第6話 チャリス・イン・ワンダーランド

「順調のようだな、白馬」

 いつものメッセージ映像からボスの声が聞こえる。

「あんな田舎の23号で銃撃戦があったら、市民は不安がりますよ」

 順調という言葉に、白馬は一言いい返したくなる。


「今回の指令だ。小包にチャリスが入っていただろう」

「チャリス・・・聖杯、ですね」


「そうだ。こいつをめし屋フジワラの食倉庫まで持っていって欲しい」

「俺はいつから宅配業者になったんですかね」

 ボスの指令はいつも突然だが、あまり詮索しないことも報酬の内だった。


「そのチャリスをめぐって、ダニエル・ブラッドソードがメシヤに接触する。

 なにかあったら、即刻排除すること。以上だ」


「でしたら、そもそもコイツを持っていかなけりゃいいんじゃないですか?」

「そういうわけにもいかんのだよ」




 北伊勢市郊外、ふたたび白馬がめし屋フジワラに訪れている。まだ主はいない。食倉庫にはチェーンキーが掛かっていた。4桁である。

白馬はしばし考えると「0141」に合わせた。

 

「もっとセキュリティを厳しくしないといけませんぜ、グランモルナクさん」

 合言葉は“美味しい”だった。


「大したもんだ。綺麗に整理整頓されている」

白馬は倉庫中を見渡すと、チャリスの木箱を棚の下段に置いた。


「さてと、俺はどうしようかな」

倉庫にはロフトがあった。上の空間も有効に使おうという設計者の意図が感じられる。

「あそこで待つか」


 白馬が段ボールの影に隠れて待つこと数十分。メシヤと一人の少女が入ってきた。

なにやら今日の献立について話し合っている。

(あれがメシヤか。もう一人は妹だな)

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