第27話 ゴーイング・コンサーン

 後継者問題が全国各地の優良店を悩ませている。台所事情が芳しくなく、店をたたまざるを得ない会社ももちろんある。ところが、業績が好調にもかかわらず、後継ぎがいないがために、店を閉めるところも多いのだ。


白馬が昼飯を食べに、北伊勢商店街を訪れていた。

「なんてこった」


《誠に勝手ながら、○月をもって閉店いたします。長らくのご愛顧、ありがとうございました》


「すっかり牛肉燴飯ニウロウフイファンの腹になってるのに」


「あら、白馬さん」

レマとエリが揃って通りかかった。今日は短縮授業のようだ。


「何をそんなに恨めしそうに見てるのかナ?」

エリがにやにやして尋ねる。


「腹が減っては捜査は出来ないからな」

探偵は食えねど、プライドはいっちょ前だ。


「メシヤさまのお店に食べに行く、という訳にも行きませんものね」

事情は裁紅谷姉妹も当然熟知している。


「まあいいさ、店を変えればいい。俺は牛まぶし丼を食べに行く」

エリが一緒に付いて行きたそうに、こちらを見ている!


「・・・お前らも来るか?」



白馬たちは、七間通りの老舗に場所を移した。


 他の客の声も気にならない、個室へと通してもらった。

「メシヤの様子はどうだ?」

あまりゆっくりもしていられない白馬は、ストレートに聞いた。


「白馬さんもご承知だと思いますが、来たるべきドゥームズデイに備えて、メシヤさまをお守りするのが私たちの使命です。ですが、その日がいつなのか、ということは、まったくもって私たちには分かりません。いまのメシヤさまはとても落ち着いてはいらっしゃいますが・・・」


「こう世界情勢がめまぐるしく変わってくれてはな」

探偵は、先にとどいた冷茶を飲み干す。


「よく飲むネ~」

エリは、鈴鹿山脈の伏流水を使用した、酒蔵サイダーを飲んでいる。


「ハイパーループで世界を一周した時も大変だったんです。メシヤさまは好奇心の塊ですから。どんどんフラグを立ててしまうんです」

レマが困ったようにその時のことを思い出している。


「アーロン首相ともやり合ったらしいな」

牛まぶし丼を持って、おかみさんがやって来た。


「お耳に入っていましたか。エルサレムへ来たら、嘆きの壁を避けては通れませんから」

話に熱が入っている二人をよそに、エリが先に牛まぶし丼に手を付けた。よっぽど美味かったのだろう。エリは悶え始めた。


「さしあたっては、オリンピックが無事終わるのを見届けないとな」

白馬が核心に触れた。


「無観客とは言え、世界中の要人・エージェントが日本に集結します。それもこれも、ニュー・アトランティス計画の下調べも兼ねてのことです」


「気の早いこったな」

白馬は、ボリュームのあるランチを摂取し、午後からの活力とした。


「プロミネンスウイルスで終末感が漂っていますが、地球はまだまだ安泰です。メシヤさまが存続し続ければ、というGC注記つきですが」


「メシヤにちょっかい出してくる奴がいたラ、私が許さないネ!」

ふわふわした天然系かと思いきや、エリは泣く子も黙るロサドのエージェントである。


(タイミングが出来過ぎているが、これもボスの差し金なんだろうな)

料理店の牛の金像が、邪魔くさそうにマスクをあてがわれていた。

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