第28話 エスピオナージ

 メシヤの自宅に面した通りに、原色の派手な車が停まっている。


「何をしている?」

白馬が近づくと、カラーフレームの眼鏡をした男が、慌てて車を発進させた。


 すぐ白馬が車のナンバーを照会したが、なんてことはないプロファイルしか出て来なかった。


「お客さんが増えてきたな」

オリンピックが開催されてからというもの、外国人を多く見掛けるようになった。


 東京と三重は遠く離れているが、各国代表のキャンプは地方で行われていることもある。先日もアフリカの代表が行方不明になり、三重で保護されたという報道があったばかりである。


「よお、白馬」

痩せ形の、筋肉質の男が探偵に声を掛けた。


「ダニエルか」


「このあいだはやってくれたじゃないか」

いつぞやの銃撃戦のことだろう。


「ふん、愛車を傷つけられたらかなわんからな」

「お前がそんなタマかよ」


二人は適度な距離感と緊張感を保っている。

いつでもやり合う覚悟だ。


「まあいい。お前も食うのに困らないくらい繁盛しているようだ。いまはオネーギンの周りをうろちょろしているんだろう」


「この業界も狭いもんだな」

悪漢を拘束する立場にいる白馬も、自身の不自由さを感じている。


「そんなことよりも、オブライエンとメシヤを引き合わせたほうが、手っ取り早いぜ」

白馬は一瞬考え込んだ。

(ボスが何て言うかな・・・)


「どういう風の吹き回しだ?」

「プレジデントの、たっての希望だよ」

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