第2話 消えた婚約者

「俺はもう内調の人間じゃないんですがね」

 白馬は右眉を吊り上げて答えた。

「固いことを言うな。お前の腕を見込んでのことだ」

 シルエットの男の声は、機械加工されている。


 白馬安曇の前職は、内閣調査室の特別捜査官であった。


「ボスとは飽くまで、ビジネスのやり取りだけですよ。

 割の合わない案件は願い下げです」

 白馬は気の乗らなそうな返事をする。

「ヨーコ・ナルミが関与する。と、言ったら?」


 白馬の目に赤みが差す。

「聞きましょう」


 ボス、と呼ばれた男は、一枚の写真画像を表示させた。

「これを見たまえ」

 まだあどけなさが残る、学生服の少年が映し出されている。



「名は藤原ふじわらメシヤ。彼の身辺警護をして欲しい。

 ただし、接触してはならない」


「報酬と達成要件を」

「着手で100。ひと月ごとに1000。一年護り通したらプラス億だ」


「いくつか聞きたいことがあります。

 この少年、特段VIPには見えませんが、彼がなにか?」


「白馬、事情を聞かないことは報酬に充分反映されていると思うが」


「では、これだけ教えてください。

 藤原メシヤとヨーコの関係は?」


 少し間のあってから、ボスは口を開いた。

「お前の前任者だよ」




 

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