第5話 ミッション・イン・ミッション

「出来ればここにはあんまり来たくなかったんだが・・・」

 白馬は、せいヨハネ北伊勢教会きたいせきょうかいに訪れていた。カソリック教会であるためか、きらびやかな外観をしている。白馬の出で立ちも派手そのものなのだが、ここでは相応しく見えていた。

 

 探偵は隠密おんみつにという原則もなんのその、白馬はマルーン色のジュポン、スノーホワイトのドレスシャツ、ゴールデンオリーブのジャケット、金糸きんしのネクタイ、ヴァンダイクブラウンの革靴を身にまとっている。


「おや、安曇じゃないですか」

 白馬のことを下の名前で呼ぶ人間は限られていた。

「よお、ベネディクト」

 ベネディクトと呼ばれた男は、聖ヨハネ北伊勢教会の神父である。

 

「あなたがここへ来たということは、何やら一波乱起こりそうですね」

 白馬は神父の発言を否定できないので、苦笑いを浮かべた。

「藤原メシヤに関して、と言えば伝わるかな?」


 白馬のセリフを聞くと、ベネディクトは一瞬表情をこわばらせたが、すぐ口元を緩め奥の控室へと案内した。




 半時はんときほど過ぎただろうか。外で賑わしい声が聞こえてきた。

「エル、待ちなさい!」

控室の扉が開き、白のクーバース犬が入ってきた。

エルという名前なのだろう。このクーバース犬は白馬をめがけて駆け寄ってきて、おもてなしをするかのように小刻みなステップを踏んでいる。


「まあ、めずらしい! エルがこんなになつくなんて、メシヤ以外では珍しい わ!」

「マリア、席を外してもらえますか。いまお客さんがみえていますから」

 マリア、という名の少女は、おとなしく神父の言うことに従った。

「はい、ごめんなさい神父様」


 マリアが退室しようとすると、立ち止まり、振り返った。

「あの、どこかでお会いしたこと、ありませんか?」

 白馬は少し沈黙したあと、答えた。

「いいや、初めてだと思うぜ」


「そうでしたか。わたしの気のせいでしたね。神父様、こちらの方は?」

 ベネディクトは、どこか物憂げだった。

「なあに、私の古い友人ですよ」







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