第10話 志能備の掟

 三重県は西方で京都府と接している。その境目に伊賀の里がある。

白馬の驚異的な身体能力は、ここで培われたものだった。


「見た目に惑わされるな」

シンプルにして普遍の警句である。

油断したが最期、寝首をかかれるのは表の世界も裏の世界も同じだ。


「お久しぶりです、頭目とうもく

 白馬は畑仕事をしている、風采の上がらない男に深く礼をした。


 頭目と呼ばれた男は、なにも答えず土を耕し続けている。

白馬も万能鍬まんのうぐわを手に持ち、土を掘り返し始めた。


 白馬がもみの木の下まで耕すと、蝉が止まっていることに気づいた。

「こんな時期に蝉?」


 頭目の鍬の楔が外れ、白馬の鼻先すれすれを通って蝉に命中した。

「全部聞かれておったぞ、安曇」


 刃の取れたつかが白馬に振りおとされる。

白馬は咄嗟に自分の鍬で受け止める。頭目が柄を緩めたと同時に、樅の枝上まで高く跳ね上がった。


 白馬が上を見上げると、次の瞬間、畑が陥没し、あえなく白馬は穴の底に沈んだ。


「ふぉっふぉっふぉっ。まだまだじゃな、安曇」

「里帰りの者に厳しいですね、ここは・・・」



手痛い忍訓を受けた白馬は、頭目につれられ茅葺かやぶきの家屋へと入っていった。



「―――という訳なんです」

白馬は、グランモルナクに関する顛末を頭目に話した。


「安曇よ。伊賀の里は神宮の後衛であり、時の権力者の護衛を果たしてきたことはお前も知っておろう」

「はい」


「グランモルナク・藤原メシヤ。彼の守護のために、お前には過酷な忍錬を与えてきたんじゃよ」











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