第16話 イエロー・ジャーナリズム

「白馬よ。プロミネンスウイルスに関わるおどろおどろしい報道、その混乱を収束させるのが今回の指令だ」


ボスの声は、妙な説得力がある。




「Yes ,sir. こんな時だからこそ一致団結しないといけないと思いますが、その混乱に乗じる輩もいますからね」


白馬も思うフシがあるようだ。




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『鷹山を辞任させろ!』『オリンピック利権だ!』『老害議員は引退しろ!』『差別発言は許さない!』『〇〇社の製品は使うな!』





 ネット上に、威勢のいい言葉が飛び交う。白馬は経験上、威勢のいい言葉を発すると、フラグが発動してその発話者が窮地に立たされるという法則を身にしみて知っている。口は災いの元だ。




 白馬のオフィスには、9画面モニターがある。内調の膨大なデータベースと照らし合わせて、匿名のSNSのつぶやきが、誰のものであるかまたたく間に割り出されるようになっている。




 そうすると、そのアカウントとして演じている人物の急進的な発言と、公開されていないプロフィールから判明する、その奥に潜む本音・意外な繋がりというものが見えてくる。






「ま、大方そんなところだろうな。現実は精巧なトリックもなく、小説のような派手な展開も無い」


白馬はキーボードをカタカタと操作し、エンターを押した。




 血気盛んな発信をしているアカウントのプロフィールを丸裸にすると、すべてQ国の諜報部隊にたどり着く。




「昭和歌謡と動物をこよなく愛するこの人も、どこでこんな道に入り込んでしまったんだろうな」




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「大学のテキストだと、イエロージャーナリズムはとっくに絶滅したことになってるんですがね」


白馬が皮肉る。




「デタラメだな。テレビ・新聞、そしてネット情報を見ていれば、すぐ分かることだ」


ボスのシルエットから、肩の力が抜けるのが映った。




「問題をより複雑にして何をやってるんだ、と思うでしょうね。スレていない若者が見れば。もっと協力し合えばいいのにと」




「ああ。そういう真っ直ぐな正論が通用しない力学で、世界は回っているからな」


「正確な事実報道よりも、いかに金が動くかで論を立てますからね」




「しかして、今回はどのようにやったのだ?」


ボスが尋ねる。




「ええ、撹乱者の身元は分かっているので、バッチリお灸を据えてやりましたよ」


「うむ、ほとぼりが冷めればまたぞろ出てくるだろうが、その都度鎮静させるしかないようだな」


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