第20話 無給の殺し屋

 不審死、というものがある。とくにそんな予兆はなかったのに、自宅で倒れているのが見つかり、帰らぬ人となるケースである。


 口封じ、見せしめ、という21世紀とは思えない奸計・暴虐が、いまだこの世界にしぶとく生き続けている。これらの直接手をくだす実行犯は、99%金で動く人物である。


 だがごくまれに、イデオロギーで行動に移し、報酬は一切いらぬという輩もいる。こちらのほうが何をしでかすか分からず、始末が悪い。


「ナイスショット!」

北伊勢カントリークラブにて医者の独田万里雄どくたまりおが汗を流している。彼の横でヨイショする一見さわやかそうな男がターゲットだ。


 英寺えいじシュウタ。無論、仮の登録名だ。内調のデータベースでは“グリム・リーパー”と黒地に赤の文字でおどろおどろしく表示される。こいつである。不審死を装い、殺しまくっていたのは。


 独田は仁術の道に背いていた。中毒性のある薬が広く使用されるように推奨の論文を書き、製薬会社から莫大な報酬を得ていた。薬漬けで人生を狂わされた者は後を絶たない。英寺はこれが許せなかったのだろう。


「英寺くん、君と会うのは今日が初めてだが、例の件はよろしく頼むよ」

独田は何も知らぬままクラブを振る。

「ええ、わたしどもも独田先生のおかげで食っていけますから」

英寺は製薬会社の重役を演じている。


 独田の所業は褒められることではない。だが、司法の手続きも経ず、人を殺めるのは許されない。


 グリーン上で独田がパットの芝目を読んでいる。英寺がパターカバーを外すと、刃渡り13センチの鎌があらわれた。


(なんて大胆な奴だ! こんな白昼堂々と!)

 白馬が蹄鉄ロゴのペイントされたボールを弾くと、真一文字に飛んだそれは狂気の鎌首をへし折ることに成功した。はしこい英寺は、危機を察知し、その場から消えた。


「殺さなくても、独田には俺がお灸を据えてやるぜ」

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