第12話 今来の才伎(いまきのてひと)

 巨大サイバニクス企業、ダイバーザインに、白馬は単独で乗り込んでいる。

忍練を積んだ白馬にとって、変装とセキュリティの突破など朝飯前だった。


 地上52階までエレベーターで昇ると、仕切りの何もない巨大なホールに出る。

白馬はつかつかと前へ進むと、三重のロックを次々と解除して金庫の最奥へと到達した。白馬は最後の扉を、ダイヤモンドブレードで物理的に破壊した。


 ウォーニングアラームがけたたましく鳴り響く。

白馬は目的のバイオチップを掴むと、足早にその場を離れた。


 エレベーターの中に戻ると、黒ずくめの大男が右隅に待ち構えていた。

白馬は何事も無かったように左隅に立つ。


「ハクバアヅミ・・・ダナ?」

 大男がゆっくりと問い掛ける


「だったらどうする?」

 白馬は視線を動かさず、不敵な笑みを漏らす。


 次の瞬間、男の左腕が飛んできた。

白馬が右にカラダを移動させて避けると、休む暇も無くスピットファイアーMk2を男の腹にめがけて連射した。


 一瞬男の動きがひるんだかに思えたが、まったく効いていないようだった。

「バケモノめ!」

 エレベーターはそれでも降下していく。


 白馬の打ち込んだ弾が男の服と肉をえぐり、血が流れている・・・はずだった。


 破れた服とえぐれた肉の内側から、メタリックな機構が顔を覗かせていた。

「そういう・・・ことか・・・」


 大男は白馬の首を両手で掴む。

「うっ!」

 必死で男の両手を剥がそうとする白馬。だが、力の差は歴然だった。


 白馬の目がかすんでいく。グランモルナクの密偵は、残りの力を振り絞って、エマージェンシーエスケープボタンを叩いた。


 エレーベーターの床がフリーサイズ落とし蓋の要領で縮まって開いた。

キラー・マシーンがバランスを崩すと、白馬はそれを踏み台にして蹴落とした。


 機械とはいえ、200メートルの高さから落ちたらスクラップ同然だろう。

白馬は、天井のわずかなくぼみにぶらさがり、かろうじて生きながらえた。

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