第9話 グランドクロスに生まれて

「内調の捜査官が、よくもまあ単独で乗り込んできたものだ」

 ロックフォーゲル大統領は、やや呆れた声でそう言った。


「俺はもう、内調の人間ではないんですがね」

 白馬は、ボスにも発した同じセリフを口にする。


「それを信じろと?」

 ロックフォーゲル大統領は、軽く笑みをこぼした。


(これじゃSFだぜ・・・)

 ボウスハイト・ロックフォーゲル米国大統領。15歳。

白馬は、いまその少年と対峙している。


 白馬は身長181センチと高いほうだが、ボウスハイトは更にその上を行く。

190以上はあるだろう。


「ミスター白馬。君のボスの差し金とはいえ、めったやたらにここに出入りしてほしくはないものだ」


「これはしたり。ですが、今回はグランモルナク絡みです。すでに閣下もお聞き及びのことと思いますが」


「メシヤ・フジワラか。なるほどな。いまは君が護衛をしているんだったな」

「ロックフォーゲル大統領、あなたの部下にも言っておいてください。護衛の邪魔をするなと」

「ダニエルか。あいつはあいつで違う任務を帯びているんだよ」

15歳とは思えない如才なさで、ボウスハイトは白馬に受け答えをする。


「俺も藤原メシヤについて独自で調べましたが、にわかには信じられません。

こんなことが現実世界で起こりうるのかと」


「無理もないな。だが、歴史を振り返ればさして驚くほどのことではないはずだ。

 たとえば君の国では戦国時代があった訳だが、いまの常識では考えられない出来事の連続だっただろう。第二次世界大戦の凄惨さも、現実に起きたことだ」

 それをアメリカの大統領が口にするのかと言いたいところだったが、白馬はグッとこらえた。


「農民から関白にまで昇りつめた秀吉の例もある。メシヤ・フジワラがグランモルナクになったところで、何もおかしくはない」

 ロックフォーゲルは、まるで昔からメシヤのことを知っているかのような口ぶりだった。


「ザイオンの考えることは、俺にはついていけないですね」







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