊する。
スクエアガーデンとは反対方向に、狂人は消え去っていった。
グランモナルクの密偵 三重野 創(みえのつくる) @tsukuru296
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